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第4話

メインストーリーにグラフィックのグの字も出て来ない。

公爵令嬢の容姿なんて誰も気にしない。

と言うより私は気にするような綺麗な体をしていない。

顔は乙女ゲーの女生徒と言う事もあり「それなり」ではあると思うのだ。

それは当然「不細工」が舞踏会にいる事によって乙女ゲームの折角の舞台である、

「夢」をぶっ壊さないようにする為だ。

それなら女性キャラクターはブサイクであるべきなんて事はない。

むしろ逆なのだ。

自身の分身として立ち振る舞うヒロインがブサイクである事を許されない様に、

イケメン攻略対象は「当然」美しい女性を侍らすことができる。

その中でヒロインが選ばれるから「シンデレラストーリー」なのだ。

肉ダルマの様に太った令嬢や攻略対象がこの世界にいない理由はそこにある。

ゲームだからと言う事柄も「貴族」と言う美しく選ばれた人々で、

サラブレットの様に美を交配してきたような世界の中でなら、

ありえるって事なんだろうね。

美顔化するのはそれに価値を見出す攻略者がいるからであって、

平均以上の顔面ステータスを持たなければ「乙女ゲーム」は始まらない。

「シンデレラストリート」とはよく言ったものだ。

原作もシンデレラが「美しかった」から成り立つ物語なのだと、

小さい頃から教え込む為の童話なのだから。

もしもシンデレラがデブでブサイクならお城に魔法で行けた所で、

王子様の目にとまらなかったでしょうよ。

そのまま一夜の夢を見て帰って来ただけでその後の「召使生活」を、

我慢し続ける物語になるけど…

シンデレラは耐えられたのかしらね?


そんな訳で「美少女」という概念を具現化した様な美しさを持っている、

ヒロインはハニートラップを仕掛ける要因としては、

素晴らしい逸材となりうるのだ。

みんな仲良くハーレムルートすらきっと作れるのだろう。

首に突き立てた扇子の所為で天井を見続ける事になったヒロインの姿と、

そのうめき声にすら私は「可愛らしさ」を感じている辺り、

このヒロインは男を篭絡する術を天然で持っているのかもしれない。

それはとっても素敵な事だなって思うのだ。

きっと毎日が楽しくなれるわね。


「ぐぅ、うっぐぅ…」

「世界を見た感想はどうかしら?

広がる世界を認識できた所でプレゼントを差し上げるわ。

喜びなさいな。

貴女が「卒業式」で断罪する悪役令嬢とやらに、

意気揚々と身に着けさせる「服従の首輪」よ。

私が貴族令嬢と一生身に着けていても問題ない貴女に相応しい銀細工を施して、

素敵に仕上げてあげたヒロインに相応しい一品物よ。

一生モノの首輪だから大切にしなさいね?」


それは顎を上げさせ続けて無防備になっているヒロインの首に合わせて、

今日の様な日の為に作っておいたヒロインへ嵌める専用品。

そして何より一度嵌めたら外れない素敵な「首」へと、

ヒロインを仕立て上げてくれる「素敵な装飾品」となり果てるのだ。

首へと張り付き隙間なくサイズが自動的に調整されるソレは「生きている」のだ。

寄生虫の様に主の「魔力」を食って成長し時が経てばたつほど、

より強固により堅牢に宿主の首へとへばり付きヤバイ首輪へと成長する。

素敵な「アクセサリー」なのだ。

魔物の特殊な外皮を原料に作られたその首輪は、

自身が死ぬか首輪に登録された主人が死なない限り決して外せず、

主人として登録された者から逆らう事を許さない。

その手の設定てんこ盛りの素敵な首輪なのだ。

悪役令嬢を懲らしめる素敵なヒロインを演出する為に作られた、

乙女ゲームの設定てんこ盛りの首輪は、実に効率的に装着者を苦しめる。

サイズが小さくなって首を絞めるのは当然として、

電撃を浴びさせたりも当然できる。

しまいには爆発して着用者を確実に殺せる素晴らしい物として作られているのだ。

と言うのもこの乙女ゲームは学園編が終われば宮廷抗争編が始まる、

2段構えのゲームなのだ。

個別ルートに入ってからも長い。

数種類のルートが用意されているから「学園」でフラグを立てまくった結果、

結ばれなくとも「宮廷抗争編」にて結ばれる場合もある。

まぁなんだ某メモリアルみたいにステータス上げまくって、

優秀さが認められれば宮廷でラブラブちゅっちゅ出来るという2段設計なのだ。

それは言うなれば社会人一年生のオフィスラブの様な?

まぁ…一昔前の大人の恋愛と言う名の禁断の愛の様な…

直球で言ってしまえば「不倫」が出来るのだ。

まぁそれも「法律的には許される」世界観に設定されているので、

まぁ結婚後の「略奪愛」が出来るやる側は嬉しい。

やられる側は最悪のシナリオとなっている。

勿論やる側にいるのはヒロインなのだ。

学園時代の淡い恋心が「宮廷」での再会で燃え上がり…と言う度定番の展開で、

それでもそれが「許される」世界だから再開した二人の愛は燃え上がる。

そこでヒロインがくっついたら結局宮廷抗争が激しくなって、

私の領地はボロボロになるのだ。

乙女ゲームとしてはそう言った「ビター」な恋愛も見せてくれるそのルートは、

大人気。

そして身分違いで結ばれなかった男爵家のヒロインは「実力?」かどうか、

怪しいけれど出世してもう一度、攻略対象の前に立つのだ。

より美しくより華やかになって。

王宮の侍女として働くヒロインのその「優秀」な所を見てもう一度、

あの時の続きをやろうみたいな展開にもなるのだ。

言うまでもないけれど「既に彼等は既婚者」だ。

歳の差があったとしても学園を二人が卒業した段階で問答無用で、

遅くとも2年以内で結婚となる。

既に立身して宮廷侍女になれたヒロインが攻略対象に現れた時には遅いのだ。

で…愛し合う二人が口にする


「僕らは回り道をしてしまっただけなんだ」

「私達が共に歩むのが遅れただけなの…」


なんて言って訳の解らない内に第2婦人として結婚するとか…

そんな展開が待っている。

けれど仮にも乙女ゲーここからがまた血生臭いのだ…。

当然の様に降ってわいた第2婦人い当然正室の令嬢が納得できるわけがない。

嫉妬に狂った正室の令嬢が怒り狂って手が付けられなくなるという…

扱く当たり前の展開の後、攻略対象が正室の令嬢に取り付けるのが、

この「服従の首輪」なのだ。

狂ってしまって手の付けられなくなった令嬢を大人しくさせる為の苦肉の策。

愛するヒロイン傷つけさせない為に令嬢に取り付けるしかなかったのだ。

なんて言いながらヒロインの安全を担保する為の道具として、

令嬢を死ぬまで苦しめ続ける悪魔の首輪となるのだ。

狂った令嬢は臭い物には蓋をするという理屈の下、

攻略対象の屋敷の敷地内にある離れで「飼われる」事になるのだ。

ただそれまでに「本気でヒロインの命を狙う」から仕方がないのだと、

プレイヤーには訴えかけてくる。

しかもゲーム内の王国の法には触れていないからなんの問題もないと、

免罪符をひけらかしながら。

結婚してしまった「令嬢」達はどの攻略対象でも「離縁」する事は出来ず、

正しく離れと言う小屋の中で「飼われる」のだ。

不都合の塊となりヒロインと攻略対象の「敵」としてしか存在を許されない。

素敵な恋愛ゲームの果てに不幸を背負わされて不都合の埋め合わせだけの、

為に生かされ続ける令嬢達。

後日談的に書かれる一枚絵には幸せそうな攻略対象と当然子供もヒロインとだけ。

正にヒロインにとって最高の物語は周囲にとって最悪の物語なのだ。

首輪を嵌められた令嬢の結末は当然語られない。

けれど当然碌な事にならなかった事だけは確かなのだ。

それはまさしく「乙女ゲーム」なら許される。

素敵なヒロインでいられる。

それが全てだった。

私もヒロインなら


「むねきゅん~」


とか馬鹿な事は言えただろう。

ご都合主義の間で生きられればどれだけ良いか…

一番酷いルートは王子様とのルートなのだ。

公爵令嬢と王子様との間に入ってちゃっかり王子様の隣に納まるヒロイン。

悪役令嬢は本気で婚約者である王子様の心を取り戻そうとして、

邪魔であるヒロインの命を狙って来るのだ。

今だから理解できる。

悪役令嬢は国がどういう状態なのか正しく認識できてしまっていたのだと。

ゲームで語られない不都合な部分を一心に背負って、

いわば「私」の住まう公爵領の現状も公爵家繋がりで、

知っていたという事なのだろう。

それは言うなれば宮廷抗争が起こる事は隣国が攻め入る要因になりえた。

私が怒り狂わない世界に置いてお父様の住まう領地を守るために、

狂う事になったのはきっと王子の婚約者として現実を見据えていた、

悪役令嬢としての立ち振る舞う公爵令嬢の彼女だったのだと思う。

正しく正義の王子様とヒロインとなる為の生贄だったのだろう。

自身の命一つで数万人の国民の命を守れるのなら、

下級貴族都合の悪いヒロインを殺してでも…

と考える事が出来てしまったのだと思う。

それ故に絶対に言う事を聞くまで着用者を容赦なく苦しめ続ける、

「服従の首輪」は許されるのだ。

首輪を嵌められた後でも、悪役令嬢として祭り上げられた彼女は、

あの手この手を使ってヒロインを殺そうとする。

その度に王子様に守ってもらう「むねきゅん」展開。

二人愛は深まって。

その果てに侵略戦争を受ける事になるという…

背景が解れば解るほどヒロインを認める訳にはいかないのだからたまらない。

最終的に悪役令嬢はその「悪役」に相応しい結末が待っている。

父親が国費を横領して私と婚約者の実家を支援していた事がバレ、

国家転覆を企んだとして一緒に前線送り。

それに、随伴するように首輪を使って命令され、

侵攻してきた敵に立ちふさがって撤退は許されず数少ない部下と一緒に、

文字通り死ぬまで戦い続けて「ヒロイン」が正義を説いて皆を説得する、

時間を稼ぐのだ。

その説得で国が一丸となって侵略者を撃退できる、

素敵な愛と正義と友情のスペクタクル!

どうしてそうなったかを考えなければヒロインは聖女と言っても良い。

国同士の戦争を舞台にした壮大な茶番劇な訳だ。

苦しく血反吐を吐くような、絶望の中で何とか勝利をともがき続けた、

私達の事は置き去りにされ、

美しく整えられた舞台の上で舞い踊り続けるだけのヒロイン。

ゲームなら…

ゲームでなら…

許せる。と、思う。

私の立ち位置が「ヒロイン」なら甘んじてこの世界にどっぷり漬かれる。

攻略対象者の甘い言葉と行動にメロメロになれる。

けれど、残念なことに私はヒロインではなかったし、

周囲は優しい言葉だけで生きていけるほど甘くはなかった。

知れば知るほどヒロインが世界をぶち壊し、

そして都合のいい様に繋ぎ合わされるのだ。

だったら…

だったらその繋ぎ合わせるのも、ぶち壊すのも私がやってあげる。

ヒロインが「舞台の上で踊る」だけなら、

その踊る場所は私が決めてやる。


扇子をどけて天井を見る事を辞めされると、

ヒロインの目は大きく見開いていた。

首を胸上から顎下まで覆い隠す様に密着して圧迫感を覚える、

服従の首輪の存在を意識せずにはいられないからだ。


「くひゅう…くひゅう…」


とうめき声だけを上げて、その首に嵌り込んだ首輪の存在を、

受け入れたくないのか顎を何度も下げてカツカツと当たる首輪が、

存在する事を何度も何度も繰り返して確認している。

そしてその存在を消せない事が納得できないのかフルフルと、

首を横に振り続けたのだ。


「ねぇ…

付け御ごちは如何かしら?

答えて下さらない?」


けれど、ヒロインは答えない。

答えられる訳が無いというべきなのかもしれない。

口に詰まった布は当然彼女の口を塞ぎ続け言葉を話す事は出来るはずがない。

けれどそんなヒロインの口もとに侍女が耳を傾けるのだ。

ヒロインが話している言葉を聞いているかのようにしながら。


「くひゅう…」

「え?はいはい。そうなのですね!

「素晴らしく良くて、嵌め心地が最高です。

一生付けていたいです。

ありがとうございます」

だそうですよ」

「そう。

貴女見かけによらず変態なのね?

嬉しい限りだわ。

それならいくら痛めつけても問題がないわね」

「その様でございます」


馬車の中でヒロインの躾の方法を考える。

けれど簡単な事なのだ。

ヒロインが嫁ぐのは敵国の貴族で、

この国への侵攻を辞める代わりにヒロインの体で我慢してもらう事に、

しなければいけないのだから。

少なくとも鞭でぶっ叩かれても、喜べる程度には躾けなくてはね。


「ええと?

「ひどーい。あたしは学園の事を思って言っているんです!

みんな学生で平等に接するのが学園の指針でしょ?」

だったかしら?

なら私も学園の生徒なの。

私が命がけで領地を守ってきたように、

貴女にも命がけでこの国を守らせてあげる。

平等が指針の学園だものね?私と同じになりたいのでしょ?

私とは少し違う形だけれど…

さぁ…命がけで国を守れる様になって頂戴ね。

なれないなんて許さないし?壊れる事も当然許さないわよ?」


豊かな南の地にある素敵な学園は当然この国の王都にある。

当然と言えば当然なのだけれど、贅を凝らした建物の数々は、

安心安全だからこそ人が集まるというその事実によって支えられているのだ。

今まで北は侵略に怯えそして未だその血塗られた抗争から抜け出せない。

そんな中で設立された学園のお陰で治安は安定してやっと豊かになれる、

土台が完成しつつあるのだ。

その土壌を踏みにじろうと「恋愛」を考えていた、

ヒロインを私は絶対に認めない。


「さぁ、ヒロインとして、隣国へ嫁げるようになってね?」


バットエンド直行でヒロインにとっての幸せなんて私は考えない。

ただ、この先避けられなくなる戦争の足音が、

一日での遠のくようになるのであれば目の前の小娘には当然犠牲となって貰う。

だって彼女は平等が好きみたいだから…


馬車は問題なく王都の私の住まうお屋敷へとたどり着くのだ。

そこはこの王都で一番大きい公爵家のお屋敷として建造されてしまった。

私と婚約者様の住まう場所であり、統合される北を支配する両公爵家の、

住まいとして建造されたお屋敷なのである。

王城こそその大きさには勝てないが2家のお屋敷が立っていた場所を統合し、

一軒にして立て直したお屋敷の存在はとても大きいものとなっている。

そしてこのお屋敷は「北部」から侵略する敵国に対して

「団結をしなかった王国の象徴」として建てられた物なのだ。

王国は北の2つの公爵家を支援しなかった理由として、


「ほら、こんなに大きなお屋敷を持てる公爵家に支援は要らないよね?」


と、言い訳をする為だけに「建築の許可」を出したのだから。

強く逞しく成長し始めた北部の象徴であると同時に、

王国に期待をしなくなった最初の「証」なのである。

当然王城、並みに何年もかけて作られたこのお屋敷は戦争の時には、

立てこもり援軍を待てるほどに耐えられる様に作ってあるのだ。

それはもう、王家を信用していないという事でもあるのだが…

この国の王家は未だその事に気付けない。


「北部からの侵略者を撃退しろ」


そうとしか言わない王家は、これからこの国をどうしたいのかしらね?

それでも乙女ゲームの時間は止まらない。

ヒロインを失っても「舞台装置」の学園は当然であるが稼働を辞めない。

乙女ゲームはまだ始まったばかりなのだ。



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