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第23話

ゲームのエルゼリアの「決意」はともかく…


「私」はカーディルに執着する理由もなければ責任もなかった。

その辺りで政略結婚だからね。

と割り切った私はそれ以上のモノを、カーディルに求める事をしなかった。

公爵領では「せっかく公爵夫人にしてやるのだから、カーディルの面倒を見ろ」

という圧力を受け続けたけれど…

払っても払わなくても良い支援金の為なんかに、

私は必死になったりは出来なかった。

お父様にとっても自身を軽んじられた不本意な婚約であるから、

社交界の場でボルフォードの人間がお父様にマウントを取る事も出来ない。

思惑が外れた婚約者となっている事は確かだけれど、

私はその時点で仮面夫婦になっても良いと思っていたし、

なにより由緒あるボルフォード家が没落しようが何だろうが、

どうでも良かったのだ。


私の求める価値と代価をカーディルだけじゃなくて、

ボルフォード家事態が示す事も与える事も出来なかったのだ。

結果はお察し。

いう事の聞かないエルゼリアの誕生だ。

それでも婚約制服を与えれば大人しく従うと思われていたのだろう。

実際できうる限り恥をかかない程度に私は公爵夫人となるべき人間の様な、

立ち振る舞いを学園ではしていた。

だから伯爵令嬢のクセに今から「公爵夫人のつもりなの?」みたいな、

雰囲気はあった。

れけどどうせ伯爵令嬢として振舞ったら

「未来の公爵夫人が情けない」なんて言われるのだ。

どっちを演じたって悪態はつかれる。

だから学園の私の立ち位置は、


「未来の侯爵夫人ぶっている無駄に偉そうに振舞っている伯爵令嬢」


なのだ。

これが乙女ゲーの強制力なのかどうかは解らなかったけれど、

私は与えられた役を演じ続けた。


結果がまさかヒロインの為の舞台装置。

その裏部隊を支える立場に収まるとは思わなかったけれど。

何時の間にやら作られていた

「ファンクラブ」なる物も理解したくなかったし。

それ以上に、その場にある自分が演出した「素敵な空間」で。

繰り広げられる愛の囁きを冷めた目で見ていた私がいた。

もちろん周りにはその私の

「冷めた視線がヒロインに恨みを募らせる、傲慢な婚約者」に、

見えているのは言うまでもない。


乙女ゲーの強制力だったのか何なのかは解らないけれど、

私の楽しい学園生活はヒロインの為の「素敵な空間」を演出するために、

消費され続けたと考えると頭が痛くなりそうだった。


彼女の提案する「素敵な事」の為に費やされた労力が多岐にわたる。

彼女の為の生徒会と言う「仲良し集団」と実務をこなす人は、

別の人になっていてヒロインであるソフィアさんが過ごすのは、

攻略対象がいる「仲良し集団」なのだ。


ゲームで語られる言葉一つ一つが現実を考えない「楽しい未来」だった訳で…


思い出しただけででも苦労させられたのは、

拳闘会を開催するというイベントだった。


何故この「火薬庫(学園)」の様な場所で火遊びをしなければならないのか。

一部の国には闘技場の様な物だってある。

闘技大会は一般の国の管理する場所で行われている事なのだ。

別に学園でやる必要はない。

それどころか建前上とはいえ

皆を「平等」として扱わなければならない学園で、

アホみたいに順位をつける事をする事がどれだけ

「調整」に苦しんだ大人に、

負担を掛けるのかを解っていない。

「平民は貴族に勝ってはいけない」

暗黙のルールがこの学園にはある。

どんなに優秀だって目を付けられたら生きていけない。

だから平民が目立つイベントは極力やらない様にする。

それが平民の生徒を守る事にもなるし、

実力主義を歌いながら公平に判断するなんて建前を言いながら、

王国は縁故採用しかしないのは解り切っている。

王都に実力主義なんてものは存在しないのだ。


それを・必死に・オブラートで・包み隠して!

建前だけで学園を存続させているのだから!


開催する事が難しいんじゃない!

誰を勝たせるかが難しいのだ!

忖度の連続でその調整に奔走する事になるのはもちろん私なのである。

あのメインヒロインであるソフィアさんの一言。


「どうせならみんなで集まって、誰が一番強いのか決めれば良いでしょ?

そうすれば、バルフレージャーの事、みんなも理解してくれると思うの」


学園物でよくある二人の仲は悪いけれどイベントを通して悪い関係を、

メインヒロインが正していくという話。

攻略対象の一人バルフレージャー・レンジャミンの環境は複雑だった。

カーディルとの仲はとっても悪い。

原因はどちらが強いかであって、

もちろん攻略対象の一人バルフレージャーは武人の家系。

そして伯爵家の人間。

よくいる攻略対象の一人でカーディルと絡むのが彼の役割でもある。

明らかにカーディルより強いけれど伯爵家だからカーディルには、

「勝ってはいけない」のである。

その事に不満を覚えているバルフレージャーは何かと好戦的で突っかかる。

だからヒロインはそのわだかまりを解消する為に、

「公平な学園で闘技大会を開こうよ」

となる訳ね。

何度も言っているけれど学園は「平等」なんかじゃない。

調整の嵐なのだ。

だから本人達が「平等」と思って行っているイベントは、

全て結果込みで演出される。

どんな理由をつけたって公爵家であるカーディルに負けは許されない。


「闘技大会を開く」


そう言われた私は必死に考えましたよ。

自然にカーディルを勝たせバルフレージャーが負ける条件を。

私は試合はトーナメント方式にして決勝で二人が当たる様に調整して…

組みましたよ。

ええ。全力で組みましたよ。

トーナメントの組み合わせ。

平民か貴族か決勝でバルフレージャーとカーディルが剣を交えられる様に、

裏で調整し続けましたとも。

その結果程よく体力の削られたバルフレージャーと、

余力があるカーディルを充てる事に成功して

もちろんカーディルが勝ちました。


「お前は強かった…」

「いや、俺達の実力は互角だった…

俺は運が良かっただけだ」



みたいな感じで男の友情が生まれた訳です。

ああなんて麗しい男の友情。

その二人を褒め称えて祝福する

私は力を使い果たしてバックヤードで爆睡してましたけどね。


思い出しただけでも調整と演出は私に負担を掛けていた事だけは思い出せる。

そうしてイベントを消化した結末が婚約破棄なのだから何ともいえない。


それでも…




「なかなか減らないわね」

「当たり前よ。私達が着せられたドレスが出来上がっている事を考えれば、

簡単にその理由なんて判断できるわ」

「そうよね、完成品が出来上がって来ているのだもの。

「次」が始まっているのだし…」

「終わりはないわ。明日には明日の書類が。

明後日には明後日の書類が溜まるのよ」

「違いないわ」


私とギネヴィアは書類整理を進める。

運び込まれて来る書類を整理し整え領都に持って帰れるように。

ふと気付いてしまった。

学園の時は調整を繰り返し終わらない話合いを続けながら、

書類を纏めていた時に比べれば今は動かない分らくなのと。

そして…


「ねえ、ギネヴィア?整理整頓は楽しいわよね」

「?そうね。楽しいわ」


私もギネヴィアも不満を漏らしながらも笑顔なのだ。

持ち込まれる報告書は面白い。

「やらなきゃいけない仕事」ではなるのだけれど、

それ以上にこの書類整理は「やりたい仕事」なのかもしれないと…

私は思い始めていた。

日は暮れてその日もその宿泊施設に泊まる事が決まり、

私とギネヴィアそれにアルフィンとの楽しい時間は続く。

書類整理をしていただけなのに、

私にとっては楽しい休暇となってもいるみたいだった。


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