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第34話

領内挙げての任命式は私達の知らない内に王都でアネスお父様が正式に、

もぎ取った書類を元に計画を変更して、

王国に提出しなければいけない領内の組織図に合わせて、

全てを変えてしまう方向で任命式は行われる事になったらしい。

領内における組織の若返りという事になっていたけれど。


「国内の貴族の認識は解りませんが…

王国はアネス様とゼファード様の怒りを「正しく」認識できた様です」

「それは、不干渉を勝ち取ったという事?」

「爵位には合いませんが領地の持つ権限としては、そう言う事になります」


リラーナの明確な説明。

王国が正しく理解してそして領地へ許可を出したという事はもう、

王国に取引できる材料がない事を意味している。

貴族諸侯はともかく王国はファルスティンの敵に回らないという確約なのだ。

それの意味する事は大きい。

独立した一領地としてやっていく事を王国が許可したという事なのだから。

権限でいえば公爵家にも劣らない。

それほど譲歩しても一領地として王国の配下に留まってほしいと、

王国は願ったのだ。

ファルスティン領を正しく理解したうえで、

その許可を国王陛下が出したと言うのならもう王国に交渉材料は、

権限を与える事しかないという事になる。

そして与えられた権限の中で一番大きいのは国を抜きにして外交する許可だ。

交易の自由さえ手に入れてしまったのだから。

もちろん、国があの港湾都市を知らないとは思わない。

もう独自に海運交易を始める準備も解っているはず。

辺境の一つの国として独立して運営する暗黙の了解。

そこまでしてでも押し留めたい理由が国には出来てしまったという事になる。


「今更理解したのかしら?」

「我々まで構っている余裕が無くなってきているのかもしれません。

周辺国も活発に王国に対して圧力を掛けているようですから」


王国の敵と呼べる存在は何もファルスティンだけではない。

ファルスティンよりも優先するべき問題が王国内にはゴロゴロとしている。

国境を隣接する国は多い。

帝国や王国それに共和国だっているのだ。

各国との駆け引きは国内のファルスティンを相手するよりも重要な事。

複数の国との駆け引きの方がもちろん優先するべき重要な事なのだ。

大陸の中央を抑えている王国は多くの国と国境を接してしまっている。

いわば交通の要所に王都は存在する。

その王都を中心に北にファルスティン。

南に1つの巨大帝国。

東に共和国と王国が4つ存在する。


王国は最悪なほど立地条件が悪かった。

それでも国を存続出来ていたのは強い王政をしいて貴族達を締め上げ、

王家には絶対的な服従を促しているからである。

強い団結なんていえば聞こえは良いけれど、

王家の役に立て。立てなければ戦って死ねが王家の本音なのだ。

交通の要所を抑える王国は、交易を複数の国とする事が出来るから、

豊という事になっている。

けれどそう簡単な物じゃない。

交易の利益のほとんどは国境の守りへと費やされ

ほとんど国内に残る事はない。

毎年おこる小規模の「いざこざ」は日常的に起こり、

そこに充当する兵士だってタダじゃない。

相手の魔法を封じる高価な結界石だって国境には大量に配備せねばならず。

けれど無理をしてでも王国は国境を動かせない。

国境を越えられるという事は、王都へ侵攻する事を許す事に他ならない。

王国さえなければ…

周辺国は周囲の土地を非緩衝地帯にして、

豊かな土地だけを利用して農業にいそしむだろう。

土地の豊かさと住まう場所は同じ場所が良いとは限らない。

典型的な立地条件だった。

交易の利益と外交的な立ち位置の確立のために、

見栄を張る事を辞められない王国は…

絶対的強者になるか見栄を張れなくなり滅びるその日まで続くのだ。


「学園の生徒を見て、次世代の者達ならと考えられても可笑しくないわね」

「仰る通りです」


もちろんガバガバの学園ですからスパイなんて入りたい放題だし。

時期国家運営者の「失態(正義の事)」を見れば挑発しやすく御しやすい。

そんな事は他国の諜報員にはもろバレだろう。

必然的に外交に人員が割かれて、国内の案件は後回し疎かになる。

長年見て見ぬふりをしていた「ゴミ箱の様な領地」が、

奇跡的な発展をしてしまった事は王国とっては誤算で、

そして取り返しのつかない状態になったと判断されても可笑しくはない。

周辺国の圧力の掛け方だって年単位の計画だ。

一長一短でコロコロ変わる計画ではないから…

なんとかあと数年かけて「正義の貴族」をまともにしなくちゃいけない。

苦しいでしょうね王国の教育者達は。

その上で王国の北にあるファルスティンまで敵に回したら、

兵士の数は足りなくなり防衛線の構築も難しくなる。

そして現在のファルスティンを支えている主要人物は、

王国から「補充」と言う名の下連れて来られた、王国の余剰人口。

ファルスティンへ捨てられた王国の人間な訳で…

いくら締め付けたとしても意味はない。

ファルスティンの領民は王国となら喜んで全滅戦争を仕掛けるでしょうね。

たとえ相打ちになったとしても、王国中を荒らしまわって痛手を負わせてやる。

そう思っている領民がほとんどだ。

今ファルスティンが王国に侵攻すれば王国に勝てなくとも致命傷を与えられる。

直ぐに立ち直れないほどの深手を負った王国は他国の侵攻に対して、

抗う事は出来なくなり滅びの選択肢しか与えられないのだ。


エルゼリアの婚約破棄と言う事柄は色々な所で連鎖反応的に、

王国の情勢を悪化させている。

そうならない為の貴族としての練習場「学園」だったはずなのに。

その学園のいい加減すぎる設定によって王国は追い詰められているのだから。

学園の開校当時の高い志は思い切り貴族の都合の良い様に歪められ、

ご都合主義の学園を作り上げたのだから仕方がない。


ふと思う。

乙女ゲームとしてこの国を私は知っていたけど、

その乙女ゲームがあったからこの王国はこうなったのだろうかとも。

いいえここはよく似た世界であって乙女ゲームの世界ではない。

だってゼファード叔父様がいたのだから。

それを差し引いてもこの王国はきっと長続き出来なかったのでしょうね。

学園と言う未来を占う王国の人材パラメーターを見れば、

遅かれ早かれ王国が窮地に立たされる未来はやって来た。

美しく展開される乙女ゲームの舞台は最後の綺麗な花だったのかもしれない。


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