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ながいながぁい登城の為の準備?又は公爵令嬢のお着替えという名の苦難の時間の始まり。中編


「お嬢様、宜しいですね?」

「…ええ始めて頂戴」


全然宜しくないが宜しいと言わないといけない。

これから苦痛の時間が始まり登城が終わってこの部屋に戻ってくるまで、

脱げない拷問器具の取り付け時間の始まりである。

言い変えるのであればドⅯでない限り避けたいレベルの装具なのだ。

スルリと取り回され背中で固定される腰を覆う一応「コルセット」と、

名づけられた素肌の上に直接取り付ける胴回りの装具。

それは腰に乗りお腹周りを完全に多い腕の付け根まである私専用に用意された、

下着の様な別の何か。

当然その矯正力は半端なくその装具単体で自立できるほど固く出来ている。

下着と言うのは名ばかりで「美しい形」に作られた中身のない体に見えるのだ。

薄く硬く作るためにその皮で出来た装具の一部には、

薄く作った鉄を挟み込んでいる。

その固すぎる「コルセット」はメイド達の手によって強引に背中側を開かれると、

私の腰に宛がわれるのだ。

そしてゆっくりとその手を離されると物凄い矯正が始まる。

体が押しつぶされ強引に形が変わり始めるのだ。

それだけで超強力な洗濯ばさみに挟まれているかのような気分になる。

当然その取り付けられたコルセットの背中で更に革紐を使って、

このコルセットの形を整え更に胸当てと繋げるようにして肩を整える、

下地を作り上げるのだ。

そしてそれに繋がる首の充て具。

股の間を通して骨盤をガッチリ固定する骨盤矯正具とその付け根に繫がる、

太腿と同じ長さのベルトを思い切り締め上げられればゴギゴギと音を鳴らして、

骨がズレ撓りながら体中が美しくなり始めるのだが、

当然タダで済むはずはなく、全身が引きつり激痛が走るのだ。

全身を抓られ圧迫される感覚がまた辛い。

コキンコキンと取り付けられた革の装具の形に体が合わさられていく。

それは背骨あたりからコッコッコッコッコッと音を立てて骨がズレで、

コルセットや革の胸当てに付けられた矯正具の定位置に納まるまで、

体が歪みを取る様に変形して締められ続けるのだ。

どう考えても骨が軋んでいるのが解るがその歪んだ骨の形を、

美しい骨の型に外側から変形させようとするのだから痛くない訳がない。

胴体の形をある程度合わせ込みと言う名の私がギリギリ耐えられるまでの、

「形」まで締め上げ首を起点とした骨盤までが真っすぐになる様に、

極力力を込めて嵌め込むのだ。

無理矢理吐き出される息と同時に膨らまない胸周り。


「あっぁあ…」

「まだです。我慢してくださいませ」


当然メイド達は手を止めない。

そこには「北の公爵家の公爵令嬢を妥協なく作る」という使命があるのだから。

私の価値を最低限作り上げると言う目的が果たされるまで、

メイド達も当然私に手心を加えて優しく装具の締め上げを緩めるなんて考えは、

当然ないし、あってはならないのだ。

その時点で浅くしか呼吸が出来なくなる私は脱ぐまでその息苦しさに、

耐えることになり涙目になるが直ぐにその涙は拭き取られ、

私の「調整」がやっと始められるのだ。

ガチガチに固めてコルセットと胸当てで作り出した真っすぐな背筋に、

合わせる様に腰の骨盤の形を矯正するベルトを付け骨盤の傾きを確認するのだ。

当然利き足を酷使した結果左右の足の筋力も付き方も違ってしまっている。

なので、そこから左右の足の長さがズレているのを修正する為に、

太腿をベルトで締め上げて嵌め込み、

片足の太腿は強引に引き延ばされ逆の足は押し込まれる形を取らされて、

膝の高さを同じにする作業が始まるのだ。

当然下半身からベルトが軋むギシギシと言う音と共に引っ張られ、

関節が外れる様な突っ張った感触が太腿からして来るのだ…

当然痛み腕を伸ばそうとしてしまうのをメイドに止められるのだ。


「もう少しで…もう少しで揃いますから…」

そう言いながらぐりぐりと引っ張られる足はメイド達には聞こえていないが、

ブチブチと何かが切れる音が体の中ならしているのだった…

それもまた規定値に収めるのが精一杯なのだ。

ただそれでも「調整」は限界まで詰める事になる。

一番上のドレスを着てふんわりと広がる「スカート」がこの調整を怠ると、

斜めになるのだ。

もちろん、着た直後は綺麗だけれど「歩いて玉座の間」等についたころ、

その小さなズレからスカートは形を崩す事になり「乱れた」格好となる。

そうなればまたスカートが曲がっているとか、

貴族のスタイルを決める「王妃様」に最悪な事に言われるのだ。

「体が汚い」と。

それは婚約者様を口撃する一手となるから両足の調整は欠かせない。

そして足の長さの調整しきれない分は履く事になるハイヒールで調整され、

綺麗な調整された下半身が作られるのだ。

それに合わせて今度は骨盤背骨を真っすぐにして、

足と胴体が真っすぐになる様に腰回りの調整を行うのだ。

胴体の傾きを修正して両肩の高さを揃える為に、

胸当てとして付けた物に太いベルトと、

肩に充て具を巻いて左右の高さをベルトの締め上げで調節して、

肩の高さを揃えるのだ。

とはいえ剣を振るう為に鍛えていた私の両肩は筋肉質で、

気持ち撫で肩程度位の角度しかない。

肩の角度はドレスの美しさに関わってくるのでたとえ動かせなくなっても、

極力肩を下げさせて押さえつけて形にするのだ。

そうやって調整した後少し休憩して体が慣れて来たら…

もう一度肩と足の位置を調節するのを繰り返すのだ。

装具が体に馴染み体に張り付いて各体の部位が型に嵌め込まれた様に、

骨の軋む音すら聞こえなくなり動かなくなるまで続けられるのだ。

当然脂汗が噴き出る様な痛みと苦しさで倒れ込みそうに何度もなる。

けれど辞める事は許されない。

時間をかけてゆっくりゆっくりと何度だって調整をするのである。

少しでも体が慣れて来たら更に締め上げるのを繰り返し、

鏡の前に立ってメイドと侍女が納得するまで調整を繰り返す。

途中で私は体を動かして捻ったり曲げたりして、

体に矯正具が張り付いているかを確認され歪みが戻らないかも見られる。

ともかく矯正具を体に馴染ませるのだ。

私がきつくて動けなければメイドと侍女が体を動かして、

強制具から軋む音がなくなるまで続けられる。

もうこの時点で私は全身あらゆる所が痛くてたまらない。

直ぐにでも脱ぎたい状態になっているのだ。

けれどこの「理想の骨格」を持つ事がドレスを美しく崩さず着続ける条件なのだ。

身に着けた時に美しいのは当たり前。

何時間着用しても姿が乱れない事。

その土台を体に求められる事は「貴族令嬢」として平等に求められる事なのだ。

条件を満たせなければ発言権はなく「可笑しな令嬢」として話は聞いて貰えない。

それを我慢して痛いながら矯正具一式の取り付けが終わったら次が待っている。

当然傷だらけの体と特に私の両腕と両足は拙い事故治癒魔法の所為で凸凹なのだ。

それを隠すために手首は肘までと二の腕にカバーをかける様に、

厚い動物の皮で作った充て具とベルトを巻き付けるのだ。

これも肌に食い込むレベルで取り付けて段差をなくして、

両腕を滑らかになる様にすると同時に腕の太さを両腕で揃える為に調整が、

何度となく繰り返し行われる。

頭から足先までを真っすぐに整えた影響で、

体の左右の違いが目立つようになっているのだ。

その長さはともかく太さは著しく違う様に見える。

そして体の中心が揃うからこそ目立つ差異を減らさない訳にはいかない。

揃え整えなければ、その上から光沢のあるロンググローブを付けると、

変な模様が出てしまうのだ。

光沢のある生地を使われるといくら刺繍を施しても、

光加減で凸凹が見えてしまう。

その見える凸凹を隠すために腕に取り付ける皮の外皮もどきは、

内側にコルセットを締める時の様に細かく革紐を交差させながら、

腕に丁寧にズレない様に圧着させるのだ。

手首が動かせなくなる勢いで手の付け根から固定して極力違和感を消すのだ。

そうして段差をなくして最後にその交差した革紐を隠すために、

手首から肩の付け根まである腕に張り付く白いアームカバーもどきを、

肩まで引きあげて紐を隠して美しい揃った両腕を作るのだ。

手首には大き目のブレスレットを嵌めて外皮としてつけた皮と腕との段差も、

当然解らない様に隠せる様にしてある。

両腕から始まったそう言った傷を隠す充て具は、

当然全身にくまなく取り付けられるのだ。

骨格を修正できたとしてもその上についている肉付きがおかしければ、

体のバランスは悪く見えてしまうのだから。

ガチガチに締め上げられ固定された胴体の左右のバランスを取るために、

鏡の前に立って侍女とメイドが必死になって充て具の厚さを調節して、

整える作業が永遠と終わらず続けられる。

ともかく腰回りの調整はシビアで体を削る事が出来ない以上、矯正具の上に

盛り付ける必要があるのだが、ただでさね普段ねじ曲がっている体を、

真っ直ぐにした上に捻じれを解消した体の腰回りは、

左右で括れ方が大きく違ってしまっているが何としてでも左右を揃えないと、

上に身に着けるバスクが歪み縫い付けられている対称に作られた刺繍が、

明かに歪んで汚く見えてしまうのだ。

一番わかりやすく目立つために腰回りは妥協が一切許されない。

ともかく一か所修正すれば、別の所が汚く見えると言う奴で時間をかけて、

その違和感を消していくしかないのだ…

そうやって体の下地が完成すればその上から私の肌の色に合わせた、

現代的に表現するのであればダイビングする時に身に着ける、

袖のないダイビングスーツみたいな形のものを人肌に似せた皮で作って、

その中に無理矢理体を押し込むのだ。

背中側で細かく同色の革紐で編み込みながら形を作れば「体」が出来上がる。

もう締め付けがきつすぎて通気性が無いから暑くて意識を保てない位で…

大抵これを着せられた時にはがっくりしている。

だがここまでやってやっと文句を言われない公爵令嬢の「体」となれるのだ。

と言うかここまでやらないといけないのが私の体なのである。

もちろんドレスは着ていない素肌をさらしている様な形だけれど…

もはや小刻みにしか息は出来ないし異常な締め上げと通気性皆無の暑さは、

拷問レベルで蒸されるのだ。

けれど一日がかりで行うドレスを着る為に下地作業はこれでやっと終りとなる。

後はその擬似肌を保護するためにゆったりとしたメイド服を一時的に着て、

体全体にクッションを宛がわれて寸胴になって長い休憩時間を取るのだ。

体がこの暑さと締め上げになれるまでドレスは着られないし、

なにより、ここまでされた私はぐったりしてしまって立っていられない。


「お嬢様…大丈夫ですか?」


大丈夫の訳がない。

が、もう修正も何もできないし耐えるしかないのだ。

その日はそこまでやって眠るのだ。

一日係の調整。

異常な締め上げと全身抓られたような痛みのうえ、

筋肉が痙攣してきそうな状態で寝れる訳が無いのだが、

それでも寝なくてはいけない。

部屋に用意されているベッドはこの矯正具に合わせて用意された特別な物。

普通のベッドより柔らかくて体が沈み過ぎる位じゃないと苦しいのだ。

丸まった形にしない寝返りを打つ事も自分で出来なくて更に体が痛くなる。

まるで布団を巻き付けている状態で苦しさを紛らわすのだ。

体が宙に浮いてく感覚になって来て、楽になり気分がふんわりとしてきたら、

僅かな流動食と水を飲んでどうにか気を紛らわして眠るのだ。

着せ替え人形になった気分に浸れるが…

それを喜べるわけがない。

体全体が重く風邪をひいたかのような怠さが襲って来るのだ。

楽になれる方法はないから時間がすぎて体が慣れるのを待つ時間が過ぎていく。

一晩かけて眠った次の日の朝起こされるとそれなりに体が楽になっている。

それは締め付けが弱くなったわけではなく体側が慣れて来たにすぎないのだ。

けれど準備が終わった訳じゃない。

そして、余計な所を動かさない事に慣らされた体で、

用意されている未来の公爵夫人用のドレス…

それはこの国に4家しかない他の追従を許さない「公爵家」に相応しい、

出来上がりをしている笑われない為のドレスを着る…

違うかな。

体に取り付けるのだ。

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