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第35話


私は干渉を諦めて手綱を手放した王国とのパワーバランスの崩れ方を、

どうやって王国は引き戻そうとするか

それが楽しみでならなくなって来ていた。


「もちろんそれ以外に付属する事が多々あります。

まず大きい事としましてはギネヴィア様とアルフィン様は、

ご結婚の許可を戴き直ちにゼファード様が署名して王国貴族として、

正式に認められた夫婦となっております」

「…そう。二人ともおめでとう」


いきなり告げられた事実にギネヴィア達二人は唖然とした。

けれど「式」ば別として書類上は結婚という事にしておかないと、

ゼファード・バルダーの娘と言いう肩書を欲しがって、

干渉してくる貴族が大量に現れる事は考えなくても解る事だった。

王国に繋ぎとめて置くためにも王国自体がそれを望むかもしれない。

今はファルスティンは大量の「金山」を領地内に作っている様な物なのだ。

貴族達がその事に気付いて富を貪ろうとすればたちまちの内に群がってくる。

何処まで続くか解らないけれど王国貴族の事だターゲットをギネヴィアの、

産む子供達に切り替えてくるかもしれない。

けど…

きっとその頃にはファルスティン領内に「学園」を作れば良いだけの事。

干渉しない事を勝ち取ったのだから

アネスお父様もそうする事を望むでしょうね。

当家の独立性をより強固にするために。


「ゼファード叔父様は、最後までギネヴィアを守りきったのね…」

「エルゼリア様…」


ちょっと羨ましい。

男爵位のある程度自由に過ごせる身分だったけどギネヴィアは、

自分で立てるようになる「今この時」まで叔父様の用意した揺り籠の中で、

誰からも干渉される事なく生きてきて、

そしてこれからはアルフィンと言う守り手に守られる。

私より令嬢らしくないけれど私より令嬢として守られた。

ん~そう考えると嫉妬しそう?

でも、ギネヴィアもこれから苦労するのだしね。


「そして一番大きい事ですがアネス様とゼファード様は引退なされ、

ギネヴィア様が正式な男爵位を。

ライセラス様が領主の座と爵位を、

正式に引き継ぎファルスティン領領主となられます」

「え?それは早すぎない?」

「年齢、実務経験の深さ。どれをとっても早くはありますが…

「もう待たない。これ以上は私達には無理」

アネス様とゼファード様が限界宣言をなさってしまいました」


お父様と叔父様の引退。

細々と口は出してくるでしょうけれど、

それでも全責任を御兄さまに預ける事は領内の世代交代が、

終わってしまう事を意味した。


「同時にこの世代交代が、

王国がファルスティンに全権限を与える条件の一つとして提示されました」

「恐れたのね「お父様と叔父様の怒り」を」

「その通りです」


絶望を希望後に変えたゼファード・バルダーとアネス・ファルスティンが、

見てきた希望に変えるまでに流れ落ちた命の多さそれを知る人は、

二人の国に対する「怒り」の大きさも知っている。

だからこその世代交代。

ライセラスお兄様とターシャ義姉様は希望の中で生きてきた。

勿論私とギネヴィアとアルフィンも。

お父様達が抱えている「怒り」に比べればまだ私達の方が王国に対して、

友好的に接してくれるかもしれないという、「希望」を王国は持ちたいのだ。


王国に友好的な態度を取ってほしいからの権限移譲と世代交代。

理には合っているのだけれど…

学園とボルフォード家はその道すら潰しているのだけれど?

王国内に誰一人として残せなかったファルスティンの関係者。

学園の内情から始まるこれからかかる外交的圧力。

王国は焦るわね。

確かに。


「それで王国では、このファルスティンにとって素晴らしく目出度い、

「任命式」に祝辞を述べたいとして、王国の第2王子殿下を寄こすそうです。

年齢はエルゼリア様の3つ上。

なんでも?

「この目出度い日に出会う二人は周りから祝福されるでしょう」

との事で?エルゼリア様と第2王子様の出会いは?

素晴らしい未来の始まりだそうです?」

「…死にたいのかしら第2王子様は?」

「そうですね。私もそう思いますが…

国王陛下に行くように促されたのでしょうね。

未来の王国の為に」

「人選が間違っているとしか思えない…」


王家の人間は国策として王都で捕まえた「余剰人口」を、

「絶望のファルスティンへ」無理矢理連行した実行者なのだ。

この領内の事を考えたら、来ること自体が間違っている。

それに王家の第2王子が来るとなると近隣諸侯もこぞって参加する事になる。

勿論目当ては第2王子であってファルスティンではない。

けれどそれで知る事になるでしょうね。

王城の様な領主の館と発展しすぎて王都と見間違うほど成長した領都を。


「王家はファルスティンを正しく貴族達に理解させたいようですが…」

「やめてほしいわね。

これ以上面倒くさくなるのは」

「ムリですね」

「解っているわ」

「リリー姉様が、今必死になって催促のお手紙を整理しております。

学園でエルゼリア様に不義理を働いたと思われる物は、

漏れなく招待枠から外しておりますので。

リストのご確認を後でお願いしたします」

「解ったわ」

「ですが…急ぎエルゼリア様とギネヴィア様アルフィン様に、

して貰わなければならない事が御座います」

「…何かしら?」

「任命式のドレスが出来上がっております。

エルゼリア様とギネヴィア様専用のパリュールも揃いました。

現在リチェルチェ姉様が出来の最終確認をしています。

試着して頂きご衣裳と相性の最終チェックをさせて戴きたく…」

「もう、十分したと思うのだけれど?」


ギネヴィアも後ろで頷いていた。

式典用のドレスの試着は済んでいる。

調整用の修正も済んでいるはずだ。

もう後は当日に着るだけにしたはず。


「いいえ。パリュールと傍付き達との「合わせ」が済んでおりません。

鉄馬の中で針子達が最終調整を行いました。

後は私達が正式な傍付きの証として配られる、

「エルゼリア様傍付き」と、「ギネヴィア様傍付き」の、

証へお嬢様方からの正式な魔力感応刻印と魔力封入。

そして職人たちの努力の結晶「パリュール・エルゼリア」の

フィッティングチェックの修正は今やらないと間に合いません。

首からダラリと無駄に垂れ下がったネックレスや、

腕に嵌ったブレスレットがユルユルだったり、

アンクレットがヒールに当たってキンキン音を鳴らしたり、

チョーカーが緩くて首を動かす度に宝石が動き回る、

だらしないエルゼリア様を見たくありません」


リラーナは具体的調整をしなかった場合どうなるかを話してくる。

そんな事言われたらもう断れる訳無いじゃない。


「失礼します」


にこやかな微笑みと共に、より一層私達を着飾らせる為の物が運び込まれる。

もちろん運んでくるのはギネヴィアの専属となるリチェルチェだ。

彼女もまたギネヴィアの色を纏い、

ギネヴィアにしか許されない刺繍を縫い付けられた専用のメイド服を、

しっかりとを着用している。

リラーナとはまた違う雰囲気のドレスの様なメイド服で、

「専用」の2文字に相応しいデザインへと仕上げられていた。

ドレスをトルソーに着せて台座に乗せて部屋に持ち込み、

その絢爛豪華な出来栄えを私たち二人に見せるのだった。

リチェルチェの微笑みは最高潮。

私への挨拶もそこそこに丁寧に仕上げられたドレスの説明を始めた。

昨日の夜覚悟を決めたギネヴィアの表情が涙目になりそうなほど、

私達に用意されたドレスは豪華な物へと仕立て上げられている。

その上から用意される装飾品の数々はデザインを統一したパリュール。

一つ二つではなくて全身くまなく取り付けられる事になる。

私達が身に着けるパリュールは特注品も含まれて用意されていた。

それ以外にも重要な物として運び込まれた大き目の鞄。

その中にはドレスの下に仕込まれる防護用の品々。

私達の命を守るいわば盾の様な物が無数に用意されていたのだった…

王国とファルスティンの関係の象徴ともいえる品々だった。

傍付き意外には絶対教えられない結界石を縫い込まれた保護具。

安全のために式典の日は一日中この重たそうな保護具達も、

ドレスの下に仕込んで置かなくちゃいけない。

王国貴族さえ来なければ、

そこまで考えなくても良かったのかもしれないけれど。

信用できない者が式典に出席する事になってしまった。

そしてその者達を護衛する信用ならない兵達も会場にはいるという事。

…我慢しなくちゃね。

つまり式典用ドレスは死ぬほど重たいという事に他ならない。

そして任命式は朝早くから始まり夜遅くまで続く。

ギネヴィアにとっては地獄の様な式典になりそうね…


「さあ!お嬢様方お着換えのお時間ですよ!」


元気に宣言するリチェルチェの言葉に従って、

私達は衣装の最終チェックと言う名の防護具をドレスに仕込む作業が始まる。

結局私達の衣装の調整は任命式前日までかかるのだった。


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