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第11話


―婚約者を伴って登城せよ―



先日の男爵令嬢を拉致した事への釈明をしろ。

そんな事は決まっている礼儀のなっていなかった「男爵令嬢」を、

解らせ教育してあげる為に心優しい「私」が連れて帰って差し上げたのだ。

もちろん私がした事も婚約者様は理解しているし、

当然返さないと言う決断にも賛同して下さった。

「未来」を知っていると言う事もあるからだけれど。

けれど「誰」が納得いかないのか「王家」を通して通知された呼び出しを、

通じて解る事はただ一つ。

つまりあの時いた王子が国王陛下に陳情した以外にはありえない状況なのだ。

…どう考えているのか解らないが、なんだヒロインを守らなくてはと、

今更ながら考えたのか?

だとしても訳が分からない。


が…


突然の呼び出しによって私と婚約者様は当然対応を迫られる事になる。

基本的にこう言った事態となれば両親が先に呼び出される事になるが、

当然私と婚約者様の両親は「前線」を支える為には王都にはいない。

その為にその名代として私と婚約者様が王都に置いて親の名代として、

行動する事を「例外」で認められている。

というか認めざるを得なかった。

公爵家として両家のお父様は当然前線を支える為に力を尽している。

となれば当然領内の政を仕切るのは当然お母様方だ。

両親揃って余談の許さない領地を支え続けている。

王都に顔を出している暇なんてないのだ。

王国には勿論夜会のシーズンも当然あるがそんな事にかまけている暇はない。

一軍を指揮する大将として前線にいるだけで「隣国」に対する圧となるし、

実際その血筋上魔力は高く戦力として機能できてしまう。

両家の家令も当然戦えるが、公爵家の血筋には勝てないし、

ネームバリューと言う意味では本人がいなければ意味がない。

戦争をする時期が「生産工場」の所為で収穫の秋や侵攻が難しい冬出会っても、

戦争をする時期なんてなく定期的に行われるために、

決して離れる事が出来ないのだ。

戦火が大きくなれば国境を離れられなくなりその現状を知る者の報告を、

耳にしなくなれば「戦争」が起きているだなんて当然国は考えない。

そう言った意味で戦いから離れたい見たくない南の面々は、

北の戦いの音「公爵家」の戦いを知る人を夜会に参加させないため人も、

私達に代理参加させる事を例外的に認めると言う事なのだ。

代理と言う立場であれば高い爵位を持っていても聞き流せる事も多くなる。

けれど代理だからと言って当然未熟者として扱ってくれるなんて事はなく、

私と婚約者様の失態はそのままお父様方の失敗とみなされる。

だからこそ私の婚約者様は色々な家に「呼び出される」のだ。

「失言」を取るために。

かといって訪問を断る訳にはいかないし支援をしてやっていると言う、

南側の貴族の態度は、そのままに「何とか」支援しなくても良いと、

婚約者様に言わせたいのだ。

けれど婚約者様の国境の現状を聞いて両親が夜会に参加しない所を見れば、

支援しない理由が無くなるのだ。

…そうであっても財政が厳しいと支援を辞める所もあるのだけれど。

その厳しい財政も私達の「犠牲」の上に成り立っていると言う事に、

気付いていないのか気付きたくないのか解らん。

本来なら2家の問題だから私もついて行くべきなのだけれど、

公爵家と言う立場であるから同格の家からの呼び出しは基本ない。

そして格の違いと言う点で私は同行せず代理の婚約者様だから格下であり、

バランスを取っているから婚約者自ら「訪問」と言う形にしていて、

格上の公爵子息を「呼び出す事」を許しているのだ。

表向きの理由はであるが。

当然裏というか、もう一つのおおきすぎる理由があるのだ。

私が行く事によって「口撃」対象が増えてしまうと言う事もある。

どんなに「戦女神」とは言われた所で舞踏会で必要なのは「公爵令嬢」として、

立ち振る舞う事が求められる。

それは呼び出された話合いの場においても未来の「公爵夫人」としての、

立場を求められるのだ。

それは公爵夫人の着るドレスを着て行かねばならないと言う事であり、

今の私はその「公爵夫人」として振舞う為のドレスを着ると言う事は、

難しいのだ。文句を付けられない完璧な令嬢になるには、

物凄い準備に時間をかけなくてはいけないのだ。

中途半端に整えられた状態で会おうものならたとえ格下の伯爵家でさえ、


「おや、貴女の婚約者殿は令嬢として最低限の姿も出来ないのですな」


と話を切り出され逸らされ支援を取り付けると言う所になる前に、

私を散々詰って時間切れにして会談は打ち切りになってしまうのだ。

だから本当に必要とされない限り私は表に出ない様にしている。

…足を引っ張ると分かっているのにそれでも婚約者様は私を、

手放してくれないのだから変わり者だ。


けれど今回のこの「くだらない」男爵令嬢騒ぎで、

登城する事になった事は正直意外だった。

たかだか男爵令嬢の盛衰なのだ。

王族がそれを気にする理由がわからない。

けれど…

王家から届く正式な手紙であり、

名指しを私を連れてこいなんて言っている以上断れば、

行かない以上の不利を被ると言うのが家令と婚約者様の考えであり私も同感だ。


「登城しない訳にはいかないでしょうね…」

「そうだね。

準備頼めるかい?」

「はい」

「それじゃあ明日から「学園」は「休み」だね」

「そうですね」


登城の準備をする事になってしまった事はともかく。

婚約者様としては私が着飾るのは嬉しいらしい。

けれど私としては歪んだ体を一時的にでも正さなければいけない、

苦しい時間の始まりなのだ。

それはヒロインとは違った苦痛あふれる品々を身に着けて、

体を慣らす為の時間の始まりだった。


そうなれば私は学園を休み3日ほどかけて、登城の準備を済ませる事になるのだ。

僅か数時間の登城の為に私は文句を付けられない姿になる。

その為に体中のあちこちを捻じ曲げ括れさせ締め上げて、

ドレスアップするために、矯正具と言う名の拷問器具を体中に嵌め込むのだ。

痛いから嫌だ。

苦しいから嫌だ。

もっと楽な姿に。

そんな言葉は吐けない。

私が吐いたとしても周囲は気にしない。

それだけ「公爵令嬢」兼「2家の婚約者」と言う立場でいる内は、

役目を果たせなければ王家にいう事を聞かせられると言う、

現実を理解しない南の連中が命令するだけと言う辛い現実が待っている。

私が痛くて苦しい想いをするだけでそれが回避できるのなら、

いくら苦しい物だって構わない。

色々取り付けられた末苦痛あふれる公爵令嬢のドレスのお陰で、

私は柄にもなく淑女としてしか動けなくなるのだがそこも仕方がない。

しっかりと専用の扇子を握りしめて城へと向かう。

当日数日間の着替えが終わった私は

馬車へ婚約者様にエスコートされながら乗り込むのだ。

4人利用の馬車には私と婚約者様以外に私の容姿を整える為に付きそう、

侍女とその護衛も乗り込む事になる。

入場に関しては腐っても公爵家。

その家紋の付いた家の馬車を止められる事なく入場する事が出来る。

後は謁見の時間まで用意されている待合室で待つだけなのだが、

その間も私の容姿はギリギリまで調整されるのだった。

それで交渉が少しでも有利に進むのならそれで構わない。

幾らだって着飾ってやる。


「今回からこれも必要になったから」


そう言いながら侍女に運ばせていた「化粧道具」の中に入っている。

2つの髪飾りを頭に取り付けられたのだ。

その髪飾りはいわゆる片側は実家の家族から送られる髪飾りで、

もう片方は嫁ぎ先の家が用意する髪飾り。

当然意味は婚約済みであり、王家の許可も得ていると言う証である。

ただし学園で使う「玩具」ではなくて、

公爵家が用意した家格あった正式な物だった。

同時にもう一つ用意されていた物がある。

それは未来の夫となる人が妻に送る護身用の短剣である。

受け取って身に着けた時点で、婚儀を上げていなくとも実質夫婦であると言う、

証明であり証となる物だった。

夜会や正式な場において殺傷力のある貴婦人や令嬢が持ち込める唯一の物。

さり気にこの「短剣」は鍵付きであり、

その鍵は今身に着けている貞操帯と共有であり夫以外に体を許す前に、

鞘の開封で鍵を壊し自害すると言う純潔を守りたい高貴なお方が考えた物らしい。

鍵が無くなれば死して純潔を守れるとかなんとかで。

世の令嬢達は愛を感じられて安心できるおめでたい奴がほどんどみたいなのだ。

それでもこの鍵と短剣の存在は、別の事を私に教えてくれる。

こんな短剣と共通の鍵を持つ短剣の鞘がある時点で昔王家と家臣との間で、

やっばい男と女の関係になった前例があるって事だろう。

それも高貴な者と平民とかそういった類の表沙汰に出来ない厄介な奴。

それを公爵令嬢にまで適応している辺り令嬢が親に内緒で…

ってのが解りやすい問題であり、血が残ったやらかしである事は明白で、

その影響が未だ残してあるのだからこの国の風紀もお察しなのだ。

ああ、年齢制限付きの「乙女ゲーム」も発売されたって事だっだから、

その余波かもしれないわ。

そのとても「アダルティー」な意味合いが強い短剣を私は控室で、

婚約者様から私に与えるという意味は、

自身のパートナーを変える気が無いと言う事の意思表示。

しかも王族に見られると言う事は婚姻の許可が取り消しとなる事を、

「絶対に反故にしない。取り消させない」という意思表示でもある。

生家と嫁ぎ先の家紋入りの「道具」には深い意味があり、

それを持たされ周囲に見える所に示す事で不用意な争いや、

誤解を生まないようにする為の物なのだとのこと。

一見合法的で納得しそうな意味もあるのだけど、

結局の所上位爵位を持つ人間が問題を「知らなくて」と言い訳をして、

問題を起こしまくった副産物に過ぎないって事なのだ。

爵位が高めれば高いほど「知らなかった」「気付かなかった」でしらを切る。

その言い訳をさせない為に上位貴族が気付かなかったと言わせない為の、

ルール作りも捗ったと言う事だろうね。

公爵令嬢にこのルールを充て嵌める必要があると言う事は昔問題を、

起したのは考えるまでも無い。

王族って事でしょ。

それで国内貴族の求心力が弱まり…。

隣国の侵攻から目を背けようと必死になっている部分も多岐に渡りある。

身に着けさせられる規律の中には語られない事実が多岐に渡って眠っている。

けれどそのルールを守っている間は文句は付けられない。

便利な物は多いのだ。

その代り死ぬほど苦しくて痛くて気絶しそうにはなるけれどね。

私の立場を主張できる物は何でも用意される。

頭の髪飾りは既に仕上げられた髪形に合わせて着替えの時に、

髪に編み込んで取り付けられた、あっても貧相にならないけれど、

あると華やぐ髪飾りに合体させるようにして取り付ける証が用意されていた。

婚約者様の手によって直々にパチンパチンと公爵家の髪飾りが嵌め込まれる。

そして短剣も当然の様にカーテシーをした時に一番目立つ位置に、

スカートの中心に用意されている光物の台座にその短剣の鞘を、

パチンと嵌め込むのだ。

当然スカートの銀細工等もそうやって「取り付ける」事が、

出来る様になっている物で短剣が取り付いていなくとも目立たず、

けれど取り付けられているのなら主張は激しくなる。

見えないなんて言わせない所に取り付けられているのだ。

この男尊女屈の世界で私が自由に立ち振る舞う事が許されているのは、

当然婚約者様の意向が大きく働いている。

私がヒロインのお口に扇子を突っ込んで王子の前で悪態をついても、

何も言われず動けるのも婚約者様が私の立ち振る舞いを容認して、

くれているからである。

けれどそれは婚約者様の持つ加護範囲内の出来事で、

これから会う王族には全く効かない威光なのだ。

これだけ北2家の加護があると主張する物を身に着けても予断は許されない。

それが私達が敬愛したくない「王族」と言うこの国の絶対権力の象徴なのである。

私達に手をさしだす事はせず、ただ権力だけはあるからいう事を聞かせられる。

その立場は実行力を削がれても王族だからバカに出来ないのだ。

だからこそ私は完璧な公爵令嬢でいる事を体を痛めつけても求められるのだ。


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