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第43話



第2王子殿下は「高い志」という言葉で覆い隠して、

問題ないと言い切ったのだ。

フルフルと私は首を横に振る。

今の話はあのまま嫁いだ場合の話なのだ。

あの時最後のブレーキをボルフォードに掛けなかった王家はもう、

ファルスティンに宣言してしまったのだ。

ファルスティンの人間をまともに扱うつもりはない。

「貴族」として扱うなら王家の引いたルールを、

ボルフォードに守らせるべきだった。

それすらしなかった「貴族の法」を守らせる側の存在である、

王家が放置した事の罪は重い。

重すぎるのだ。

例え大きな力関係があったとしても守らせなければ、

辺境で王家に忠誠を尽くして来た「貴族のファルスティン家」は、

貴族としてすら王国に見られないという事になってしまう。

あの婚約破棄騒動の裏に隠れたもう一つの事。

ファルスティンの貴族としての立場は完全に壊されたのだ。

「王家」の手によって。

だから「ファルスティン伯爵」等という「爵位」にお父様も固執しない。

見せ掛けの爵位を手にするより独立国家並みの権限をお兄様に残したのだ。


「ですが王家はボルフォード家の暴走を止めなかった。

カーディル・ボルフォードの相手は私ではなく、

ソフィア・マリスが良いという事にしてしまいました。

それが全てでしょう。

エルゼリア・ファルスティンは王家には必要ないと、

既に宣言しているではありませんか。

それを今更あなた「程度」を派遣したとして何だというのです?

王家が私達ファルスティンに願える事はなるべく干渉しないでほしいと、

願う位が限界なのですよ。

それ以上を求めるのであれば、それ相応の覚悟を見せて戴きたいのです。

そうですね…

王位継承権を捨てて、ファルスティンの国境にある砦に体一つで赴き、

そこで何年もかけで信頼を築き上げて王国の兵士を退け、

手柄を立ててやっと…

私の前にいる事を周囲に認められる段階となるのではないでしょうか。

・・・私の隣は第2王子殿下が軽々しく立てるような場所ではないのです。

ファルスティンを愛しファルスティンの為に死ねる人でなければ、

周囲がそれを許しても私がそれを許しません。

お判り戴けたかしら?」


王国の血が貴重で尊いというのであればそれでもかまわない。

けれどその王家の血筋よりも私は、

ファルスティンを支え続けた、ゼフィラやエストラの血を大切にする。

優先すべきはファルスティンを育てた人々なのだ。

ポッとやって来た王家など私は対等に扱わない。

此方の貴族としての権利を踏みにじっておいて自分だけがその貴族の権利を、

振りかざすなんて私は許さない。


「君に私の声は届かないのかな?」

「届けるだけの「覚悟」も見せないで何を言っているのですか?

ファルスティンが豊かになったと考えたから、

支援させる理由として第2王子殿下は派遣されたでしょう?

そんなアナタがファルスティンの何の役に立つというのですか?

今なお「支援」する理由を作る為に私と話したかったのでしょう。

役に立たない「王家」との繋がりなど私は要りません。

ファルスティンは自分の足で立ちました。

数々の困難を自力で克服してきたのです。

王国は「何も」していないのです。

貴方達王国と王族はファルスティンに戻った「私」に何をさせたいのですか?」


王国が破った貴族として扱わなかったという事実は、

それほどまでに大きい。

大きくなくてはいけない。

忠誠を誓わせるだけ誓わせて置いて何もしないなら統治者として、

存在する理由がない。

学園は半人前の貴族の集まりだからという言い訳も通用しない。

その半人前の人間をフォローを一人前の大人の貴族がしたのだ。

その貴族の判断が忖度の結果である事は言うまでもないけれど、

結果ファルスティンは切り捨てられたのだ。

それを金で解決して何事もなかったことにした。

法的に問題がないと王家は学生達の正しさを肯定してしまったのだ。

今からひっくり返すのであればボルフォードがばら撒いた以上の金を使って、

あの正義を掲げた貴族の子息達を処断しなければいけない。

私は倫理的に正しい行動はしていなかった。

それは十分に理解している。

理解してなおやらない訳にはいかなかった。

この壊れかけの王国を維持するのに綺麗事だけではやっていけない事を、

既に理解していた。

だから灰色と黒に染まっても忖度と選別をし続けた。

王国の未来と生まれてくる我が子の為にも。

誰が言ったのかは覚えてはいないけれど


―悪には悪の正義があるのよ―

―正義だけで世界が回るほどこの世は簡単じゃない―


不正をしたとしてもその不正で誰かを救えるのなら、

私は喜んでその沼に入ろう。

人生を掛けて薄暗い決して明るく照らされる事のない道を歩こう。

私はそれだけの知識と強さと優しさをファルスティンで貰ったのだから。


けれど結果は婚約破棄。

この結果でこれ以上王国に尽くすなんて無理でしょう?

王国は私に何をさせたいの?


第2王子殿下はそれ以上何も口に出来なかった。

直球すぎる質問に回答なんて決まっている。

けれど真っ向正面から答えてしまったらファルスティンは敵になる。

もう第2王子殿下は何も答えられない。

私はそこまで追い込んだ。


「さて、殿下お帰りはアチラです。

お兄様も義姉さまも殿下のお言葉を待っています。

声を掛けてあげて下さいませ」

「あ、ああ。そうするよ」


スッと扇子で出口を方向を指し示した。

その先にはお兄様達がしっかりと待って殿下が出ていくのを見ている。

そこまでしてやっと殿下は出口へと歩き始めた。

傍付きの人々は周りの騎士達の胆力に負けて気分が悪くなって、

先に馬車へと詰め込まれているから問題はなかった。

もちろん殿下の護衛の騎士も近くにいたけれど…

その騎士一人一人に此方も大きすぎる武器を持った騎士を宛がって、

少しでも剣を握ろうとしようものなら容赦なく殴り飛ばしていた。

魔法を使わない騎士の質さえ、もはや比べられる差ではなかった。

守りの精鋭であるはずの王都の騎士たちなどファルスティンの兵士に比べれば、

雑魚扱いであり手の届かない強さに差がある存在なのだ。

やっと周りが静かになった。

私は口元を隠しつつ呟いてしまう。


「勘違い背伸び野郎」


それがあの第2王子には相応しい。

真っ暗闇になった車寄せで王子は大人しく乗り込み、

騎士達も配置についてやれやっと動き出せると思った瞬間、

第2王子殿下は窓を大きく開け放ち、大声で叫び出したのだ。


「私はっ!私は諦めない!いつか…

いつか必ず戻ってきます!

貴女を納得させられる姿で!

それまで、待っていてください!」


馬車はそのまま走りだす。

私に対して言った言葉な事は解るのだけれど、

名指しされなかったし。

待っていてくださいって何を待てばいいのやら。

さっさと諦めて何処かに行ってくれれば良いのに。

けれどそのバカみたいな叫び声を聞きながら私は思うのだ。


「何を待つんでしょうね?誰が?」


私の声は確かに周囲に聞かれ、

その言葉を聞いた周囲がクスクスと笑い出したのだ。

そも笑い声で会場の雰囲気も変わる。

同時にお父様が声を上げた。

もうここにはファルスティンの領民しかいなかった。


「さぁ、任命式は終わった!目出度い席なのだ!後は無礼講だ!

我らのよりよい未来を願い共に生きよう!

新しい時代の幕開けた!」


周囲には酒樽が運び込まれ食べ物が並べられる。

そしてお父様と叔父様の周りには長い間二人を支え続けた人々が、

集まり昔話を始めるのだった。

そしてお兄様やギネヴィアや私の周りにも新しい世代の代表者達が集まる。

話は花開いて行く。

お兄様がどの程度の「剣(都市)」を望んでいるのかを聞いて、

私も王国との距離の取り方を決めたかった。

程よくお酒で酔ったおお兄様夫妻は用意された大きいカウチに座りこんで、

皆の会話に耳を傾ける。

ギネヴィアもまたアルフィンが率いる技術集団のリーダー達と、

楽しい会話をしているみたいだった。

私もリラーナと新都市建設に係る人達と会話を続けることになった。

その会場にはファルスティンの確かな未来を創る「夢」が広がり、

形を成すのを待っている。





夢が現実へとなる場所だった。





それから数日して色々な事を領内に周知する事が始まった。

ファルスティン領内の世代交代と新しい都市建設が始まる事。

そして「領都」それから「港湾都市」そして、

新しい「商業文化都市」の名前が発表された。

各々に付けられた名前は私達の名前だった。

「領都ライセラス」

「港湾都市ギネヴィア」

そして「商業文化都市エルゼリア」

これからのファルスティンはこの3つの都市を中心に、

発展していく事になるのでしょう、


そして商業文化都市エルゼリアが成功すればするほど、

王国の経済は追い詰められていく事になるのです。

それだけの物をお父様と叔父様はファルスティンに残して下さいました。


そうです。


悪役令嬢は何もしない。

けれど叔父様は世界を変えてしまいました。



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