貴族平民分け隔てなく「兵士」に育て上げる、
戦える戦士を作れる場所は多くの戦士の育成も続けるし、
同時に、一般常識と規律を重んじる人材育成を目標としたためか、
商家の評判もよく、兵士となれなかった人も受け入れる場となって、
領内の経済をより強固なものへと変えてくれていたのだった。
そんな時だった私の下に一通の手紙が届いたのだ。
お父様を通して届いたその手紙は私を婚約者として迎え入れたいと言う、
打診だった。
勿論お父様は複雑な顔をしていた。
私の「凶悪さ」を知っているから結婚はさせられないと思っている部分もある。
それでも隣接する公爵家のしかもの長子の相手として望まれたのだ。
おいおいおいおい。
頭おかしいんじゃないのかとも私は思った。
次男三男ならまぁ…
家の顔として立ち振る舞いが求められる「長男」の嫁に私を選ぶって、
頭おかしいんじゃないか?という事しか思いつかない。
一応当家には私の弟がいるので跡取りとしては問題はない。
いや問題がないとかそう言う意味ではなく、私を欲しがる意味が解らん。
「…お父様?コレは偽物でしょう。
私をぬか喜びさせたいと考える輩のきっと多いでしょうから」
「私もそう思っていた。
いたんだが…本物だったのだ。
2度確認の手紙を送ってそれで、婚約者としてお前が欲しいとの事だ」
「は、はぁ…?」
「ともかく打診が来てしまって、断る理由がない」
「いいえ、私の体が傷だらけなのはご存じでしょう?
とても公爵家夫人として立ち回れるとは…」
「それも、承知だそうだ。
承知の上でお前以外の選択肢を考えていないと言って来ている」
「うわぁ…」
「あとはお前の気分次第だ私はどちらでも構わない。
お前が幸せと感じてくれるのであればな…
もう十分領地に尽くしてくれた。
お前にこれ以上望むものはないよ」
「…解りました」
いかず後家で後は適当に剣を振るいながら、
戦場で死ぬだろうと思いながら生きて来て…
誰かの伴侶となる事は考えていなかった。
それに実際その相手だって本当にボロボロになった体の傷を見て、
妻にしたいとは思うまい。
既に公爵令嬢と言う地位は「飾り」でしかなく。
私を表す言葉は「戦女神」なのだ。
会談する事になった隣接する公爵家の息子は同い年だったらしく、
一度戦場で肩を並べた事のある人だった。
あの時、宴会に混じって数回言葉を交わした…
その男が私が欲しいと言ってきた男だったのだ。
一応?公爵令嬢ですからドレスに袖を通す物の、
私の体は傷だらけで肩を出して背中をさらすデザインのドレスを着れば、
嫌でもその傷跡が体の外に見えてしまうのだ。
肩にはザックリと切れた跡があり、コルセットを巻いてもその下の体は。
火傷の切り傷で凸凹なのだ。
コルセットを締め上げれば固くなったところは潰れずに歪になった、
腰のラインを見せびらかす事になる。
当然社交の場で着る様なドレスに袖は通せない。
ツルツルの肌に張り付くようなロンググローブをしようものなら、
光の当たり方で気持ち悪い蚯蚓腫れが目立つ始末なのだ。
仕方がないと割り切っていても袖を通したい物じゃ無い。
男性が着る様なジャケットとズボンで体のラインが出ない様にするのが、
私の普段着となっていた。
流石にこの姿を見れば諦めるだろうと思って私は意気揚々と会談に望んだのだ。
その結果…
頬を赤らめる公爵家の息子…
「傷だらけの体を持ったバカ女が欲しいの?」
「ああ。欲しい」
「そう…」
それ以上断る術が無かった。
抵抗する事も出来なかった。
ギュっと抱きしめられ、そのままベッドインだったのだ。
そして私は婚約者なのだが…
婚約解消できない傷を付けられてしまったのである。
つまる所「女の子」から「女性」にされてしまったのだった。
両家親ともこの展開になると「子息」から聞かされていたらしく、
婚約とするが実質結婚であると宣言してしまっていた。
その後は予定調和の「婚約式」が執り行われめでたく婚約関係となったのだ。
隣国からの圧に耐える為にも一枚岩になる必要があるという事で、
将来的には公爵家領地の統合も視野に入れているらしい。
すまん弟よ…お姉ちゃんはとんでもない事をしてしまったかもしれない。
けれど理由は簡単な事なのだ。
王国の北が一枚岩となって兵士の融通をする事になれば、
南は兵士の派遣をしなくて済むかもしれない可能性が上がるから、
この統合は認められる事になったらしい。
あくまでも平和を享受したい半分は「戦争」から逃げられるのであれば、
領地が肥大化する事も容認できると言う意味なのだ。
けれど、本当にそれで良いのか王様よ?
なんて事も考えたりしたけれど…
口出しをするなら兵士を送れと言われたくない南側半分は、
口をつぐんでそれを王様は容認したのだ。
それは北半分が荒らされても良いと国が判断したからで、
更に私をイラつかせる事になるのだ。
国にまともに戦う気が無いと表明されているみたいで腹立たしい。
その国を守る為に私は剣を取らねばならんのかと思う事もしばしば。
けれどその苛立ちを婚約者様は程よくコントロールしてくれる、
とても頼もしい方だったのだ。
そして王子と同じ年で貴族の義務だとか言いながら入学した、
学園の実態は「乙女ゲーム」とほぼ変わらない。
そしてヒロインは、ゲームを楽しむ気でいやがる。
マジでふざけんなである。
戦争している自覚のない王国貴族の集まりでしかないこの集団に苛立ちを隠せず…
婚約者から「好きにして構わない」と言われた時点で、
私は問答無用でこの「ヒロイン」を捕まえた。
ヒロインのバットエンドは私達のハッピーエンドだ。
容赦はしてやらん。
対面に座っていまだ私を睨みつけている「ヒロイン」
どうしてこうなったのか理解は出来ていようがいまいが関係ない。
ゲームのヒロインとして振舞ったのだから、
バットエンドだって仕方がないでしょ?
びちゃびちゃに濡れた扇子の先を顎下に差し込み、
こっちを向かせるのではなくて天井を見せてやる。
この馬車の天井には無駄に調べ上げた世界地図が描かれているから丁度良い。
「アンタがどう思っているかはどうでもいい。
ただ、世界は学園だけじゃないのよ。
そしてアンタたちの「美しい恋愛」の為に「戦争」する訳にはいかないの。
ねぇ…わかるでしょ?
あんたがヒロインを演じるなら「華々しく人が死ぬ」のよ。
だからヒロインとして「他国」へ嫁いで頂戴。
そうすればこの国の国民が死なないのだから…
愛すべきキャラクターを守るために嫁げるなんて幸せな事でしょう?
さぁ…世界をその目に焼き付けなさい」
「うっぅうっぅ」
ヒロインはそのうめき声を出しながら、
馬車の天井に描かれた世界地図を見続けるのだ。
その地図に書かれた国境がに何があるのか、
今彼女には解らないだろうけれど。
それでもその「世界」を目に焼き付けさせてやるのだ。