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第19話


「王子を辺境に移住させる事は決定事項で、

その為の護衛を選抜する事となるがその何名ぐらいが必要なのか?

そして資金はどれだけ持たせればよいのかを検討し決定する」


そんな宣言の下始まる会議に既にあきれしか出て来ない。

当然前線の町と言う物資を左から来た物を右に流すしかない場所で、

金を使って物を手に入れられると思っていること自体考えが足りないのだ。


王子が生活する事になる前線の町がどんな場所なのか全く理解できていない。

当然であるが「前線の町」とは「町」と名付けられてはいるが。

その実兵士達の休息所でしかないのだ。

前線で戦い消耗した備品を使い古した物から新しい物へ変更して、

1日程度の休息を取り最低限の食料と新しい装備を持って前線へと向かう、

物資の補充場所でしかないのだ。

当然敵の奇襲も5日に一回は受ける事になり、その集積地は何度だって壊される。

それそ数名の人員を犠牲にしてでも、

最終防衛ラインとなる場所で完璧に迎撃する事でその時間を稼ぎ出す。

いわゆる私がやっていた「カナリア」の生存率を限界まで引き上げた場所なのだ。

運ばれていく物資は使い道が決まった物しか「町」に送られない。

そしてその送られる物資も使用者まで厳密に決められているのだ。

最前線で戦う兵士達には十分戦える装備を。

それを目的に作り上げた「カナリア」のネットワークに、

王家の物資を運ばせる余裕なんてないのだ。

まして金を出したって渡せる物なんてあるはずがない。

ギリギリの戦いをさせているのは、あやふやな態度で支援してこなかった、

「王家」の所為なのだから。

4人一組で互いをカバーし合い前線で敵の集合場所を偵察しながら、

侵攻や斥候達を探して殺して行く。

それを3交代で24時間休みなく行い続けるのだ。

敵の集団の発見の遅れは最終防衛ラインの準備が間に合わなくなることを

予防し、強大な戦力が発見される予兆があればお父様方が直々に、

対処する事になるのだ。

発見が遅れれば防衛ラインは大きなダメージを受け損害がでかくなる。

だからこそ辞める訳にはいかないしこの形を維持できているのは、

お父様方の努力の賜物なのだ。

長く粘り強く戦い続ける形なのだ。



「さて護衛としては10名程度で十分な資金で充実した装備を、

現地にて用意できる様に手配するこの辺りでどうだろう?」

「流石です国王陛下。

王子自身も十分お強い。

これだけ充実した物が与えられれば戦い続けられるでしょう」

「やはり王家のお考えは深くて素晴らしい」


王家と2つの公爵家でのみ進められる理想の空論は、

聞いていて笑いが込み上げてくるほどに素晴らしない様だった。

顔を扇子で隠しながら隣に座る婚約者様は見ればその表情は、

王子の命もそこまでなのだなと、同性としては同情している様にも見えた。

会議は順調に進み国王陛下と南の公爵家の料理に砂糖と蜂蜜をぶっかけて、

煮詰めた物の様な理想論は果てしなく続けられるしなにより、

止める物もだもいなかった。

でなければこの国はこんな事になってはいないでしょうからね。


「では、この草案で良いとしよう…

北の公爵家としてもそれで良いな?」

「私達に異論はありません」

「何かいいた事でもありそうな気がするのだが?」

「そう決めたのならそれで宜しいのではないでしょうか」


ただ流石にこのままでは王子は5日で襲撃後死ぬことが確定なのだ。

お小遣いもった子供達が10人でピクニックに行って、

5日後に全滅となるとそれで良いのかとは確かに思う。

それで死傷の連絡すら来ないのだ。

婚約者様としても死亡通知位は出してあげるべきなのかとも思ったのだろう。

ちょっと異論がある様に見せて、意見を言うチャンスを作ったのだ。

けれど、その異論を南の2家の公爵家は良しとしない。


「…いちいち突っかかるな。

国王陛下がお決めになった事だ」

「そうでしょう。ですから異論は述べません。

必用ないのでしょうから」


明かに今までの充実の会議と言う名の妄想は、

聞いているこちらとしても現実の知らなさっぷりが露見して耳が痛くなる。

南の公爵家は経済には強いのかもしれないが、戦いとなれば点で駄目なのだろう。


「ならば、その異論とやらがどんな物か…

聞いてやるから話してみよ?」

「…では、お言葉に甘えて。

結論から申し上げましょう。

王子は今の決議通りに支援をすれば5日後に死にます」

「そんな!」


婚約者様の言葉に一番拒否反応したのは王妃様だった。

まぁなんだかんだ言っても我が子は可愛いらしい。

ともかく宣言された婚約者様の現実を一つ一つ説明される度に、

南の公爵家の面々は顔面を引きつらせるのだ。

どれだけ自身がお花畑で物事を考えていたのかを知らされ、

絶望するしかかなったのだ。

最大戦力となる両公爵家の代表者が前線に張り付いていると言う現実が、

どういった事なのかをこれまで何も考えていなかったと言う事なのだ。

その説明を聞く度に後ろにいる南の公爵令嬢も表情が引きつっていく。

婚約者はオブラートに包まずに濁さずどうやって王子が死ぬのかを、

淡々と語り続けるのだ。


「切り殺されますね」


から始まり、


「飢え死にでしょうね」

「支援が間に合わないでしょうね」

「装備が無くなりましたね」


結局その先陣にいる戦闘集団を支える為にどれだけ、

後方支援が必用なのか。

守るためにどれだけの犠牲を出すのかをこの時王子と言う、

大切な存在を送り出すからこそ、王家は本気で逃げない討論をするのだ。

それは送り出してしまったら本当に帰って来られないと想像ができる、

艶めかしい前線の実態を知っている婚約者様の現実味溢れる説明が、

また納得ができる内容で語られるのだから。

それは私がカナリアとして戦った期間と同じ位、婚約者様も前線に、

張り付いていた事を意味している。

ある意味私以上に部下を失ってもいる。

私は知らせて前線が膠着するまで維持できれば後は後続に任せて、

下がらせて貰えた戦いもある。

けれど婚約者様の戦いはその引き継いだ後、敵の迎撃が完了するまで、

その場で踏ん張り続けるのだ。

それは私以上に人がいなくなるシーンを見続けた事に他ならない。

そのリアルな死に際を話してあげれば、

私の話す言葉以上に恐怖を南の2家も王子を差し出す王家も感らじれるだろう。

会議のし方は少しずつではあるが変わった。

変わらざるを得なかった。


南の公爵家と国王陛下が出した結論を、

婚約者様が判断する。

金を持って行っても意味がないのであれば、

南の公爵家御用達の武具屋で装備を作り持たせる。

食料も王都から運ぶなと…

その提案の度に王子の生き残れる日数が告げられ絶望するのだ。

そう王都で販売している南の公爵家御用達の武器屋の武器なら…

一日生き延びられるかもしれないがその次の日、剣はボロボロで折れ、

その果てに王子は切り殺される。

そうならないようにするには、荷車一杯の剣を町に用意して、

毎日毎日新しい物を使い続ける事になるとか。

それだけの剣を誰が届けるのか。

前線で一つの町となる王子の住処を誰が作るのか?

当然婚約者様と私のお父様が用意した町に住まわせる事は出来ない。

新しい設置場所は当然更に国境の近くに進んだ前に作ってもらう。

だって「戦争」はないと宣言したのだから。

その場で王子を生き延びさせるためにどれだけの「近衛」がいるのか。

どれだけ配備すれば「王子は何日生き延びられるのか」を婚約者様は、

淡々と計算して答え続けるのだ…

支援の金額と内容がどんどん肥大化して…

その強大な資金がどれだけ侵略を跳ねのけるのに必要だったのか、

それを淡々と婚約者様に話させるのだ。

その結果に絶望しながら対案を述べ続ける王家と公爵家。


その「途中」で何故ヒロインの男爵家が呼ばれていたのかも判明する。


「北の公爵令嬢にしっかりとお嬢様を躾けて戴けるのだ…

そのお礼をしなくてはいけないな?」

「…そ、その通りでございます」

「随分と羽振りも良いみたいだから、喜んで教育してもらえる見返りを、

出すのが当然だと思うのだ。

その機会を与えてやろう…」

「はいっ!はいっ!大変喜ばしい事です!よ、喜んで支援させて戴きます」


それは、私が無理矢理連れ攫ったヒロインを救うと言う名分の下、

支援を減らす事を画策していた王家にとって別に用意された小銭が入った、

財布を用意したと言う事だったのだ。

王家は王子を救うべく少しでも多くの資金を用意する為に、

ヒロインの男爵家を資金源として利用すると言う事になったのだ。

更に私の「傷だらけの腕」を見てしまったと言う負い目もある。

当然言いふらせば取り立ては厳しくなり男爵家全員に口封じとして、

首輪をつけたような物だった。

言いふらしたければ言いふらせばいい。

その代り、その見返りとして家が破産するまで公爵家の代りに、

王家が取り立ててやると言う意味なのだろう。

えげつないとは思うけれど…

あの男爵家の羽振りがいい理由は未来を知っていたヒロインが、

色々と助言したからに他ならない。

本当なら貧乏な男爵家みたいな?

そう言った雰囲気であるはずだし、

義理母となった男爵夫人とは仲があまり良くない筈だし、

その直系の妹とは絶対にそりが合わないはずなのだ。

所が慕っている所を見るにどう考えても環境を良くしようと、

ヒロインは周囲を改変したって事であり、

そうでなければ男爵家から「見捨てられて」国王陛下に、

直訴なんて出来ないし、その直訴をするだけの資金力だって、

男爵家にはないはずなのだ。

ゲームの知識を利用しまくった男爵家は家族仲良しハッピーな環境で、

それならヒロインと王子が急接近の納得もいくのだ。

未来の王妃ともなればって、事でしょうよ。


―男爵家の特別な支援は当然決定されて―

―他の2家の王家への支援も決まるのだ―


それは徐々に現実に即した支援へと変わっていき、

何とか王子が生き延びられる町が作られる可能性が出来ていたのだった。

けれどその代りに王子を守るために死ぬ近衛兵は思いの外多そうだった。

けれど見て見ぬふりをして来たツケを利子付きで支払うと言う事は、

そう言う事であり、もう王子を見捨てられない王家は、

これから侵略戦争と言う事から目を背けられなくなったと言う事だった。


北にとっては最高の会議結果で南と王家にとっては地獄の結果となったのだ。

けれどその決定即日発行され連れていかれる近衛兵は決定される。

王子は一日だって王都にいる事を許されない。

たとえついて行く兵士がいなくとも、

用意した馬車に詰め込まれている王子は北の公爵家の御車の手によって、

最前線の「町へ」と問答無用に連れていかれて放置される。

「北の公爵令嬢」に言った「暴言」への清算は、

その即日行わなくてはいけない。

でないと婚約者様が更に怒り狂う。

との事で…

まあ、私としても一日でも前線の町で暮らして理想が現実となる様に、

動いて下さることを求めるだけだから。

婚約者様の考えとは一緒なのである。

だた、国が動いた。

そして戦わせる事が出来た事で、数年後の大侵攻の時に、

王家も巻き添えに出来る事になったことは大きい。

私達の痛みをしれ。

そして行き場のない怒りと失って帰ってこない人の事を少しは考えるがいい。

もうぬるま湯につかっている事は許さない。

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