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第14話


そう結論付けられた舞台に立ちふさがるのは勿論王子であり…

王子は「イカレタ」頭で叫ぶのだった。

妄想ここに極まれり、完全に教育を間違えたとしか言えない言葉が、

王子から飛び出すのだ。


「そうか!解った!解ってしまいましたよ!

国王陛下…北の2家の言う提案は、全て虚言です。

私を貶める為だったのです!

上手くいっていない北部地方の財政が悪化し続けているのは、

隣国の侵攻ではなく無能な2家が王家に支援を求める為に言った

虚言の戦争なのです!

戦争は実は起きていないのですよ!

危うく騙される所でした!」


起死回生の暴言。

和やかな国王陛下との語らいで終わりを告げる所だった、

会場に響き渡るその理解不能な論理の下にたどり着いた暴言の中には、

彼の未来が吹っ飛ぶ言葉しか含まれていないのだから笑えない。


「だってそうでしょう?今私達の前にいる公爵家の二人に、

戦った跡は見えず、そして何よりそのお揃いで作られた衣装は、

まるで夫婦の様な扱いではないですか!

まだお二人の両親はご存命だと言うのにです!

それでいてまるで夫婦の様な装いをして!」

「黙れ…」

「そうだ違いました、彼等は2の公爵家を効率よく支配して、

我が王家を転覆する事が目的だったのだ!

それがバレるのが嫌だから男爵令嬢を連れ去り、

私に汚点を付けようとしたのです。

父上!いいえ国王陛下!この陰謀を阻止するのには、

今しかありません!」

「黙れと言っている!」

「黙りません!黙る必要が私にはないのです!

今ここで私のたどり着いた真実を語らなくて何時語ると言うのです!」


もうあらゆる意味でっめちゃくちゃな理論の誕生は、

もはや手の施しようがない。

ただその理論を展開する理由も解りたくないが解ってしまう。

その暴言はお父様とお母さまがここにいない理由を汚し続ける。

あの血まみれで戦う前戦の戦いが全て嘘だと?

のうのうと生きて来たこの王子は言うのか?


「戦火にさらされている様な「家」の令嬢が、

こんな豪華なドレスを見に纏って私達の前に立てる訳がない!」


…は?

この目の前の男は何を言った?

何故私が着せられている物を成金娘が着飾った姿とでも言いたいのか?

ピクリと動く私に反応してすかさず婚約者様振り向いて私を強く抱きしめるのだ。

もう…

もう限界だった。

何故ここまで言われ放題で我慢し続けなくてはならないのか。

私には理解出来ない。

耳元でささやかれる婚約者の落ち着いた言葉。


「落ち着け。

今取り乱したら全てが終わる。

今までの我慢が無駄になる」


俯きそして、周囲に顔を見られない様に扇子で顔を隠す。

解っている。

何の為にこんな拷問器具を着て我慢しているのか。

それは一重に王国の支援を辞めさせない事が私達の求めるべき事で…

その為なら私達はどれだけの暴言にさらされても耐えなくてはいけない。

そうしなければ「前線」でより多くの私兵が死ぬのだ。

戦うには良い剣良い防具は必須で、それがあったとしても私の副官は、

哨戒任務に旅だったのだ。

ここは、何もせず、そのまま一例をして下がるだけ。

それだけでいい。

国王陛下との会話は終わったのだから。


「国王陛下…

私達はこれにて下がらせていただいても宜しいでようか。

私の婚約者は「気分がすぐれない」様なのです」

「う、む。大事にせよ」

「ほら父上!奴等は言い返す事も出来ないのです!

私の言っている事は正しかった!

奴等は金の亡者です!」

「お前はっ!」



もう暴言を聞かせないと言わんばかりにそのまま婚約者様は、

私の体を出口へと向け手を引いて引き始めたのだ。

それだけで王子は喜び始め勝ちを宣言し始めるのだ。

けれどそんな事は関係なく、いや目の前にいたあの王族は一体何なのだ?

何故アレを言う事が許される?

アイツが経っている場所こそ私達が守っている究極の安全の場所だと言うのに、

その場所に立つアイツが安全だけを享受して「戦争」を否定するのか?

その事が許されるのか?

婚約者様に腕を引かれ歩き始めようと足を動かした瞬間…


「逃げるのか成金令嬢!」


その言葉がトリガーだった。

成金だってなんだって構わない。

私が無理矢理来ている公爵令嬢用の「ドレス」が似合っていようが、

いまいが関係なかったのだ。

ただ、この言葉を長かけるこの王子は何を言っているのか?

そしてそれを止めようと動かない周囲の人間も…


「今」現在進行形で起きている国境で文字通り命を張って戦っている、

兵士達にその言葉を履けるのか?

結局こいつらは現実として戦争を把握できていないのではないのか?

着飾ってもバカにされ、その事で上げ足を取られるのであれば、

こんな苦しいドレスを着る必要だってないのに…

いやっそうじゃない。

戦争が嘘と言うのであれば、現在に起きているその戦争の証拠を見せてやる。

婚約者様に掴まれた腕を振りほどき、

私は体に強烈な苦しみを与える事に耐えながら体を急激に捻って、

もう一度玉座の方をふりむいたのだ。

そして、顔を隠していた扇子を腰のベルトのホルダーに差し戻すと、

思い切り王子を睨みつけるのだ。

ふっざけんな。


「な、なんだよ…」


それだけで、も怯む王子であったが私は止まらない。

そのまま利き腕でスカートに取り付けられた婚約者様から頂いた、

自害用の短剣をさやから強引に引き抜いたのだ。

バキンと大きな音を立てて鞘に差し込んであった鍵は砕け散り、

そのまま引き出した短剣を王子へと向けたのだ。

その瞬間お王族の周りにはわらわらと兵士が集まり…

そして私の短剣から王子を守るために兵士達が配備されていくのである。

所謂厳戒態勢って奴なのだが、兵士達も私が短剣を構えた程度で何ができるのか、

疑問に思いつつも大切な王族を守るために此方に剣先を向けるのだ。

感情のままに指し抜いた短剣。

この短剣を使って王子を黙らせたいなんて思わない。


「王子戦争は起きていない私達の狂言と言うのですね?」

「そ、そうだよぅ。

だってそうなんだから…私は間違った事は…」


その非を認めない妄言に対して私は手首に嵌められたブレスレットの下に、

その短剣をザックリと突き立てるのだ、剣の扱いは馴れたもの。

しかも握っているには短剣だ。

扱いを間違える事など無い。

そのまま肘に向かって短剣を引き落とし、私の右腕を締め上げて、

綺麗な肌の下地を作り上げていた小手のような物を固定していた革紐を、

ブチブチと切り裂いたのだ。

更に肘の周囲に短剣の剣先をねじり込む。

そのままぐるりと弾くようにねじってやればロンググロー分の内側、

私の擬似肌として見せる腕全体を覆っている小手が緩むのだ。

鞘に短刀を戻して、私は息苦しいながらも声を張り上げる。


「よく見るがいい。私が戦い続けた証が「ここ」にある!」


切込みを入れたロンググローブをビリビリと破き、

その下にある凸凹の素肌を綺麗に見せる為の小手の様な物を引き抜けば、

その下から現れるのは私が5年間、駆けずり廻り泥と血にまみれて戦った、

証である「傷だらけの素肌」なのだ。

この傷が私が5年間「炭鉱のカナリア」をやって来た証拠であり、

剣を握り相手を殺して来た証でもある。


「王子の言う戦いが「嘘」であるならこの腕に余すことなくついた、

私の持つ「傷」は一体どうやって付いたのと言うのかっ?

私が国境で5年間戦っていた時間は全て嘘だと言うのかっ?

腕の傷などごく一部に過ぎない。

全てを聞きたいのなら婚約者様に聞くがいいっ!

婚約者様は私の体中に付いた傷をすべて見ている。

知っている。

私はっ!

私はこの傷がある限り隣国が侵攻を諦めたなんて思わないっ

剣を握り隣国の兵士を切り殺した事も忘れない。

私の周囲で戦った者がっ、死んでいった者が、

全て嘘だったなんて認めてやるものか!」


突き出した腕に未だ残る剣の切り傷や焼けただれた跡。

それがある限り私は戦争があったとそして現在継続中であることを忘れない。

私の令嬢らしからぬ腕を見て一部の近衛兵は剣を揺らす。

まるで「気持ち悪い物」を見せつけられたと言わんばかりに。


「王子の考える私達の言っている事が支援させる為の嘘だと言うのであれば、

そうで構わない。

だったら北の領地に来るがいい。

安全なのだろう?

国境付近に張り付き争のない場所と言ったその地で生活をしてみるがいい…

一カ月もたたないうちに現実を隣国が教えてくれるでしょうよ…

さぁ「戦争」は嘘なのでしょう?王子?

宣言したのだから国境線に一番近い前哨基地まで兵士を連れてでも良い。

長期休暇として遊びにいらして下さい。

…いいや「今」戦争がないと宣言したのだ!逃げずに「来い!」」


王族が言った言葉だ。

もう嘘でもなんでもいい。

前戦にこの王子を連れ出す。

そこで現実を知って死ぬが良い。

「あ、いやちがぅ」とか呟くように言葉を放つ王子は明らかに動揺していた。

だがそんな事は関係ない。

もう、王子からつぎの言葉が出て来ないのだ。

私の傷だらけの腕はそれなりにインパクトがあったらしい。

敵をいなし退けた誤魔化せない「現実」を見せるその令嬢らしからぬ腕の傷は、

本来大切にされるべき高い爵位を持つ「公爵家の令嬢」の腕としてはありえない。

あってはならない傷つき方なのだから仕方がない。

屋敷の中で蝶よ花よと愛でられ愛らしくそして美しく磨き上げられ、

両親によって嫁ぎ先が決まり、その嫁ぎ先へも嫁ぐ前に当然支援もされて、

何一つ問題なく嫁ぎ先に迎え入れられる様に取り計られるのが「当然」である、

「公爵令嬢」の腕に「傷などあるはずがない」のだ。

だが、現実に私の腕を含む体は傷だらけ。

信じられないほどにボロボロで戦場を知らない兵士達なら目を背けて、

見たくないと思えるほどに。

片腕をさらした効果は絶大だった。

その場にいた令嬢と王妃は私の見せた「現実」からその証拠から逃げられない。

その日その瞬間…

王城で革命が起きたのだ。

「乙女ゲームの定番」攻略対象の第1王子と第2王子の王位継承権にも、

影響が出る大きな騒動となるのだ。

けれど、今そのシナリオとか王位継承権とか私にはどうでも良い事だった。

王家の血筋が潰えようと知った事か。

その騒動が起きたから。

北の戦場に変化せざるをえない。

未だ戦況は2家の公爵家によって支えられているのだが、

けれど確実に戦場に大きな変化が訪れる事になってしまった。

全員が私の言葉にたじろぎ何も言えない玉座の間で、

冷静に私の婚約者様は動き始め自身の首に巻き付けているスカーフを取ると、

私が切り裂いた片腕の傷をそのスカーフを巻き付けて結んで、

傷が見えない様にしたのだ。

無茶をするなと言わんばかりに。

私の曝した汚点を隠す様に動いてくれたのだった。

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