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第8話


さて、そんな楽しいお食事の時間も終わりが近づいてくる。

お兄様は私の想いで話をマジマジと聞きながら、

私の想いを最後に聞いてきたのだ。

それは可愛い妹の元婚約者をどうしてやろうかという事で、

お父様としてはもう手を切るつもりの様だった。

私が嫁ぐのであれば整えようと考えていた、

領外秘技術の支援を行うのかそれとも辞めるのかの決断。


お兄様は未来の領主として決断しなければいけない時期も来る。

そして私が嫁がないのであればボルフォード公爵領に対して、

無償の支援という形は当然どうなるかを考えなくてはいけない。

ボルフォードとしては取るに足りない技術なのでしょうけれどね。

私の契約は簡単な繋がりだけでは済まされない所もある。


お兄様の行う未来の経済計画の中に入るのか。

それとも無視するのか。

ビジネスパートナーとなれるかどうかにかかっている。

それは即ち…


カーディル・ボルフォードは、

これから来る新しい時代の領主となりえるのか?


その総評を私から聞きたいのである。

私は結婚すればいやおうなしにボルフォードの為に生きる事になったからね。

それが無くなったら差し出す物も支援もきっとない。

あのソフィアがどれだけの事が出来るのか私には見当もつかない。


「単刀直入に聞こう。

カーディルは交渉するに値する人物か?」

「…このまま時代が変わらなければ、

良い取引相手となられたでしょう」

「そう、か。解った。

その方向で動く事にするよ」


お兄様にとって私の婚約者は重要な存在。

もちろんそれは領地の繋がりとして、

交易相手として…だ。

妹の嫁ぎ先だから手心を加えるとか、

貴族同士の血のつながりを考えるなら…

損をしまくってでも妹の為に交易を続ける。

落ちぶれるであろうボルフォード家を支えてやる。

それも致し方ないと言う事をお兄様は考えていたのだと思う。

ボルフォード領での豊かな生活をと願い、

お父様もお兄様も多大な支援準備をしていた。


今ボルフォード家は他家を支えるほど豊かだ。

けれどその豊の根源をファルスティンの技術が奪い去る。

「上質な綿を紡ぎ、綺麗な生地に変える」事が、

ボルフォード家の主産業。

それを有名なデザイナーに頼み美しいドレスに仕立て上げる。

そして配下の貴族に売りつける事がボルフォード家の豊さの根源。

けれどそれは後数年で変わってしまう。

ゼファード叔父様の作った自動化された機織り機が完成してしまっている。

私が嫁ぐならその機械をボルフォード家に差し出すのも一つの手だった。

けれど私が嫁がないならボルフォード家は経済活動のライバルだ。

人力で作れる生地の量なんてたかが知れている。

ファルスティンが本気で生地を生産し始めて、

衣類市場に物が流れ始めた時ボルフォード領の高級産業の下支えを続けていた、

根幹産業の生地作りは果たして生き残れるのかしら。


材料の搬出、技術支援。

妹が嫁ぐのであれば行おうと思っていた支援準部が、

全て別の方向に向けられるだけだった。



ボルフォードの産業は一気に置いて行かれる。

流通路は変わり10年後、恐らくその市場は荒らされつくされる。

領地の健全な発展のため何段階にも分けで計画された発展計画の中で、

私の嫁ぎ先が大変な事にならない様な準備は必須だった。

ファルスティン領内が安定した時、

周囲に与える影響もお父様は考え始めていた。

20年間という短くて長い時間の中でお兄様とお父様は、

ボルフォード領の私の産む次の我が子の為の未来を、

用意しなければと考えてくれていたのだから。


けれどライバルとなるボルフォードにお兄様は決して容赦しない。

私を捨てた事を「貴族」の意地として報復するだろう。

賠償金だけでは生温いとお父様が考えるのは当たり前で、

公爵と言う地位を振りかざして好き勝手されて遊ばれ続けた恨みは、

「金」を払っただけでは収まらない。

しかも支払われた金はあくまで「即金で出せる金額」しか、

請求していないのだから。それは伯爵家にとって大金でも、

公爵家にとっては微々たる金額。

請求された金額しか払ってこなかったボルフォードに対する、

お父様とお兄様の怒りは本物だ。

そして、未来のビジネスパートナーにすらなれないと言う、

カーディル・ボルフォード公爵令息。

それらを考えれば答えは自ずと出てくる。

良好で未来を築く為の譲歩が出て来るなんてありえない。


ボルフォードは未来を捨てた事に気付かない。

いや、気付けないか。

だって機械産業が生まれたのはゼファード叔父様の所為だし。

時代の最先端技術が王都ではなくこんな辺境の一領地から、

始まるなんて誰だって思わないもの。

時代の最先端は人が集まる王都から訪れる。

それがこの国の常識。

それ以上に「機械」という物がどれだけの潜在能力を持っているか、

解らないし理解できないだろうから。


「今日は楽しかったね。

また今度話をしよう」

「ええ。近いうちにお話をしましょうね」


「はい」



私達のお食事は終わり各々に自分のお部屋に戻って行く。

これからの事、考えないとな…

王都からの移動に疲れた私はリリーに案内されて新しいお部屋に向かうのだ。

そこは私が出かける前と同じ部屋が用意されていて…

けれどその部屋に繋がったお部屋には立派なお風呂が完成されていた。

上下水道完備の蛇口をひねればお湯が出る!

素晴らしいお風呂があったのだ!

ゼファード叔父様の加速させた文明はついにメイドに頼まなくっても、

自分でお風呂に入れる技術レベルまで成長していたのだった。


嬉しい!


その日私は久しぶりに湯船につかってお風呂を堪能する事になる。



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