仮にも王家に連なる人間の正式な「隣国の侵略行為はない」という、
宣言が覆されず続けられるなら、
当然であるが私達が命を張って戦う理由は消失する。
色々なパズルの組み上げのお陰で整えられた王家の直系の血筋。
王子の宣言の意味は重くなくてはいけない。
だからこそ、これから行われる会議の意味は大きくなってくれる。
王子は既に逃げられずその王子に被害が出たら、
国としても黙っている訳にはいかなくなるのだから。
隙をつい婚約者様が宣言した「戦わない」と言う宣言も、
これから行われるこの会議の意味を押し上げていた。
ただ…
この会議は幸運にも開かれる事に過ぎない。
国王陛下の宣言は重たく王子は既に前線のまちの住まう事から逃げられない。
ただ、「今」はそれだけなのだ。
南の2家と王家を「会議」という場所に引きずり出せた事は幸運でしかなく、
私が令嬢として「汚名を晒してでも行った」とされた、
戦争があると言う証拠は南の2家と王家が見てしまったからこそ、
国境での「命のやり取り」が事実としてやっと認められ認定されたのだ。
けれどそれもまた一区切りに過ぎない。
国境での「侵略戦争」があると認めたからこそ会議は「今」行われる。
緊急性がある事として戦時特例であり国家の危機として適用されたからこそ、
この後の予定を全てキャンセルしても、
対策会議と言う事をやらざるを得ない形が整えられたのだ。
あの場で王子が言ってしまった事を弁解するように国王陛下が、
王子を移住させると言った理由は当然国家の為の切り捨てであると同時に、
一種の押し付けをするつもりだったと言う事なのだ。
失言の責任を取らせるとだけ言えば聞こえはいいが、
王子一人を差し出す事によってそれ以上の支援はしないと言う決断も出来た。
けれど婚約者様が宣言した「何も支援をしない」と言う言葉を是とするなら、
当然であるが前線で王家を守る人はいなくなる。
王子は戦う事も出来ずにただ国境の「町」でむごたらしく死ぬだろう。
そうならない為には兵を出さざるを得ないのだ。
別の意味で国境に来た王子は危険にさらされる事にもなるのだから。
婚約者様の「王子の為の物は全て用意しろ」は、逆に言えば国境にいる人は、
唯一人として王子の為に働いてくれないと言っている様な物なのだ。
直近で国境を守ってきたのが2公爵だけと言う事実が、
王家には重くのしかかる事になるのだ。
たとえ前線にいる人間が高貴なる血を持っていたとしても、
その血と王族と言うだけで命を懸けられる兵士は前線にはいない。
それどころか苦しい戦線を後ろからただ眺め続けただけの王家の為に、
命を張って戦ってくれる兵士は1人だっていないのだ。
彼等兵士が戦う理由は故郷を守るため。
そして前線から離れず戦い続けるお父様達2家の公爵閣下が剣を、
自らが振るい続けるからなのだ。
その信頼は大きい。
北の2公爵閣下が協力しながら守り続けているからこそ持ちこたえ、
戦意を失っていないのだ。
その2公爵家の私兵と組織は、国境の防衛に割く戦力はあっても、
今まで傍観し続けた王家を守るために貴重な兵士の命を、
仕えもしない権威を守る為に無駄になんて当然できるはずがない。
そんな余裕は前線にはないのだ。
それを報告書で報告されておきながら王子を前線に住まわせると言えたのは、
当然北の2公爵家に「王子を守らせる事」が前提にあり、
これから行われる会議の目的はそこにしかない。
王家はいかに北の2公爵家から兵士を引きずり出すのか。
それしか考えていないだろう。
此方の都合は考えず、ただ王子の失言のツケを2家に押し付ける行為にも見える。
そう考えていたからこその「移住」であり王子が前線に行く事で「王家」への、
風当たりを弱くする事だけ出来ると考えてはいるみたいだった。
王家は未だ玉虫色の回答を諦めていないと言う事は確か。
はいはいとこちらの言う事を信じてくれるので有れば、
国境はこんな事になっていないのだから。
これから行われるこの会議はその「私」と言う「命のやり取りがあった」
と言う事実が会議室にいるかいないかで大きく内容が変わってくる事が、
既に決まっているのだ。
誤魔化せず王子の護衛を出すか出さないかを決定する会議となる事は確かで。
4公爵家と王家の会議に婚約者様が参加できる理由は「私」と言う、
誤魔化しの効かない戦火の生き証人が現れたからに他ならない。
やっと一歩前進なのだ。
その一歩を2歩3歩にする為にもこの重大な場所に私は絶対いなくてはいけない。
屋敷に帰るなんてもっての外なのだ。
この重く痛く苦しいこのドレス姿を我慢して着飾り形を崩す事は許されない。
王子が言ってしまった「成金令嬢」と言う言葉を取り消させない為にも。
―北の公爵令嬢がボロボロになりながら戦った姿を隠すために―
―必死に装った姿を王家は成金令嬢とバカにした―
その事実を取り消させない為にも、王子に言われた姿でいる必要があるのだ。
それだけで「失言」の意味は大きくなる。
王家が統合する北の公爵家の令嬢を侮辱した。
未来の公爵夫人をバカにしたと言う事実は確実に北の領民に広がる。
カナリアをやっていた私はこう見えて領民には結構人気がある。
戦女神なんてあだ名を付けられる位にはね。
これから支援をして貰わなくてはならない「北の2家の令嬢」を侮辱した。
その事実を正しく受け止めざるを得なくなるのだ。
やっと前哨戦が終わっただけ。
だからこそ、腕の切り裂いた物を交換する間中、
所かまわず人海戦術で私のドレスの「乱れ」を修繕する時間でもあった。
完璧な「成金令嬢」にならないといけないからね。
とはいえ…
なら王子の隣に立っていた婚約者の南の公爵令嬢だって、
ほとんど同じ物を着ているのだから成金野郎になるのだけれどね。
向こうの令嬢はまだ王家の印章をドレスに取り入れられていないから、
見劣りするのは仕方がない…
って言うより、王子妃か王太子妃になった時点で、王家のドレスになるから、
私より煌びやかになると思うのだが。
どうでもいいわ。
会議の開かれる部屋までは案内役がいる訳ではなく。
既に私のお色直し?を行っている状態で場所を確認している婚約者様は、
始まる前に私を迎えに来たと言う形にはなっていた。
と思っていたのは私だけで、私が来てから会議を始めると言う形に、
場を整えたらしい。
切り裂いた腕の装具の修復を待って私が到着してから会議を始めるか、
そのまま私の「傷だらけの腕」を晒させながら会議を開催するのか。
その判断を求めたらしい。
会議の場として絶対に婚約者様には参加してもらわざるを得ない。
辺境の詳しい情報が何もなければ何もできないのだから。
報告書以上の情報を欲するのか当然として、
既に統合はほとんど進んではいるがそれでも王国の書類上は、
まだ「北の2公爵家」なのだ。
私はその場に2家の公爵家の代表としても存在してもらう事を、
当然の様に望まてたのだ。
たとえ「令嬢」という肩書であっても。
これ以上、北の公爵家を怒らせるな。
だた、それだけしか王家は考えられない。
この場で私を拒もうものなら事態は更に悪化する事は、
目に見えて解っているのだから。
少なくとも「表面上」は上手くやっていた王家と公爵家の関係は、
数時間前に完全に王子の手によってぶち壊されたのだ。
当然その事を理解しているからこそ、王家は譲歩せざるを得ないのだ。
「…っつぅ」
「大丈夫か?」
「…国を引きずり出せるチャンスなのです。
私の事を気にしている場合ではないでしょう?」
「…解った。
辛くなったらすぐに退出して構わない」
「はい」
既にドレスを着ていられる我慢できる時間はとうに過ぎ去っている。
けれどここまで来て辞められないのだ。
婚約者様はそんな後ろを付いて来る私の横に並ぶと腰に手を回して、
ぐっと力を入れるのだ。
それは私を持ち上げる様な形となり
スッとドレスと重量から少しだけれど解放される。
「あ…」
「さぁ、行こうか」
「はい」
ただしその立ち位置は未来の公爵夫人の立ち位置なのだ。
…どんどん婚約破棄が出来ない様に周りが埋め立てられている様な気がする。
けれどドレスが苦しかったのもまた事実であり、
その婚約者様の心遣いと行為を断るだけの気力もない事は確かで…
これから始まる会議を考えても私は少しでも休める様に抵抗はしなかった。
そう、やらなかったのではない。出来なかったのだ。
私にそれだけの選択肢はなかったのだ!
って、誰に言い訳しているのだろうね?