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第18話


大き目の立派な扉で、

二人並んで入る事が出来る大きさに作られた扉は、武装付きの番兵に、

守られた厳重な場所に仕立て上げられていた。

私達が歩いて近付けばその番兵はおずおずとその扉を開く事になる。

扉の中は大きな丸いテーブルが中心に一つ。

周囲には椅子が並び、各々が座る場所が決められている場所だった。

数少ない公爵令嬢として王族にお目通りかかる時に何度か連れて来られた、

場所ではある。未来の公爵令嬢として、王家に忠誠を誓い挨拶をする。

この世界の公爵令嬢としては普通の儀礼事の時だったと思う。

座る場所は完全い決められ整えられた場所と覚えている。

当然一番奥には、国王陛下とその王妃。

左には南の公爵家2家の公爵閣下と公爵夫人が座り、

その後ろにはテーブルには着かない形で血縁関係者。

跡取りとかが座る椅子がある。

そこには当然謁見の間にいた南の公爵令嬢がいたのだ。

そして何故かあのヒロインの男爵家の面々もその場にはいたのだ。

当然であるがその位置は一番テーブルから離れた場所にあり、

発言権は話しかけられた時にしかない。

けれど…

彼等の座っている椅子は…

私はスッと扇子を取りその男爵家の3人座る面々の椅子を見ないようにした。

そして南の公爵家の反対側のテーブル席。

そこに並ぶべき「北の公爵家」の所に座る人は誰一人としていない。

私達北の公爵家の面々は代理に過ぎず、当然呼び出されてはいるものの、

その「代理」という立場上質問に対して返答は出来るが、

意見を述べる事は許されないと言う「代理」故の制限を受ける事になっていた。

当然であるが国と王家が北の特例を認める理由はこの辺りにもある。

都合の悪い事は喋らせない。

南の2家と王家でのみ国の運営をするには丁度良い言い訳が出来るからだ。

―意見をしたければ公爵閣下自らが来るべきだ―

それが今までのやり方だったのだ。

なので、私達は正式の場において座れる場所は、

南の公爵令嬢が座っている場所と同じく、

テーブルから椅子一脚分後ろの位置となり、

当然テーブルの椅子に座る事は許されない。


けれど…


テーブルに置かれている椅子は2脚しかなく、

座りやすくテーブルから引かれたその椅子も、

テーブルに隣接する形で置かれているのだ。


あるはずの北の公爵家夫妻の椅子4脚分の椅子がないのだ。

それは屈辱的な事でもある。

その意味を理解できていないとでも言う気なのか?

それとも私と婚約者様を怒らせたいのか?

王家の考えはどっちなのかと言いたくなる。


「どうしたか?

さぁ座られよ」


国王陛下は当然着席を促してくるのであるが婚約者様は動けない。

というか動く訳にはいかない。

だって「私達の席はない」のだ。


「国王陛下…何時から我が婚約者と私達の両親は、

「死んだ」事にされたのですか?

それと何故男爵家の面々が私達の両親と言う立場となったのでしょうか?」

「…なんだと?」


この場の椅子は全て特注品であり参加する事になった貴族の為に、

一脚一脚特注で作られる物なのである。

それは生涯その人専用の椅子と言う事であり、

その専用を示すために家紋が入れられ特別に用意された椅子なのだ。

ご丁寧に私と婚約者様の椅子はそのテーブル席に用意され、

私達の両親の専用の椅子は部屋の隅で男爵家の面々が利用している。

椅子は会議場の立場を表し本人がいなかったとしても空席として、

扱われるべきなのだ。

だってそれが「その席があること」自体が、

王国内での立場を表しているのだから。

そうやって厳密に決めて宮廷ルールとして守らせて来るくせに、

王家はその事を軽んじる事を許されるのかと憤りを隠せない。

何より席が無いと言う事は「もうこの場に来ることが無い」と言う意味で、

扱われる事になるのだから。

それは王家として

―北の2家夫妻は死んでいるから席はもういらない―

と無言で宣言しているに他ならない。

そこまで…

そこまでバカにしないと気が済まないのか?


「申し訳ありません!大変失礼しました!

何分時間もなかったものでありあわせの物でご用意したのです!」

「なるほど?私達の両親の席はあり合わせの物で十分と言う事ですのね。

よく理解しました」


ポロリと零れる言葉に呆れと言うか…

失望が隠せない。

厳格さを求められそれに従っていても結局自身は敷いたルールを、

破り捨てて従っていない。

この場が南と王家だけの会議室であることが良く解る。

宰相だかが言い訳がましく言葉を並べるが…

どれだけ必要のない事としてそ雑に扱われていたのかが理解できる。

国王もこれ以上の失態をする訳にはいかないとばかりに声をあげる。


「違う!違うのだ!」


そうではない。

北の公爵家を粗雑に扱うつもりなど無いと言いたかった。

けれどその言葉を言うだけの説得力が既に王家には無かった。

そして同時に南の2家の公爵家は黙って見ているしかない。

ここで王家を擁護しようものなら、

婚約者様のその矛先が自身に飛んでくる事を理解出来ているから、

言う事は出来ないのだ。

当然と言えば当然で王家の失態の尻拭いをすれば北へ莫大な、

支援を求められる事だけは確定しているのだから。

南の2家はこの会議を王子の派遣を全て王家に擦り付けて逃げ切る事。

それだけを考えて置けばいいのだから。

少なくとも今はそう思っていられるのだ。

南の公爵令嬢をこの会議に参加させている理由もなんとなく理解できる。

それは直ぐにわかる事でしょうけれど…

ただ王家は「場」を整える事を怠りそしてまた失態を犯した。

それが普通の状況であるなら問題はないが、今は頼るべき相手となっている、

北の2家に対して王家に失望を持たれる形となり会議前から険悪となり、

状況としては最悪の事態なのだ。

だが…それでも辞める訳にはいかない。

婚約者様は私と自身の椅子を持ちテーブルから引き離すと。

私達がいるべき場所とさだめられていたテーブルから少し離れた位置へと、

置き直して私をエスコートするとその隣に並んで座ったのだ。

それは当然両親がまだ健在であることを示すためでもあった。


「確かに私達は深い中であり将来は夫婦となるでしょう。

両家の両親共々認めている事でありそれは決定事項で、

覆される事は絶対にない事ですし?あってはならない事です。

ですがそれは将来であり「今」私と婚約者は婚姻関係にはないことは、

承知しているはずです。

未だに北の2公爵家は健在であり、

その地を納めるのは私達の両親であり私達ではありません。

それをお忘れとは言わせない」


婚約者様の言葉は力強くそして有無を言わせない力が備わっていた。

それはもう2家の代表として公爵閣下を熟す事が出来る威厳も出来ていた。

同い年のはずなんだが、この差は男と女の差だけでは埋められない何かを、

王家に見せつけている様にも見える。

けれど、裏を返せばそれだけ軽んじても良いと思われていたって事だった。


慌てて使用人達が動き出しガタガタと音を立てて壁際の男爵家には、

代りの椅子を用意しその立派な椅子をテーブルへと並べ直したのだ。

手際の悪さと私達を怒らせる事には定評がありそうだと思いながら、

私と婚約者様はそれ以上何も言わなかったのだけれど。


「…それでは、4大公爵家と王家の重大会議を始める」


その国王陛下の宣言が虚しく響き渡る事となる。

だが、その会議は王家にとって最悪の会議の幕開けに過ぎないのだった。


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