公爵令嬢は乙女ゲームが戦争モノであることが許せない。
の登城前学園を休んでまで行われるお着替えの時間を詳細に書いたシーン。
公爵令嬢用のドレスを着るのに主人公は地獄の様に苦労する。
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私の登城のお着替えには時間がかかる。
それは私が5年間命がけて戦った証でもあるのだ。
それを否定する事はできないし、あの時はそれが最善だったのだ。
が…専用のお部屋と用意された装具一式は見るだけでげんなりする。
けれどそうでもしなければ「形にならない」体はなのだ。
成長期に無理をしたツケは公爵夫人となるなら一生つきまとう因縁を、
私に残してくれやがりましたとさ。
何年も何年も時間をかけて歪みを取り治すしかないのだ。
ともかく骨盤の左右の高さが違う事。
当然背骨の歪みも正すため一層身に着けるのが苦痛な矯正具が用意され、
その上からドレスを美しく着る為の充て具一式。
そして既に婚約者様に跡を付けられているので、
乙女ではないが婚約者様以外の男性を受け入れないと言う意思表示で、
魔法の鍵付きの頑丈な貞操帯などなど。
それら一式を用意して、数日間かけて体を美しい形に無理矢理捻じ曲げるのだ。
それから当然の様に絶食当然の生活が始まる。
お腹に入った内容物を外に極力出して少しでも腰を細くして、
極限まで形を修正できるようにして美しく仕上げるのだ。
私の腰は筋肉質なだけならまだ良かったのだ。
けれど切り傷と一部の「修繕」の影響で美しい括れを作る事は実質不可能。
もちろん普通の公爵令嬢なら成長期合わせて体を矯正するだけのこと。
それだけ。本当にただコルセットを締めてドレスを着るだけで様に出来る。
婚約者様に断られる為に何の矯正もせずに来たドレスの時を思い出す。
アレは酷い。
ボディラインをただでさえ見せつける形となる令嬢用のドレスを見ただけで、
ねじ曲がった体を認識せずにはいられない。
私のお腹周辺は変形している事をまざまざと見せつけられた。
鏡に映る自身の体をこれほど歪んでいるのかと、
美しくない物をより汚く見せる様に令嬢のドレスは創られているのだと、
感心したりもした。
美しく広げるスカートを押し出すパニエはその歪に曲がり高さが違う骨盤を、
更に強調する形で乗せられたスカートを広げるのだ。
誰が見てもスカートが傾いている。
そして体に密着する形でその形を見せるバスクは容赦なく胸から、
首にかけて横に倒れ傾きを取っている私の背骨とのズレを強調するのだ。
私の楽な格好は右肩が自然と高くなる位置なのだ。
利き腕をより効果的に力を入れ動かすために、
筋肉の付き方が左右で歪になり生き延びるため致命傷を避け守るために、
犠牲にした守りの左腕はそれだけで幾度となく、切り付けられ剣先に、
肉を抉られた事も数えきれないほどある。
その為に攻撃の右腕は筋力として厚くなり、防御を担当した、
左腕は防御として腕を硬質化する強化魔法の影響で魔術回路の発達が著しい。
役目が違う二本の腕は当然5年間の間にそれはそれは片腕は筋肉質に。
もう片方は密度の高い魔法を使える固い魔術海路を含んだ、
外皮を纏う形となったのだ。
なので育ち方が違う両腕はその体への付け根から影響を受け、
最終的にはその重さが左右の腕で違う事から当然それを支える背骨も、
まっすぐにはならなかったのだ。
その影響は先も述べた通り左右対称で作られるバスクを身に着けると、
左右の胸が体の真ん中を通らない形になってしまっている。
正面を向いているはずなのに上半身は前を向いていなくて若干、
左側を向いている様に見えるのだ。
それでいて顔は前を向いているその歪さ。
当然刺され切られた柔らかい腹部は碌な治療を受けなかったために、
火傷と治った傷で凸凹でその凸凹を余すことなくバスクは見せつけるのだ。
今でも思う。
よくこんなボロボロの体を見ても婚約者様は動揺もせず。
私を傷物に出来たものだと。
お持ち帰りされ「愛された」時の激しさは…
うん、なんだ。
容赦なかったが、私の存在を確認するように全身くまなく撫でられた事は、
嬉しかったのかもしれない。
5年間のカナリアとしての活動した結果。
私の体を令嬢にするにはもうどうしようもなく、
けれど王族や貴族共に着け入れられない体に仕上げる為に、
正に凶悪な拷問器具と化した矯正具を身に着ければ、
何とか公爵令嬢になれる体であることは別の意味で喜ばしい事なのかもしれない。
ここまでしなくてはいけないけれどすれば公爵令嬢としての役目は、
果たせると考えればギリギリセーフで喜ばしいと前向きに考えるしかない。
何度だって後悔はしていないと言えるが、
登城して王族にあうのなら絶対に着る事を求められる「専用」の、
ドレスに対して拒否反応が出てもおかしくはないレベル。
それでも格好がつかなければ「呼び出し」で一方的に詰られるだけなのだ。
美しくなくたっていいの。容姿は重要じゃないのよ!
なんて口が裂けても言えない。
口撃の対象としてその「姿」は容赦なく対象で格好の餌食となるのだから。
だから王家の人間の前に立つためにどんな無理をしても
「ドレスは美しく着なくてはいけない」のだ。
侍女とメイド10人掛かりで2日後の登城に向けて準備を始めるのには、
それを行わないと「話合い」に出来ないのだから仕方がない。
事宮廷で会う令嬢達の優しい容姿に関する言葉は「悪魔の言葉」なのだ。
例えば、
「もう少しコルセットを緩めても良いのではないかしら?
貴女は細過ぎよ」
その言葉を信じて緩めようものなら、次に会った時には、
「随分太間しくなったのねぇ」
などと普通に言われるのが常識なのがこの世界なのだ。
なので絶対に妥協は許されない。
いつも身に着けている制服下の矯正具が可愛くなるレベルで用意されている、
革と金属で作られた下着達を丁寧に体に取り付けていくのだ。
それは勿論体の自由を奪う事だけれど、淑女として優美に動ければいい。
何かあった時は婚約者様にお任せする。
それ位の気概で身に着けるしかないのだ。
例えるなら全身にギプスを嵌め込む様な作業が始まる。
朝の食事も流動食に変更されて、
起きて粗相を終わらせたら専用に用意された、
登城まですごす部屋に連れて行かれ文字通り
「侍女とメイドにその身をゆだねる」のだ。
部屋には私がこれから身に着ける物が大量に置かれ、
足の踏み場もないほどである。
何枚も重ね着して、歪んだ体を徹底的に隠すのだ。