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第9話

男爵令嬢の連れ去り騒動から数日がたった。

現在ヒロインは素敵な生活の準備を屋敷の中にある一室にて、

待っている状態なのだ。

彼女の教育に必要な物が揃うまで魔法が使えなくなる部屋で、

優れた令嬢になれる様に家庭教師を数人付けて付きっ切りにして、

一日中休まず学習させてあげる事にしたのだ。

まだ環境が出来ていなくても教育は始めていてその環境が嬉しいのか、

ヒロインは全力で体を動かして泣くほどに喜んでくれている。

うん。

とってもいいことをしたと再度思いだす。

ヒロインもその気になったのか素敵な言葉を紡いで、

教育係として用意した侍女のやる気を高めてくれている。

ヒロインも教育係をやる気にしてくれて嬉しい。

私も教育係がやる気になって嬉しい。

教育係も素敵なヒロインに躾けられて嬉しい。

ほら皆嬉しくてwinwinwinでとっても良い状態。

誰も損をしない素敵な時間が始まったのだ!


…なら良かったんだけどねぇ。


面が良いのがヒロインの特徴であるが内面は「南側」の常識と、

ゲームを攻略する為の頭しか持っていない事は確かだからだ。

ヒロインがこれから歩く道は「本人ではなくて」私達にとって、

素敵な未来へと繋がっていなければいけない。

時間もなかったけれど数度ほど言葉を交わす時間位は作れたのだ。

暴言を浴びせられても構わない。

だって「ヒロイン自身が望む幸せ」と私が望む幸せは表裏一体の様な物だから。

ヒロインが不幸になれば私が幸福になり、

私が不幸になれヒロインが幸福になるのだ。


何なの?このシーソーゲームは?


乙女ゲームを実行できるようなひっどい舞台設定さえなければ、

少しは余裕が出来たかもしれない。

ゲーム上でほとんど語られない「蹂躙される」北のエリアのほどんどの、

隣国と隣接する領地は私と婚約者様の2家の場所なのだ。

そこで生まれた私は北の常識と関わり合いになろうとしない南側の現実を、

始めて知る事になったのだ。

なるほどと感心したくないがしなくてはいけないほどその「火種」は、

多くくすぶり続けていたのだと、納得せざるを得なかったのだ。


日々行われていた隣国曰く「救済の日」と名付けられた、

侵攻してくる理由がまた笑えるのだ。

なんでも


―日々領主に苦しめられている領民を救い出す事―


なのだそうで?

勿論私達は領民を苦しめているつもりはない。

言い方は悪いが豊かであるとは思えないが「成り立っている」形は取れていた。

隣国による侵攻の為に負う事になる苦しさも、

なんとか容認できる程度まで減らせてはいたのだ。

少なくとも生きられる場所は提供できていたと自負できる程度に、

お父様は善政を敷いていたのだ。

でなければ領地は維持できないのだから。


けれど、そんな事はお構いなしで「救済の日」という、

その大義名分があるから隣国は侵攻しても良いらしい。

彼等の言う「救済」された後の統治がどうなるか解らないが、

隣国の求める「良い生活と呼べるような生活」を領民に、

送らせる事が出来ていない事も認めよう。

けれどなら何故「老人」は連れて帰らず「子供を埋める年ごろの女性」だけ、

連れていくのだ?

もちろん戦った男性は皆殺しが常識で焼かれ滅ぼされた集落に残っていた、

遺体が反抗した男性と子供と老人だけなのは納得がいかない。

そもそも救済だと言うのなら村を「襲う」必要はないだろう。

村人の自由意思に任せ1人だけでも連れて帰り向こうの暮らしぶりを、

体験させ説得して説明してやればいい。

既に何人も女性は連れ攫われてそしてただ一人として、

故郷にいた仲間を説得しに来ていないのだらその内情はお察しだ。

戻ってこられない様に管理する事は当然としてその扱いもなかなかだ。

領内で決死の偵察をした人間が観測した内容を見ているのと、

捕まえて捕虜にした指揮者からの情報で確認済みなのだからほぼ間違いはい。

それが出来ない理由は言わずもがな。

連れ攫われた女性が連れていかれる先が何処なのか?

そこは楽園なのかと言われれば否である。

隣国の同胞を増やすために「生産工場」とされる施設が出来上っていたのだ。

ああ、それ位は必要だろうねと改めて思い出させる。

定期的に行われる「救済の日」もあるのだけれど「浄化の日」も当然ある。

村人を襲って資源を回収するのが「救済の日」なのであれば、

「浄化の日」は当然、領地に打撃を与える事を目的とした侵攻なのだ。

小麦畑を焼き討ち守備に就いている兵士を徹底的に殺し尽す。

「浄化の日」の兵士は狂戦士となって侵攻して帰還を考えていない為に、

降伏する事は決してはないし降伏と言う考えも当然持っていない兵士なのだ。

それはもちろん「生産工場」で作られた兵士なのだから仕方がない。

丹精込めて作り上げた狂戦士は私達を効率よく死ぬために作られるのだ。

いまでこそ「浄化の日」は減っているけれど毎年数回行われていた、

「浄化の日」を行えるだけの領地から連れ去って、

隣国は「生産工場」を運営できて需要と供給のバランスが、

憎たらしい事に取れていたって事なのだ。

兵士を育てて使い捨てに出来る余裕が「見せ掛け状」は隣国にあるのだ。

私がカナリアになってから劇的に「救済の日」の損害は減った。

同時に「浄化の日」の割合も減っている。

ちゃんとした対抗手段を作ってからは領内の損害は減ったけれど、

それでも直ぐに無くなってはいないのだ。

少なくとも「浄化の日」の兵士が作れなくなるまで早くても後10年はかかる。

供給を断たれた「隣国」が別の策を打ち出すまでどれだけ時間を要するのか。

私達には想像がつかない。

けれど隣国は「煮詰まっている」別にその方法に固執する理由はない。

方針が変われば「別の何か」かきっと用意される。

結局私がカナリアをして作り出した「時間」は決して多くない。

それだけの余裕が隣国にはまだ出来ているという時点で、

本気を出されたらこの国に抗う力があるのか?猶予はほとんどないのだ。

国が総力を挙げて戦わないと潰されるのはこちら側だって事が良く解る。

今すぐにでも王家直轄の「王国軍」を国境に張り付けて欲しいくらいなのだ。

乙女ゲームの中で領内の領民が故郷を守るために、

決死で「反抗作戦」をやり続けていたお陰で反撃の下地が作られた。

乙女ゲームの物語上は「ドラマチック」でなければならない為、

母国を守るためなんて言って、王国軍は団結して戦い撃退できたのだが、

果たして故郷を守るために領民が戦ってくれなかったら、

王国軍が反撃に出たとしても勝てたのか私に判断がつかない。

「ゲームの中ではヒロインのお陰」で勝てた事にはなっているが…

今の王国を見ていると「本当にヒロインがいたとしても」勝てるとは思えない。

少なくともあのまま何もせずに、2家の領地が攻撃を受けて弱体化すれば、

「敵は」強くなれ、そして時間は向こうに味方する。

「乙女ゲーム」の侵攻のタイミングはまさしくそれで「勝てる」と、

隣国に思わせたから侵攻されたのだ。


―ヒロインを中心とした宮廷抗争―


乙女ゲームの最前線で愛し愛されのメロドラマを「見続ける」立場でいられれば、

見たいヒロイックで感動も愛のストーリは、登場人物となった瞬間地獄なのだ。

そしてそれはヒロインを迎え入れる下地として強く作り上げられている。

それは当然ヒロインがいなくなっても「誰か」を代役としてきっと始まる。

下手すりゃ隣国の分断・破壊工作の可能性だってあるのだ。

それでも「余計な人」を舞台にあげなければ一人につき一人の「婚約者」なのだ。

それは言うまでもないが三角関係に発展しないし学園の中では予定調和の平和が、

保たれるのではないかなって思いたいのだ。

それでも歪みはきっと出てくる…

それにどう対処するのかがこれからの問題なのだ。


書類整理が終わった後、婚約者様がご帰宅するまでに、

まだ少しだけ時間があった私は「このお屋敷」で、

生活する用意が出来てしまったヒロインの様子を確認しに、

彼女が連れていかれた部屋に家令に頼んで案内してもらった。

ヒロインを連れて帰って来て直ぐに家令に預けただけで家令の顔は美しく歪む。

それはヒロインの在り方が想像以上に不愉快だからに他ならない。


「ある程度、躾けられてからの方が良いと思いますが…」


合って数時間しか立っていないのに既にこの言われよう。

どれだけの暴言を吐いたのかと問い質ししてみたくもなったのだが、

さっさと面会を終わらせて婚約者様のご帰宅を、

待たなくてはいけない身としては面倒な事はさっさと終わらせたいのだ。

ヤレヤレと言った感じで私は家令の後を付いていく事になる。

数時間前は学園でヒロインをやっていた彼女は果たしてその変化を、

受け入れられるのかしらね?

馬車から降ろされて引きずられて連れていかれたヒロインが、

いる部屋は屋敷内でも特殊な場所であり、

一応貴族令嬢が暮らしてもおかしくない程度に室内は仕上げられている。

けれどそれよりも重要なのは「魔法」が使えない部屋と言う事であり、

ヒロインの首に嵌め込んだ「服従の首輪」も当然魔法を使う事を許さない。

ヒロインなのでご都合主義がまかり通らない様にする意味もあるけれど、

魅了の魔法とか使われたらたまらないし。

それも考慮して耐性のある女性しかヒロインには近づかない様にして、

現在彼女は「か弱い男爵令嬢」となっているはずなのだ。

これだけやっても「強制力」でどうにかできるヒロインも、

いるかもしれないが今の所その予兆はない。

ヒロインを愛らしく見せる制服は既に脱がされ、

逃亡防止用の革枷を両足に嵌め短い鎖で繋ぎ、

元気な令嬢用に用意された自然と淑やかになれる、

使用人数人がかりで本気で締め上げるコルセットに乙女を守る貞操帯。

そして足元を見えなくする大きく広がるスカートに、

上半身の美しいラインを見せるバスクと肩をガッチリ固定して動かせなくする、

固い内張付きのパフスリーブ。

寂しい胸元とならない様に首に嵌め込まれた「服従の首輪」の装飾品と、

繋げて一体化するように装飾を施された首飾り…

そして美しい銀細工の付けられたブレスレットには革紐が繋がれており、

その紐は教育係として机の前にいる女性が握っているという、

我儘な御令嬢を躾ける為に用意される装具としては、

ほぼほぼ標準的な姿となっていたのだった。

汎用品であり誰にでもすぐに使える物であって身に着ける人にとっては、

とても効果的に一品一品がヒロインを素敵に彩る美しいドレスであり、

その姿は「男なら一目ぼれする」ほどなのだ。

でもなければ見向きもされない。

おとぎ話のシンデレラと同じなのだ。

何故か現代風の制服をクラシカルに改良した学園の制服でも、

魅力的に見えるヒロインは当然その下地の持つポテンシャルは異常なほど高い。

地味なメイクをして目立たない様にその美を押さえつければ、

よくある乙女ゲームの「どこにでもいるごく普通の女の子」になれるのだ。

…違うかな。

「ごく普通の女の子に「も」なれる」と言った方がいいのかもしれない。

そう言った意味で地味だけれどここぞと言う所では存在を主張して、

「学園」では目立つ存在とならないと乙女ゲームが始まらないからね。

一式そろえて着飾ればそうなるだろうと、思った通りの姿になった。

これなら隣国に行って男どもを篭絡できるでしょと思いながら…

ヒロインはハァハァと口で息をして苦しんでいるみたいだった。


「あ…ああっ外してっ!外してよぉ!」


何をそんなに騒いでいるのかってそりゃ「コルセット」の締め上げだ。

活発な御令嬢を大人しくする為にきつく締められる事もある「教育用」の、

コルセットは年齢が上がるごとに凶悪な括れを作る物となる。

既にこの世界では「美の形」は決まっている。

その形に近ければ近いほど美しいとされるのだ。

んで私含む令嬢達はその爵位によって決められた格好をする事を求められる。

ヒロインも当然例外じゃないと言いたいところだけれど、

市井で生きて来たヒロインは特別扱いが当然であり、学園の制服を着るまで、

コルセットの着用経験がないと言う事で学園の制服にも「特別」が、

許されていた事は言うまでもない。

早く慣れましょうねの言葉の下コルセットをしなくても良い様に用意された、

特別腰回りが緩い制服にファッション的に付けるだけで許されるヒロインの、

ユルユルコルセットの制服。

一説にはヒロインはスタイルが良いし、

天真爛漫なヒロインに堅苦しい衣装は似合わないとか何とか?

誰が言ったのかヒロインを美しく見せる為なら何故か「許される」のだ。

物語的に凝った設定の方が没入感が増すとか何とかで細かく決められた、

設定資料集を読み解けば学園の制服はルールで雁字搦めのはずなのに、

ヒロインだけはそれに従わなくても良いと言う暴挙が許される。

もちろんそれはプレイヤーに対する「特別」を、

演出する為のご都合主義な事は解るのだが、

それがこの場でも適用されていた事をものがたる証明となってしまっていた。

教育用のコルセットを絞め込まれて本気で苦しむヒロイン。

それは身に着けていても締め上げられる事が無かった証明であり、

今着せられている令嬢用の一番腰が緩いドレスでさえヒロインにはきつすぎる。

特別扱いの成れの果ての様子が見て取れる。

つまるところヒロインだけは苦しい想いをしなくとも良いと言うルールがあった。

証明であると同時に物語が進むにつれ「新しい風」とか何とかで?

「体を締め付けないファッション」を、ご都合主義的に思いつき、

第2部である宮廷抗争編では「現代かぶれ」した楽な姿も許されるという、

ご都合主義で特別扱いが働くお陰でヒロインは、

本気でコルセットを締められる事もなく「楽」な格好のままでいられたのだ。

第2部で現代かぶれになった理由は、

「普通のドレスが着られない」からだったのかもしれないではなくて、

着られないから現代かぶれの衣装を出したのだろう。

一応?ヒロインは美しいからと言う訳の解らない建前も用意されて、

攻略対象者は揃いも揃って「古き文化」を捨てて、

新しい時の到来が代云々言う訳だが?

その「古き文化」の私と婚約者様の家に隣国からの侵攻を守らせて来たから、

おまえらはそんな言葉遊び云々をしている暇があったのだろうに。

そして約束の「支援」をしなくてもいいのは「古き良き時代」と言う名の、

一方的な押し付けをしていたからだろうと私や婚約者様に言わせたいのか?

部屋の壁際に座らせられて椅子に腰かけたヒロインはコの字型に作られた、

机との間に押し込められて机を退かさないと移動する所か、

立つ事すら許されない。

そしてその手の届く範囲には私と婚約者様が使用した両家の事がわかる、

教本が鬼の様に積まれているのだ。

真正面には教師が長い乗馬鞭を持って彼女の事を睨み続けているのである。

まだ勉強が始まる前。

素敵に変身したヒロインはその体を壁と机の間で必死に動かして、

逃げ出そうと努力をしているみたいだった。

周囲に誰がいようと関係ない。

壁と机挟まれ本当に身動きが取れなくなった時点で、服従の首輪を使って、

命令をするまでもなく逃げる事なんて出来なくされた事と、

本気でコルセットを絞め込まれて我慢が出来ないほど痛くて苦しいのだろうが、

それを我慢するのが貴族令嬢なのだ。

コルセットの苦しさから逃げたくて、

必死にドレスの腰回りに手を伸ばそうとするも、

その度に容赦なく教育係の持つ紐が引っ張られ腰に触ることも許されない。

令嬢用のドレスは当然刺繍やフリルに光物が縫い付けられている。

それを汚たり壊さない様にする為にドレスを丁寧に扱う事は当然であり、

不用意にドレスに触る事は許されない。

当然綺麗に飾り立てられた腰回りは「美の結晶」でありそのラインの美しさを、

壊さない様にするのは令嬢の義務なのだ。

楽にならないと分かっていても「お腹周りを擦りたい」と反射的に、

腕を動かしてしまう事は当然許されない。

だからこそ着慣れていないといけないから、学園から戻った令嬢達は、

面倒であってもドレスになれる為に着替える者がほとんどだ。

因みに私は理解しながら体の下に着込まされている、

大量の「矯正具」との兼ね合いもあってドレスには着替えない。

私の場合はヒロインが着せられているドレスなんて目じゃないほど、

ひっどい拷問器具の様な物を身に着けてから着込む事になる。

5年間のカナリア活動のツケと言われればそれまでだが。

私に比べれば、全然楽なはずの彼女の暴れっぷりは見ていて面白いほどだ。

当然ドレスを傷つけない様に机の端には、

柔らかいクッションが取り付けられていて優しくドレスを保護していた。

が、どんなに苦しくともその原因となっているコルセットは外せない。

数分もしない内に体力がなくなり暴れる事も出来なくなるのだ。


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