目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第21話

婚約者様の膝に乗せられて、

抱え込まれている様な姿での挨拶。

当然その姿に南の公爵令嬢は驚きを隠せない。

変な言い方だけど「はしたない」って奴なのだ。

高貴なるお方…と言っても一応立場上は同じ公爵令嬢なのだが、

その高貴なるお方をお迎えしているのにも関わらず、

私が取っている格好は婚約者様にべったりとした格好。

「ようこそおいて下さいました」とは言ったものの、

どう考えても上位者が下位の者を出迎えたような、

礼儀に準じた心配りの出来ている恰好とは言い難いのだが…

もうこれ以上格好を気にしている余裕がなくなりつつあると言った方が正しい。

一秒たって早く帰ってドレスを脱ぎたいのだ。


―お出で下さいました―


なんて言いたくもないが婚約者様は私の事をよく理解していらっしゃるから。

私をしっかりと抱きかかえて更に動かない様に力強く私の体を両腕で固定して、

膝の上から動かない様に乗せているのだ。

スカートの中で思いっきり大きくガニ股に開いている両足と、

ドレスのスカートを美しく広げる為に作られている座面が、

少々低めに作られたカウチは、更に強固に私が動かないように細工されている。

その座面が低めのカウチは婚約者様が両足を揃えて座ると、

座る位置の低さから私が跨っている婚約者様の両足は少々立気味になり、

跨っている太腿は当然であるが斜めになるのだ。

するとどうだろう?

身に着けた固い矯正具と下着は婚約者様の履いているズボンの上を、

スルスルと滑り婚約者様の方へ滑り落ちる形を自然と取らされるのだ。

股を開く事で少しばかり呼吸が楽になる代わりに滑り落ちた私は、

婚約者様から離れる術を失うのである。

その上から片腕はお腹に回され腰の部分をしっかりと固定されれば、

私がいくらぐったりしているとしても、

その固すぎる腰回りを締め上げる矯正具とコルセットは、

私が婚約者様の上で倒れたりすることを許さない。

背中が自然と婚約者様に凭れかかる形を取って、

私の頭は丁度婚約者様の胸元にトンとぶつかり、

まるで高めの背凭れがある椅子に座っているかのよう。

そして腰回りをガッチリと固定された上で今度は脇下付近から、

斜めに手を通して肩を掴んでいる様に見せながら、

首を支えて貰えば私は全身から力を抜いてがぐったりしているとしても、

令嬢らしくおずおずと座っている様に見えるのだ。

ふんわりスカートを広げるパニエと腰を形作っている固い矯正具の、

所為で私がはしたないガニ股開きをしている事は解らず。

私を乗せて太腿を斜めにしている婚約者様の両膝は、

潰れるはずのスカートの形を整えて、

その上に手を乗せればスカートの不自然さなんてない。

私を大切にする婚約者様の出来上がりなのである。


―さっきまでの激論と謁見の間での私に対して―

―戦いを証明するために傷だらけの腕に見せると言う―

―令嬢としては最大級の辱めを受けた私は?―

―それらで傷ついてしまった(笑)私の心の傷を癒すべく―

―婚約者様にやさしく抱きしめられて?―

―メンタルケアを受けている真っ最中なのだ?―


一応、南の御令嬢にはそう見えていてもおかしくはないのかもしれない。

けれど南の公爵令嬢は当然であるがその事に苦言を呈する事も出来る。

今の私と婚約者様のいる場所はあくまでも「王城」なのだ。

同格の令嬢。

同格の立場であるがゆえに建前上は、礼を尽くすのが当然だろう。

けれど、婚約者様は良く私の状態を解っていらっしゃるのだ。

流石に限界なのだ。ドレスが苦しすぎるのだ。

予定通りなら私は既にお屋敷に帰宅してドレス脱ぎ捨てて、

マッサージ辺りでも受けている。

そのつもりだからこそ苦しすぎる事でも私は「我慢」していたのだ。

こうも登城時間が伸びてそして会議に参加してやっと帰れる。

この苦痛から解放されると思っていたその時に唐突の先ぶれ。

南の公爵令嬢の訪問は。

当に過ぎている私の我慢の限界を当然の様に続けろと言う所謂、


矯正具拷問具を外すな―

―苦しみ続けろ―


と言われている様な気分になるのだ。

だが南の公爵令嬢は今日の謁見の所為で未来がどうなるか解らなくなった。

その責任の一部は私にある事は確かなのである。

私が呼び出されたのはヒロインを無理矢理、屋敷に連れて帰っただけだが。

そのお陰で?とんでもない問題を巻き起こす事になっているのだからねぇ。

イベントを壊した後に王子とお話をしたはずなのだ。

まぁ…

あの短時間であっても王子は汚染されたみたいだから、

相当周囲の思考?をバカに出来る汚染力というか、

感染力を持っていたのかもしれない。

言うまでもないけれど、よく聞くシナリオの矯正力なんてモノだったら、

どうしようもないけれどね。

シナリオライターに愛されたヒロインちゃんにどう抗ったとしても、

勝ち目はないって事になるのだから。

けれど少なくとも構築した防衛網で人知れず辺境の村々で無下に、

村が襲われ虐殺され続ける隣国からの「削り」はなんとか終わらせる事が出来た。

それだけ変化させる事が出来た事をゲーム通りに進まない事を、

証明できた事を喜ぶ出来事なのかもしれない。

乙女ゲームの知識に助けられながら、

生かされたと思えば私も相応に恩恵はいけているのだ。

シナリオライター」を信じないといけない部分も当然にある…

それは王子が奈落の底に転落したとしても仕方がない必要経費だと、

思うべきなのかもしれない。

ヒロインの為の世界になどしてたまるかと考えていた部分はあるのだけれど、

まだ私は少なくとも「乙女ゲーム」というヒロインの持つ素敵パワー(笑)が、

終わったとは思えないのだった。

そして、愛を育めていたどうかは解らないけれど、

未来の悪役令嬢として仕立て上げられヒロインの為に「断罪」される、

南の公爵令嬢は「今」はまだ悪役令嬢とし振舞う必要がない以上、

素敵な未来の王家の王妃と言う立場に固執しても別に私は驚かない。

だた…

北の領地の現実を知っていたかどうかは別の問題だとは思う。

平和なお花畑の南の公爵家2家と王家で完結したこの王都は、

ヒロインと言う「ドラマを作る」異分子が無ければ、

結局「北」を見捨てる事だけは確かで、

南だけで作られる秩序は当然であるが「北」を盾として扱い、

その侵攻に耐える役をその痛みを引き受ける事だけはしなかっただろう。

結局犠牲を強いられるのは北だけ南はヒロインが退場したとしても、

基本的にその考え方を変える訳じゃない。

王家と南の2家で行われる密談の様な事とその結果出来上がった、

北を犠牲にし続ける戦略。

「北」を犠牲にぬくぬくと育ったこの王国は最後まで隣国から、

侵略を受けていると言う事実を認めて来なかったのだから。

戦うと言う考えは当然生まれない。

その事が如実に表れているから、先程まで開かれていた会議。

王子をどうやって支援するのかを決める会議は訳の解らない言い訳じみた、

主張しか出で来ないと言う結果となっていたのだから。

南の公爵令嬢は椅子にこそ座ったのだがそこから何も話さない。

ただたた私と婚約者様の状態を見つつ。

私達を観察するようなそんな感じで何も言わないのだった。

さっさとお話して用件を済ませて欲しいのだが?

そわそわしだしたと言うか顔を赤らめて何も言わない。

…ああ、刺激が強すぎたのかもしれない。

まぁ男女がべったりとくっついていると言う姿を曝す事自体が、

はしたない事とされる世界なのだ。

南の公爵令嬢には婚約者様の姿は刺激が強すぎたのかもしれないわ。

ただどうでもいい事だがこうして、ベタベタすることを気軽に許す理由は。

一応「婚約者様」だからと言う点もあるのだが何時「誰」が「いなくなる」か、

判らない生活をしていたのだ。

カナリアをする前「私」直属の親衛隊だった人に「私」を、

守らせる為にさせていた事でもあった。

子供の「遊び」であるのだがよく私を護衛する人の一人に、

だっこ「させていた」時期がよくある。

女性騎士男性騎士問わずにだ。

それも「本来」なら許されない事であるのだ。

立場をわきまえよって奴なのだがそんな事はどうでも良かったのだ。

打算が無かったとは言わない。

けれど守られる「私」はその時平然と

「私の為に死ね」と言わなければいけなかった事がきつかった。

その報酬は当然お父様が払っていた事も知っているし解っていた。

だがそれでも「私自身」が何かを「納得できなかった」部分もある。

自身の勝手な不満とは解っていても、

それでも何かを周囲に与える事が出来たらと、

何の気なしに始めたのが「我儘お嬢様」の触れ合い(笑)なのだが、

思いの外、近衛の方々はこの「我儘お嬢様」との触れ合いは好評だった。

肩車や抱っこは当然として、潜り込み始めたかった当時は少なかった、

兵士専用の訓練施設に興味があるふりをして潜入して、

模擬剣を振う真似に訓練所付近で運動と言う名の「遊び」は当然、

カナリアとしての活動の前段階のためだった事も言うまでもない。

そうやって男女関係なくその場になじみ訓練所の常連となった事。

令嬢らしからぬ行動を「我儘お嬢様」で通した部分もあったが。

少なくとも護衛に必要以上に近かった事から、

私と戦った「戦友」達は「何」を守っているのか、

それを正しく理解していたと思う。

「故郷」を文字通り命懸けで守る事。

だから「私」が傷だらけになる事も許してくれたし、

文字通り命を懸けて戦ってくれたのだ。

確かめ合っていた「生きている事」を確認すると言う意味で、

触れ合う事は重要な事だったしね。

とはいえ流石に年頃になり婚約者様との婚約が決定してからは、

当然その「確かめる役目」は婚約者様が引き継いで、

その意味も多少様変わりしてはいるものの…

少なくとも私自身には必要な事として完結してはいる。

あの戦場で私を抱きしめてくれて、

支えとなってくれた何人もの近衛がいたから。

「今」私はここで、婚約者様の膝の上で「ぐったり(笑)」できるのだ。

結果論で「納得する」とかそんな「考え」では無くて、

感じさせてくれる人達がいたから私はカナリアを続けても、

最後まで潰れなかった。

あの時抱きしめてくれた「人達」がいたから、

あの戦場で「温かく」感じる事が出来た「戦友」がいたから。

私は「心」も腐りきらなかった。

私にとって触れ合う事。

誰かに体を預ける事は「生かされている事」の確認でもあり、

当然「生かされている」からこそ、その「恩」を生かしてくれた本人か、

その「本人」が残した大切な「誰か」に帰さなくてはいけない。

王宮での苦しい時間だってそう考えれば我慢は出来るのだ。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?