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第39話

王族にとって予定通り開始された式典は招待客の入場から始まり、

屋敷の一番大きな空間に来賓客には先に入ってもらったみたいで…

会場には色々な言葉が飛び交っているみたいだった。

護衛として来た騎士もさることながら、

絞ったはずだけれど招待客は多そうだった。

それなりに人数が入る会場ではなるけれどどれだけの人がいるのかは、

私には想像がつかない。それでも声は掛けられる。


「ただいまより本年度のファルスティン家バルダー家の任命式を執り行う」


誰が言ったのか解らなかったけれど、

それでも私達が待機させられていた部屋の大きな扉は開かれた。

私達はお兄様夫妻を先頭に、私そしてギネヴィア夫妻と言う形で入場し、

王国の定めた形の式が始まる。

お父様達がいる一段高い部屋の一番奥までは、

ファルスティン家が抱える騎士たちが式典用に作った鎧を着て、

列を作り、私達の為に道を作っていた。

騎士達が携えるのは全て魔法剣。

叔父様の作った中でも最高の出来の物で威力も防御も極上品。

式典用に持っていても武骨にならない様に装飾も施した素敵な得物だった。

彼等はその特徴的な魔法武器を振りかざし来客と私達に見せつける。

それは招待客達が少しでも可笑しなことをしたら殲滅する勢いの臨戦態勢。



―見たければ見ても良い―

―我らが守る次世代の者達に牙を少しでも見せたら問答無用で殺す―

―友好関係なんてクソくらえだ―


そう言っているに等しかった。

けれどこれが今のファルスティンのアネスお父様の妥協点。

これ以上警備の質は落とさないし落とすのなら来なくても良い。

そう言う事のなのでしょう。


お父様世代の憎しみと、国への不信感をたかが第2王子を向かわせたから、

解消されるなんて思わない事だと、態度でアネスお父様は表したのだ。




部屋の一番奥。

一段高く作られた所に3人の人が並んでいた。

真ん中にはアネスお父様そして左にはゼファード叔父様そして右には…

若そうな男。

お兄様の着ている物に匹敵する豪華な衣装を身に着けた男が立っていた。

歳はお兄様より若くは見える。

白を基調とした王国の色を身に纏い王族に認められた姿をしていた。

当然容姿も見眼麗しくうっすらと微笑みかけるその笑顔は、

何名もの女性を虜にして篭絡してきたのかもしれない。

たぶん王国から来た第2王子殿下なのでしょうね。

私はゆっくりとお兄様に続いて歩き出す。

お兄様の歩みは遅くターシャ義姉様の歩くペースに合わせているみたいだった。

義姉さまは必死に歩いているけれど…

その歩みは遅い。当たり前だけれどあれだけの物を着せられて、

まともに動けるのならそりゃ超人だと思う。

私でさえギリギリなのに。

それ以上の装飾を施されたドレス着せられている。

立場が人を逃がさない良い例だとは思う。

けれど手助けをする事は「王国の規定」で許されない。

式典内では一人で自立して行動できなければ、

貴族の資格がないとされてしまう。

義姉様!頑張れ!頑張れ!としか私には言えなかった。

男爵令嬢だった姉さまの体力は令嬢としてはある方で、

それでもそれを打ち負かすほどの重さって…

針子さん達頑張りすぎだったよ。


それでも所定の位置までだとりつき二人はお父様から、

言葉を掛けられるのだった。


「この場を持って宣言する!

私、アネス・ファルスティンは現時刻を持って爵位と、

ファルスティン領における私の持つすべての権限を、

ライセラス・ファルスティンに移譲する!

…受け取ってくれるか?息子よ」

「アネス・ファルスティン伯爵閣下。

謹んで御受け致します。父上達の巻いた種。

そして作り上げた希望を引き継ぎ、

より一層豊かな領地へとする事をここに誓います」


その瞬間会場全体に盛大な拍手が鳴り響く。

そして伯爵位の証である剣をお兄様は受け取るのだった。

二人の会話が漏れ聞こえてくる。


「済まない。もう私は牙を隠す事が出来そうもない」

「私もアネス兄さんも国を恨み過ぎている。後は任せる」

「ご安心下さい。私なりのやり方で王国とは折り合いを付けていきます。

もちろん…エルゼリアの事でもね」


その瞬間お父様の横にいた第2王子の表情が強張った気がした。

お兄様の表情は見えないけれどいったいどんな表用をしたのか…


「お手柔らかに」

「王国の態度次第です」


それはもはや友好的な態度とは言えず。

けれど王国としてはこれが出来る最大限の誠意なのかもしれない。

お兄様は私達の方に振り返ると、


「では、ライセラス・ファルスティン伯爵として、

ここからは進めさせて戴く!」


その宣言を聞いて私とギネヴィア達はライセラスお兄様に頭を下げる。

それだけで十分だった。


「まずは、ここにいるギネヴィア・バルダーとアルフィン・アズワードの、

結婚を領主として認める。

これは既に王国の法によって認められた事であり、

この決定に口を出す事は誰であっても許されない。

この決定に異議を唱える者は、王国とファルスティンを敵に回すものと知れ!

そしてギネヴィア・バルダーもまた、

ゼファード・バルダーより男爵位を移譲される事とする。

ギネヴィア・バルダーよ受け取ってもらえるか?」

「ライセラス・ファルスティン伯爵閣下。

ゼファード・バルダーからの爵位の移譲。謹んで御受けしたします」

「うむ。ゼファード殿の様に自由で愉快な活動を期待している」


それは誉め言葉なのかしら?と、突っ込みたくなってしまいそうになる。

けれどこれでギネヴィアはファルスティンが、

全力を持って守らなければいけない大切にされる存在になったという事だった。

そして次は私の番。


「そして、エルゼリア・ファルスティン伯爵令嬢。

お前には一つの都市の建設を頼みたい。

これは、父上と叔父上との長い話し合いを持って決定された事だ。

変更はない」

「都市の建設?ですか?」


いきなり宣言される都市の建設。

けれどもうファルスティンには大きな都市が2つある。

王国と仲良くやっていくのならこれ以上の内需の拡大は必要ないはず。

たとえ王国が王都の「余剰人員」をファルスティンに投入しても、

港湾都市の発展と領都の成長で人口増加は吸収できてしまう。

領内の成長曲線は上向いているのだ。

無理にもう一つ都市を建設しなくとも領内の経済は回っていく。

それなのに?

都市を丸々一つ作り上げる?

まさか。

そんな事をしてしまったら王国内の人口バランスにも…

うそ。

だってそれは。

お兄さまは王国にダメージが入る事をするつもりなの?

私は目を見開くしかなかった。

チラリと第2王子殿下の表情を見る。

けれど彼の表情は平然としていて…

何も考えていないみたいだった。

アレがポーカーフェイスならそれはそれですごい事だと思う。

けれど本当に?


「そうだ。領内には行政を司る領都。

第2の都市として工場と技術の為の港湾都市がある。

だが、それだけではまだ必要な都市が足りないのだ。

商業と文化の為の第3の都市を築き上げたい。

港湾都市の様な工業然とした場所でもなく。

領都の様な古い文化が根付いた場所ではない。

新しい「文化」とそれを中心とした商業の為の都市が必要なのだ。

既に予定地の選定も終わっている。

あとはどうやって都市を導き作り上げるかという段階まで、

話は進んでいる」


熟考の末の結論で私に言っている事は解っている。

お兄様は王国と戦う為の材料を欲している。


―俺に武力で戦う以外の武器を作ってくれ―


それがお兄様の願いであり、

ファルスティンを統べる伯爵閣下の願いでもある。

お兄様は続けて話してくれる。


「叔父上が言っていた。

この新しい都市は「未来を知る者」でなければ作る事が出来ないと。

そして叔父上の代わりに育てる事が出来る者がいるとすれば、

エルゼリア以外にはいないと断言している。

技術を知り貴族を知る者でなければ駄目でこの都市は絶妙なバランス感覚を、

持つ者でなければ作り上げることは出来ないと。

私達夫妻もそう考えている」


その言葉はもう一つの意味に聞こえてくるのだ。

私に囁き掛けるのだ。


―無力でいるのは終わりにしましょう―

―大切な者達を守る為戦いなさい―

―あなたには剣も盾もあるのだから―


「ならば…

ならば全力で答えましょう!

私の持つ全てを使って新しい未来(都市)を作りましょう!」


その時エルゼリア・ファルスティンである私は、

王国や貴族と戦う権利を手に入れたのだった。

守られるのではなくて戦う事を許されたのだ。


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