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第7話

それはドレスを美しく着る為の矯正具と革の充て具一式だ。

普通のコルセットとドレスでは当然体中にある傷だらけの体は隠せない。

それ以前に左右の肩の高さを揃えて背骨を真っ直ぐにする為の、

矯正具を身に着けて生活させられる羽目になった。

それから専属の侍女とメイドを両家から宛がわれ、

私の体をマシにする矯正が始まったのだ。

私は制服の下に太腿から始まり腰には固すぎるコルセット、

肩と胸にキツイ充てを充てて締め上げそれらを繋いで、

公爵令嬢として「正しい立ち姿」に体がなる様にして、

無理矢理美しい形を作っているのだ。

その上に皮膚のように見える充て具を付けて傷も徹底的に隠している。

そこまでしなくちゃいけない公爵令嬢なのだ。

婚約するまでは両軍の男性将校が着る軍服を私のサイズに手直ししただけの、

ゆったりとした服装をしていたから、体が曲がっている事に気付かされる事は、

無かったのだけれど、この学園の公爵令嬢用の女生徒の制服は、

嫌でも体のラインが出てしまうから、矯正具なして制服を着ようものなら、

左右の肩の高さから始まって、可笑しなくらいに曲がった体を、

大衆に見せびらかす事になる。

流石にそれでは公爵令嬢としての体面を保てないので、

どれだけ付け心地が悪くて体が痛くなっても、

制服の下の矯正具と偽物の素肌は身に付けない訳にはいかなのだ。

婚約者様もさっさと次を見つけてほしいのだが…

そんな訳で制服の下には体を矯正する矯正具を身に着けての生活が、

楽なはずはなく、なくさりとてその矯正具から逃げる事は、

未来の公爵夫人として許されない。

少なくとも南の令嬢達とそん色のないドレスを着られる様にならなくては、

いけない。

いけないと分かっているけれど…

外したいなぁ…

肌は引きつって抓られた様に痛いし、戦闘する時の様な全身を強引に、

引き延ばす様な無理な動きは当然させて貰えない。

キチリと矯正具はしなり歪みに合わされた体を強引に正して、

歪みが体を通して矯正具が軋む様な音がして、

頑丈に作られた矯正具は私を「おしとやか」にするのだ。

婚約者様傷物にした事許すし気にしないから婚約解消したいなぁ…

なんて考えてしまうのだが、


「君は逃げないでしょ」


謎の信頼を婚約者様から勝ち得てしまっている所為で、

傍を離れる事が出来なことも確かで。

ともかく私はその日からヒロインの成長を眺めつつ、

ヒロインがいなくなっても続けられる「学園」で行われる、

乙女ゲームの進捗を気にしながら日常を過ごす事になるのだった。

戦争の軍事バランスは崩れ、

それでも侵攻は絶対に終わらない。

この国を隣国が諦められない理由も解るのだ。

解るがさりとてその気持ちを汲んで自身の愛する領地の領民が、

不幸になる事は当然許せない。

さて、愛しの婚約者様は今日はどうするのでしょうかね?


「南の公爵家と非公式な面会が叶うらしいです」

「また遊ばれるのかしら?」

「どうでしょうか、

このまま遊ばれ続けるのならそろそろ我が君も暴れてしまいそうです」

「仕方ない事よ。

話して解らないのならぶん殴ってでも理解させる事がこの国では、

必用な事の様だから」

「左様でございますか」

「ええ。

殴られれば現実を少しでも理解できるでしょうよ。

交渉に応じてやっているこちらの寛大さにね」

「そうでございますな」



そう、私の婚約者様はまだ交渉のテーブルについてあげているのだ。

私達が前線で防衛戦を続けているからこそ、のうのうと王都での交渉なんて、

お遊戯が出来ている事にこの国の南の連中は何時気付くのか?

本当に気づかずに数年後にやってくる隣国の大侵攻に、

耐えられると思っているのか?

はたまた侵攻自体ありえないと思っているのか…

どっちとなるのでしょうね?

ああ、侵攻してきた敵の将軍に交渉をしたいと言って前線で、

命の尊さでも説くつもりなのかしらね?

振り下ろされ剣を前にして避ける事無く激痛が走り血をダバダバと流しながら、

説得し続けれたら、信じてやらない事もないし、

そいつとだったら私でも交渉できそうだわ。

数時間後には一方的にしか言葉を交わせなくなった私の意見を丸呑みしてくれる、

物言わぬ素敵な交渉人となってくれそうだものね。

ともすれば一人の時間を有効に使わなくてはいけない。


「執務室に行くわ。資料を纏める時間を頂戴」

「畏まりました。

と、言いたかったのですが申し訳ありません。

「手直し」をしたい様です」


それは家令の後ろにいたメイド達が必死に家令に訴えていたみたいだった。

それは私の矯正具を締め直すという意味なのだ。

気付けば、思い切り塗り上げた扇子を握る腕によって全体的に胸周りが、

歪んで左右の肩の高さがまたずれ込んでいたのだった。

体の左右のバランスを取るために各所に設置されたベルトを「調整」して、

私の体は強く矯正をかけている。

馬車に座っている時なら解らないけれど、断っていると自然と、

体がバランスを取ってしまうから肩の高さのズレは大きく目立つのだ。

それが、何時も私を見ているのメイドや侍女なら当然気になってしまう。


「解った。

やって頂戴」


言うが否や、無数の手が伸ばされると、

制服に取り付けられている隠しポケットに、

手を突っ込まれて何かを引っ張られるのだ。

キシリと皮が軋む音がして体のバランスが変わっていく。

そうすると体が更に強く矯正され多少の息苦しさと痛みも感じるのだ。

調性はほんとに息苦しくなるだけだから何度も辞めたいと思う事がある。

けれど今はまだ公爵夫人と言う役目から降りる目途が立たない。

何とか「マシな体になる事」を願ってその調整を受け入れる。

「手直し」は何処でもできる様に作られている。

この特別に作られた制服も恨めしい。


どうして婚約破棄を受け入れてくれないのか解らないが…。

お父様も婚約者様の家臣団に加わる形で、

婚約者様の家がお父様の領地を飲み込むという形でも良いはずなのだ。

より良き未来を。

私もお父様も「領地が繁栄」する事しか望んでいない。

家の存続は二の次で既に違う方法を模索し続けていたのだから。

弟も婚約者様の家臣団に加われるのならそのまま部下となる事も了承できる。

そうする事が出来るだけの種はお父様と一緒に撒いたのだ。

後は自然と領地同士の交流を深めていけば婚約者様なら、

普通に領地を発展させて育てていけるだろうとも考えていたのに。

どうしてこうなった?


「何をなさるので?」

「婚約者様が目を通す前の資料を。

彼の判断が必要かどうかの判断と優劣付けだけやっておきます。

…また溜めているでしょう?」

「それは良い事です。未来の奥様として旦那様を補佐して戴けて、

わたくしとしても嬉しい限りです」

「…お世辞はいいから、早く彼の側近を呼び戻してあげて」

「そうですなぁ未来の奥様が、未来の旦那様をよりやる気にして差し上げれば、

わたくしとしても考えない事はないのですが?」

「十分やる気にさせているでしょう?」

「まだまだなのです。

もっとわたくし達を安心させる意味でも愛をふかめて下さいませ」

「…そのうちにね。

と言うよりもせめて学園を卒業するまでは待ってちょうだい」

「…期待しておりますよ」


…言うまでもないが、世継ぎを作れと暗に言って来ているのだ。

流石にそれはないでしょう?

学園でもっといい人が見つかるかもしれないでしょうがとは言わない。

それを言ったら私の部屋がまた素敵な夫婦のお部屋になってしまうから。

傷物にされてはいるが、あくまで私は「婚約者」なのだ。

何時か不備や心変わりがあれば、

解消は何時だって出来るししてあげるつもりなのだ。

一応家名の違う別の家の人間なのだから今の所屋敷のでは別室にして貰っている。

けれど、私は何度もこの家令から失言を取られ色々な物を、

自室に運び込まれ、持ち出されててしまっているのだ。

学習用の机は執務室に運び出されて「みらいのだんなさま」の近くに設置され、

1人用だったベッドは二人が眠っても全く問題のない、

大きなベッドへと変えられている。

失言する度外堀が埋まっていくみたいで複雑な気分なのである。

せめて卒業するまでは公爵令嬢でいたいと思うのだ。

学園で若奥様と言われるのだけは避けたいのである。


本当に…

本当にどうしてこうなった!?

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