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第13話

近付いて来る港湾都市。

叔父さまが魚を食べたいと願い作り上げてしまった若い街がそこにある。


1日以上の鉄馬の旅も終わりに近づいて来ていた。

列車の中で一晩を明かすというのはとても不思議な気分で、

ファンタジー要素あふれるこの世界でこんな経験をする事になるなんて、

思ってもみなかった。

車両にその据え付けられたベッドの寝心地も悪くなく、

起きた時も場所が列車の中で寝ていた事を忘れる位だった。

昨晩ギネヴィアとアルフィンとで食べた夜食も、

特別な車窓を見ながら食べるという演出も相まって、

不思議な思い出となった。

領主用の特別な車両は痒い所に手がとどく。

理屈は解らないけれどお風呂こそなかったけど、

シャワーが完備されていたし。

トイレももちろんある。

食料と水さえあれば何日でも暮らしていける移動する家。

過剰な豪華さを抜けばそう表現できそうだった。

叔父様の意地を感じる出来で…

なんだろうか前世に対する憧れか失った物を取り戻しているかのような、

そんな気分にさせられる。

…気のせいよね?



若い街の為なのか、

もともとそう言うコンセプトで作られたのか解らないけれど、

この若い街は恐ろしく広い。

言い換えるなら人の足で何処へでも行けるレベルでは、

作られていないみたいだった。

遠くに街並みが見え始めてからずいぶん経つ。

けれどその街並みに対して鉄馬は一定のスピードで走っているのに、

なかなか町の中につかない位には発展をしているって事だった。

僅か2年で作れるとは到底思えない広さまで広がっているみたいだった。

町に近づくにつれその全容が明らかになっていく…

と言うよりも重工業を主としてそれだけじゃ済まさない、

色々な物の生産工場の起点として作られた事が解るそんな場所へと、

この海辺の近くは変貌を続けているのかもしれない。


領都のゼファード叔父様の家には何かを作る為の機械を、

置くスペースは存在しない。

超重要機械である「解析機関」の試作モデルと言う名の高性能?演算機が、

叔父様の求める計算結果を出すべく、

叔父様のお屋敷兼工場兼研究施設で稼働し続けている。

その占有スペースはもちろん他の試作機械の大きさ程度では収まらず、

結果を言うのであればもう何も設置出来ない状況にまで、

バルダー家の敷地は色々な物が敷き詰められて、

これ以上何処にも何も置けないほどに空間に余裕がないほどの有様だった。

もちろん技術の発祥の場所となっていたバルダー家は、

周りの土地も吸収しながら広がっていったけれど。

それ以上に領都の人口も増え続けていたしバルダー家の周囲も、

何時の間にやら5階建ての建物で埋め尽くされ、

これ以上の拡張も出来ないほどの有様だ。

だから、なのかな?


おそらく叔父様も考えたのだろう。



「まとめで、工作機械を置くスペースが欲しいなぁ。

ちょうど港になりそうな立地条件を手に入れたし、

重工業機械置けるスペースが纏めてあれば、移動が少なくていいよね。

そうだ!

新しい街作るなら領都みたいに土地に合わせるんじゃなくて、

いっそ機械に合わせて街を作れば良いじゃん」



等と言っていたに違いない。

車窓から…

人の姿はほとんど見えず、

動くものは馬車と馬に乗った人だけだった。

きっと歩くのでは済まされないほど、

空間が広く作られてしまったんだろうね。


人工的な街並みが現れると同時に、

一戸建ての家が並び始める。

仮設の家である事を感じる位には簡易化されてはいるけれど、

それでも多くの人が暮らす郊外型の場所を作り出していた。

領都の多層建ての作りではなくて平屋ではあるけれど、

たぶん近代化された上下水道完備の住宅なのだろう。

広がりつつある町を見ると衛生面も管理しなければならず、

造成が始まってから2年以上たっているのだ。

汚れた街並みになっていないから。

それこそしっかりと管理はしているんだろう。

形こそ違えど郊外の一戸建て住宅はまるでベッドタウンの様にも見えて…

いや絶対そう言ったコンセプトで作ってる。

複線だった線路もいつも何やら並行する線路が増え始め、

おそらく鉄馬による、

長距離通勤なる概念も既に生まれているのかもしれない。

思い出すわね。

満員電車での通学とか。

それがこの世界でも始まるのかぁと思うと、

しみじみとした気分になるからたまらない。

けどそれは発展が終わらない証でもあるし、

魔法を含んだこの世界でも叔父様の作る物は、

確実に価値を高めているという証拠でもあった。


行違う鉄馬の数も増え、

明らかに発達した中心街はこの鉄馬の終着点。

けれど線路は途切れない。

その先は支線と本線に別れ一方は港へと延びているのだった。

そしてきっとこの先にも線路は伸ばされる。

叔父さまはまだ何かを作るつもりでいる。

それだけは確実なようで明らかに用地買収が行われた場所と、

長大な編成に対応したホームの長さ。

そして貨物を取り扱うエリアと分断されその用地だけは、

用意されているのだから。

そう。

叔父様の街づくりは終わらない。

そして鉄馬は、的地の港湾都市の中心街に設置された駅へと滑りこむ。

レンガとガラスで作り出されたホームは明らかにテレビで放送されていた、

事故を起こしまくる、しゃべる機関車たちが生息する島のホームに似ている。

アレがベースなのか、それとも普通に鉄道発祥の地であった、

キングダムがベースなのか?私には解らなかったけれど、

それ以上考えてもしょうがないから考えない様にする。

けれど次々と鉄馬を発着させる事が出来る様に作られたホームは、

領都の何倍もの大きさでこれ全てが必要になるほどに発展させ続ける予定は、

もう組まれているって事で…

それって、きっと今いる人の多さでもこの町に用意されている、

仕事の量の多さに比べれば足りていない証明でもあるのかもしれない。


それはこの都市だけで王都以上の人口を抱え込む準備が出来ているって事で、

それは問答無用で人が必要な場所が出来たって事。

ギネヴィアは知っていたんだ。

この巨大に成長する予定がある町がある事を。

あの時彼女が言った「王都から人がいなくなる」その言葉の一端が、

きっとこの町の姿。

そしてきっと王都よりも住みやすい?のかもしれない。

王都の人口の推移が如何だったなんて王族と公爵家の当主とか、

そういった偉い人しか知らないけどあの王都の富の正体は、

集められた人の多さ。

圧倒的に他の都市より領地よりも多くなった人が品物を右から左に流すから、

多くの人を介して品物の値段は上がり高価な物が作られる。

人の多さが物に価値を与えていたのが、王都の経済の正体なのかもしれない。

けど人の移動できる距離には限りがある。

だから王都の大きさは一定以上広がらない。

物の往来を考えれば馬車がすれ違うのが精一杯の道幅しか作れず、

建物を上に伸ばそうにも3階以上の建物は物理的に作れない。

その代わりに貴族達の館は外装や内装に凝った施行を施して優劣を決める。

そうやって王都の芸術性は他国に引けを取らない位向上し続けているけれど、

その反面住める人はごく限られた人だけ。

そうなってくれば発展の正体である多くの人が、

徐々に徐々に少なくなっていく。

それでも行き先が無ければ王都に踏みとどまる人も多い。

けれどそこに新天地が出来たら?

王都で必死に生きてきた人に新しい場所が与えられたら?


そう。


王都にはもう新しい人の流入が無くなる。

人が減れば価値が落ちる。

大量の穀倉地帯が広がり鉄馬のレールさえ敷けば、

まだまだ拡張する穀倉地帯が膨大に残る領内。

現在の生産量ですら食べ物に関しては明らかに物余り状態になりつつある、

ファルスティン領はその増大する人口にも対処出来てしまう。

それはもう王都の代わりの新天地が、

この港湾都市に出来上がっている証拠でもあった。

今叔父様の技術ブーストと領内の人口増加は緩やかな上昇傾向だ。

それはあくまで領内の人員でしか人を回していないからであって。

伸ばし代は王都を飲み込めるほどあったと言う訳ね。



叔父様も趣味なのかはたまたそうなる様に作ったのか

重工業港湾都市は明らかに、

異常な発展の象徴ともいえる都市となっていた。

この都市に比べれば…

ファルスティン領都なんてもうやる事がほとんどなくなった古めかしい、

完成された都市に見えてくるから何とも言えない気分になる。


私の知らない所で時代は私の考えていた以上の速度で、

加速度的に動いている事だけはこの場に来て理解せざるを得なかった。



鉄とコンクリートで作られた町。

それはこの世界においては最新の設備を備えた場所で、

機能美にあふれる理路整然とした作りに仕上がっていた。


完全計画都市。


始めからそう作られるべくして区画整理され、

立てるべき所に立てるべきものを立てる。

その為のスペースも確保され、

そして何時でも作れるように準備だけはされている。

道幅もこれでもかと言う位広く取られていて、

領都の様に人しか通らない様な道はなく、

全ての道が馬車が通る事を前提とした道幅が確保されているみたいだった。

人が歩く場所と馬車が通る場所には段差が付けられてまさしく、

前世で見ていた道としての形を作り出している。

アスファルトこそないものの石とコンクリートを敷き詰めて作られた道は、

明らかに時代背景に合った風景を作ってはいなかった。

それでも広く確保された道をひっきりなしに往来する馬車の数と、

その荷台に乗せられた荷物の多さがこの都市の発展が容赦なく進んで、

発展し続けている街を私に印象付けてくる。

鉄馬に乗りながらの発展を続ける街の風景を、

私とギネヴィアは呆然と眺め続けていた。


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