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第1話

「ひどーい!あたしは学園の事を思っていってるんです!

みんな学生で平等に接するのが学園の指針でしょ?

だから私が話しかけても問題ないんですぅ!」


…何を言っているのか、この小娘は、

私の目の前で男爵令嬢の一人がそんな事を言っていた。

彼女の言動に私は聞き覚えがあった。

それはとある乙女ゲーのセリフで、

平民だった少女が父親の隠し子という設定で男爵家に入り、

学園で王子様等の高貴か方々と恋をして、

結婚するというシンデレラストーリーだった気がする。

そのワンシーンを私は見せつけられていた。


彼女の貴族としての立ち振る舞いはとても見られたものではない。

アレは乙女ゲームであるから許されるギリギリの事で、実際はアウトだ。

けれどそんな天真爛漫な主人公にヒーロー達は引かれていくのだ。

何なのよこの茶番は?

と叫びたくなる私はその物語に出てくる公爵家の娘だった。

名前だけの登場でこの王国の大きさを示すだけに登場する、

いわば賑やかし程度の存在でそれ故に乙女ゲーの登場するキャラクターとは、

一切かかわらない。

けれど私の家も公爵家であり国を支える重要な家だった。

勿論婚約者もいるし嫁ぎ先に行っても困らない様な教育も受けている。

学園の生徒達は大人の仲間入りする為の準備期間。

少なくとも王国を動かす人が学園で勉強するのでは、

到底国を支えていけないに決まっている。

これから大人として国を支えていく為の人脈づくりの為の時間が、

学園を過ごすための時間なのであって、

爵位の高い貴族は事前学習で全てを終らせているくらいなのが普通なのだ。

学園であるここは社交場としてのみの機能を求められ、

その雰囲気を下級貴族に体験させる為の機能でしかないのだ。

断じて恋愛にうつつを抜かして既に出来上がっている秩序を、

壊すための場所ではない。

それが解っているからこそ私は目の前の茶番劇を認められない。

天真爛漫と言えば聞こえはいいがその実ただ

「丁寧に用意した貴族としての立ち振る舞いを練習する場所を、

自分の我儘を押し通そうとして壊そうとするクソガキにしか見えなかった」

その茶番を見せられた私は、どうしてくれようかと悩む。

いや別にこのまま乙女ゲーの進行を見続けても良いのだ。

問題があるとすれば、エンディング後の事だけ。


こと私達の生きる世界は、中世ヨーロッパチックな、

貴族社会をベースとした良く解らん世界。

その世界の中で優秀な人材を育成するための

こんなにも「平和」な生活を送れているのは前線で戦ってい兵士の、

命を犠牲にしているからに他ならない。

学園を卒業するとヒロインが選んだ相手の所為で家格のバランスが崩れて、

なし崩し的に隣国に攻め入れられ、けれどその戦争の中で愛を育み、

大恋愛をしてハッピーエンドを本人達は迎えるのだ。

けれどその裏で奇襲や強襲を受けて、国は不安定になり、

バカみたいに一部の国境線沿いの村に住まう領民は大損害。

虐殺さえもあるのだ。

そのことを知らされたヒロインが正義を掲げてヒーローと戦うなんて、

バカみたいな物語の展開になるのだ。

そんな事より国の序列を乱さない様にして国境を固めれば、

そもそもこの戦争は起きたりしないのに。

その事を知っていて理解してしまっているからこそ、

目の前の茶番劇を止めるかどうか悩み中。

けれど、遠目にその風景を眺めて私にぼそりと呟く声がする。

私の婚約者が耳打ちしてきていたのだった。


「癪に障るね。

好きに躾けてあげると良いよ」

「宜しいのですか?」

「ああ。

奴らは未来には邪魔だからね」


この乙女ゲームの表面上は同じだったのだけれど、

そこに私という転生者がいた事。

そしてどう考えても今目の前で騒いでいる娘の動きが

「乙女ゲームの主人公と一語一句違わない言葉」を穿いている事から、

どう考えたって「転生者」である事は丸わかりだった。

根拠は私がいるから「乙女ゲーム」と同じ様な展開にはならないはずで。

予言めいた事が出来た私は実家にその「知っている事」を利用して、

ボロ儲けさせている。

その事によって王国内の貴族の勢力図が原作と少し違うのだ。

その違いは波紋的に大きく広がっていきメインヒロインの立場と状況は、

原作とはことなるはずで、現実を知ってちゃんと学園に入学してきた生徒なら、

「平等」なんて言葉は出て来ない。

ただの「ヒロイン」であれば「平等にするのは学園の指針」なんて言葉は、

常識から照らし合わせれば絶対に言えない言葉なのだ。

それだけ貴族達は力を持っている。

この場はその貴族子息達を大人の仲間入りさせる為に整えられた場所でしかない。

平等なんて理念は消し飛んでいるのだ。

そう言った事は「別に設立した学園」でやる事になっている。

学園は形こそ同じだけれど、その育成理念は100%違うのだ。

これも私が行った「知っている事」の成果である。

なので入学している貴族達も当然そう言った教育を受けている。

けれどその中で国王陛下に近い乙女ゲームのヒーロー達は、

ヒロインのその「無邪気さ」という訳の解らない物に惹かれると言う…

大馬鹿をやらかそうとしている。

それをやりたければ新しく設立した「そっちの学園」でやってくれ。

そのために別途「箱庭」を仕上げてあげたのだから。

けれど、結局この学園へと入学して「平等」だの「自由」だの、

言っているのであれば、その存在こそが不要なのだ。


「では…あのバカ女を躾けますわね」

「ああ。不愉快だから徹底的にやってあげるといいよ」

「そうしますわぁ」


そう言いながら私は歩み出したのだ。

そしていざこざをしている集団に割って入ると…

優しく声をかけて差し上げる。


「ちょっと失礼しますわね。

そこにいる可愛い人を「躾」ようと思いますの。

異論がある人はいるかしら?」

「な、なによ!貴女は!」


可愛いヒロインは私の登場に面食らっていたみたいだけれど…

優しく諭そうとしていた悪役令嬢は私を見て驚いていたのだ。

それはそうだ。

「知っていた」私はこの国でそれ相応の立場の家の者になってしまっている。

私が望めば未来の王妃になれるとも言われていたレベルなのだ。

「知っていた事」によって隣国の侵攻を阻止して実家は武功さえ上げ、

先物取引で暴利を上げていたのだから仕方がない。

私が嫁入りをすると貴族のバランス云々と言う形で、

王家の婚約は取り消しとなり同格の家に嫁ぐことになったのだ。

なので…色々な意味でこの学園で私に逆らえる者はいないのだ。

たとえ王家であってもね。

国を守っているのは「当家」なのだから、それ相応の扱いともなる。

王子達もその事を知っているから私に大きな口を出せないし、

婚約者も王家に引けを取らない所なのだ。

私と婚約者を敵に回すという事は、

将来この国で三分の二を敵に回すという事でもある。

けれどそうでもしなくては隣国の侵略に対応できなかったのだから仕方がない。

学園でヒロインが「イチャラブ」している裏で、

リアルに負傷兵を見て来た私はこの平和ボケした王家の王子とヒロインに、

容赦するつもりは毛頭ないのだ。

で、だ。


「あ、の…」

「ああ大丈夫よ?

ちょっと頭のねじが外れてしまって現実を「ゲーム」だと、

思い込んでいる「愚か者」を捕まえに来ただけだから」

「そう、なのですか?」

「ええ。そうなのよ」


そこには王子の後ろに隠れて守られている「か弱いヒロイン」がいる訳だが。

此方を見て私のセリフを聞いた後、明らかにきょどり出したのだ。

けれど愛らしく装いながら「王子様」の後ろに隠れて出て来ない。

か細い声で「王子さまぁ~わたしこわいですぅ」とか言っていやがるのだ。


「さて、王子殿下?その「愚か者」を私に「下さい」ませ」

「え、いやその…」

「平等になりたいのなら直ぐにでも「転校」させて差し上げます。

ええ「平等」が良いのであればね」

「それ、は…いや、しかし…」


もう一つの学園は文字通り平等に扱われる体育会系の学園で、

民兵を立派な一兵士に育て上げ一定以上の能力に「必ずする事」を、

目的とした組織なのだ。

勿論文字の読み書きや計算も教えるし徹底的に平等に扱い特別は存在しない。

そこに貴族も平民もない「学園」なのだが、卒業後は国の下士官や、

商人の家に優先的に就職が出来る素晴らしい学園なのだ。

平民のやる気や意識も高く尊宅のない学園は平民には大人気だ。

そして実力のない貴族にはとても不人気な「学園」である。

けれどそうでもしないとこの国は「戦争」に負けていた。

遊んでる余裕は既にない。

こんな学園の茶番劇なんてやっている事態ではないのだ。

この事を一番理解していなくてはいけない筈の王家の王子がこの体たらく。

私のイラ付きは確実に積み重なっていっている事は確かだった。


「王子?判断は迅速に行うべきです。

さぁ…その「愚か者」を渡せっ!。

嫌なら二人で別の「学園」に入れてやる!」

「渡す!渡します!」

「王子さまぁ!」


口が悪くなろうが何だろうが構わないのだ。

「ゲーム通り」進めさせてなるものかと言う考えだけが私を突き動かしていた。

ここまで育て上げた王国を「乙女ゲーム」として潰されて、

荒らされてなるものかとしか私は考えない。

卒業式のエンディングまで、ヒロインの成長を待ってなどあげないのだ。

突き出された「ヒロイン」に付き人として付いてきた者が、

ヒロインの腕を捻り上げて動けないようにする。


「いたい!いたい!」


煩いヒロインの口の中に先にファーが付いている扇子をねじり込んで黙らせた。

「ふぐぐっ」

「黙れ。私の下でこれから「貴族令嬢」になれるまで「躾てあげる」

逃げられると思うな」


それだけ言うと私はヒロインを連れて歩き出したのだ。

この女が転生者であろうがなかろうが…

せっかくマシな教育が出来る様に準備した「乙女ゲーム」の舞台である学園を、

荒らされてはたまらない。

エンディングまでヒロインが天真爛漫に、

愛が溢れる場所でいる事なんて許さない。

ヒロインのお口に扇子をぶち込んだままニコリと悪役令嬢に声をかける。


「しっかりとお二人で愛を育んで下さいませ。

それがこの国の為であり未来に必要な事なのです。

このような「愚か者」に近づいてはいけませんよ。

王子と令嬢で話し合って蟠りが無くなるまで討論なさいませ

それでは今日は気分がすぐれないのでこの「愚か者」と一緒に、

早退しますね」


それから一例だけして、ヒロインの口に扇子をぶち込んだまま、

私は家から呼んだ馬車に乗り込んだのだった。

当然ヒロインと一緒に。

馬車に乗り込んだ私はヒロインを正面に座らせて…

とっとと確認作業に写るのだ。

当然乗り込む前に背中側で両腕を縛っておいてある。

反抗も抵抗も許さない。

これが階級社会で上位にいる者は何をしても許されるという事を、

実感していただく事にする。

ずっぽりと口から扇子を抜いてあげると、

そのベタベタになった扇子をヒロインのスカートで拭うのだ。

そして前を向くことなく問いかけてやる。


「アナタ?転生者?」

「え?何?何言っているの?」


とぼけようとして何かを探っているかのような態度を取ろうとしたのだ、

けれど、もうわかっている何誤魔化せた気になっているのか解らない。

なので、ドンみぞおちに扇子をつきたててやるのだ。

違ったら違ったで構わないけれど転生者であった場合は容赦しなくて言い分、

楽にはなるな程度の考えなのだ。

もう彼女の未来は決まっているしね。


「うっ。げほ」

「さっさと答えて」

「そ、そうよ!何?何なのよ!

せっかくゲームが始まって好感度を稼ごうと思っていたのに!」


そんな事を口走った物だから、

ついつい手が出てしまったのだ。

私の右腕は容赦なくヒロインの顎を掴み睨みつける。


「黙れ、この世界は「ゲーム」に興じる時間など無い。

もう既に隣国は戦端を開きたくてうずうずしているの。

バカな恋愛ゲームなんてやっていたら人が死ぬのよ。

アンタ達の恋愛ゲームの果てに戦争が起きるなんて許さない。

そしてアンタは逃がさない。

私の下で淑女教育を受けて貰ってしかるべき敵国の家に嫁いでもらう。

これは決定事項よ。

死にたくなかったら死ぬ気で敵国の事を学びなさい。

それがヒロインであるアンタに用意してやれる唯一のエンディングだ」

「な、なにそごぉ…」


返事を聞く前に口の中に布を詰めて、

轡を嵌めてやる。

そして屋敷に帰ったら、徹底して淑女教育を叩き込むのだ。

その果てに敵国に嫁がせるのだ。

それが唯一この国に被害を出さない「エンディング」なのだから仕方がない。


公爵令嬢はヒロインが天真爛漫である事を許せない。


そして国に被害が出る事も当然許さない。

乙女ゲームのエンディングで国に被害が出ないエンディングは、

誰にも結ばれないエンディングだけなのだからこの結末は仕方がない事なのだ。

乙女ゲームの理論で生きようとしたヒロインに公爵令嬢は強制的に、

誰とも結ばれないエンディングを選ばせてそのルートへと連れて行くのである。


「誰が卒業まで待ってやるものか。

そんな面倒な事していられない」



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