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第7話


「随分と広げたものね」


私の目の前を歩いていたリリーに私は自然と声をかけていた。

リリーはため息をつきながら答えてくれる。

一部呆れた雰囲気をだしながら。


「これでもギリギリまで小さくしたらしいのです。

ゼファード様はお作りになられた機器を収めるのには、

あと2倍ほど欲しかったと嘆いておられました」

「じゃあ…もうあの機械は完成しているの?」

「はい。

お嬢様が王都に向かわれてから一年ほどでしょうか。

完成して数々の仕事をこなしております」

「…そうなのね」


これで領内の発展に急速な速さが加わった理由がわかったよ。

もともと領都の屋敷の地下にはある物を建設する心算だったのだ。

それは明らかに叔父様の手でしか作れないモノだった。

その機械を置くスペースを確保するために「屋敷」の建て替えが決まった。

見つかっても良い。

バレたってかまいはしない。

だってその機械を見られたところで普通の人なら何をする物なのか…

絶対に理解出来ないから。


その機械を作る時叔父様は言っていた。

「皆が天才天才と褒めてくれるのは嬉しいが…

別に天才じゃなくても数式さえ解っていれば答えは出せるんだよ。

だからこれが出来たら「皆」天才だね」


そして出来上がったのが鉄馬以上のオーバーテクノロジーの塊。

蒸気で動く計算器「解析機関」だった。

無数の歯車とバルブを使った超巨大な演算機械。

もちろん性能はお察しなのだけれど複雑な計算をしてくれて、

普通の人では計算できない重要な答えを教えてくれるだけで、

物を作り始める前から完成したものを正確に描く出来る。

それは失敗しない物創りを約束してくれる様なものだった。

建物を建てるのも機械を作るのも複雑な計算式を解いて、

構造を作り上げなければ崩壊する。

だから特別な人しか出来なかった。

けれどこの「解析機関」があればその重要な答えを教えてくれる。

ゼファード叔父様だよりだった物造りの原点、

設計図を誰でも書けるようになった事は大きかった。

だから街中には5階建ての建物が立ち始めていたんだろう。

鉄とコンクリートとレンガで作られた立派な街並みを作れた理由は、

この機械が出来たからなのね…

私は一人で納得してそして城となってしまった我が家の大きさの、

理由に納得せざるを得なかった。

つまり私達がこうして歩いている床下には大きな蒸気で動く、

「解析機関」が人知れず演算を続けている。


「まだまだ領内の発展に落ち着きは生まれそうにないわね」

「はい。

5年先まで建設物の予定が広がっております。

鉄馬の延長も決まった様です」

「そうなのね…」


叔父様の言っていた「もうちょっと楽したい」という言葉の意味を、

私は測りかねていた。

あの人の言う「もうちょっと」はどの程度の事を指すのだろうかと…

それによってギネヴィアの未来がどれだけ大変になるのかが、

変わってくるのだから。


「こちらです」

「ありがと」


一つの事を考え終わるほどに長くなってしまった廊下を歩いた先、

そこには大きめの扉が設置されていた。

リリーが押して扉を開き私を誘導する。

そこにはながーいテーブルと大き目の暖炉が設けられた、

20人位で使う会議室にもなりそうなダイニングルームが、

作り上げられていた。

天井には室内を淡く照らし出す豪華なシャンデリアが設置され、

長いテーブルにも一枚の繋ぎ目のないテーブルクロスが掛けられる。

もちろん花瓶を設置してあり季節の花がテーブルにはかざられて、

窓がない内側の空間には家族の肖像画が大きく描かれた絵が、

立派な額に入れられて飾られている。

王都に行く前は館の工事は始まっていなかったから、

皆で食事をしていた時はこじんまりとした8人掛けのテーブルが、

入るのがやっとの空間で椅子をテーブルから引き出すだけで、

その後ろ側を歩くのは苦しい空間しかないほど狭かったのに。

今や普通にテーブルを2本平行に並べても、

まだあまりある空間が確保されている。

さてそんな訳でダイニングでは私を帰りを皆で待ってきてくれたみたいで、

お母さまはじめお兄様夫妻が私を出迎えてくれた。

子供達は現在お昼寝中らしく乳母に世話を任せているみたいだった。

まぁ今日の「お話」は長くなりそうだったから丁度良いかも知れない。


「だた今戻りました」

「おかえりなさいエルゼリア。

王都での出来事は残念だったわね」


婚約破棄されたのにも関わらずお母さまは嬉しそうだった。

深い意味はないと信じたいけれどお母さまと義姉さまの考えが、

なんとなーく、透けて見えてしまう。

だって「解析機関」が完成してしまったって事は、

領内から大量の申請書類の山が発生しているって事だもの。

許可するかどうかの判断はお兄様がしているはずだけれど、

その前の申請書類に不備があるかどうかの確認は、

お母さまやお義姉さまが見て判断しているはずだし…

ギネヴィア私も「書類」の2文字から逃げられそうもないわ。

ともかくとっても楽しそうな毎日を過ごしていただろう、

お三方に私はにこやかに挨拶を返すのだ。


「ええ。

書類から逃げられたと思って3年間ほど学園生活を送りましたが、

学園でも書類から逃げられませんでした」


そうどのみち私は生徒会とカーディル様から押し付けられた、

書類仕事プラス乙女ゲーイベントを消化するための下準備に、

謀殺されていたのでたぶん学園に通っても通わなくても、

私の生活はそんなに変わらなかったかもしれない。

学園ではほとんどギネヴィアと一緒だったし。

というかギネヴィアがいなかったら更に書類仕事の所為で、

普通の授業すら受けられなかったかもしれない。

ギネヴィアには感謝感謝ね。


「それは楽しい3年間の思い出を聞けそうだね」

「えぇ。書類とイベント開催に忙殺された、

3年間の思い出をお話します」

「まぁ!」


私の回答を聞いたお兄様夫妻は冷静を装いながら私の楽しい、

思い出話を聞いてくれるのだった。

食事と会話が進むにつれ…

お兄様夫妻とお母さまの表情が無表情になっていくのは、

とってもおかしくて私は一人笑顔で話を進めていく。

けれど流石に空気が悪くなってきている事を感じ取った、

私は少しだけでも気分を変える様にする為に、

話題を切り替える事を考えた。

丁度良くというかリリーが重くなった空気を換えたいと言う、

私の気持ちに気付いたのかお料理を運び込んで来てくれる。

それによって会話は一時中断。

運ばれて来るお料理を見ながら会話を切り替え…


切り替えるつもりだったのだけれど私は提供される物を見て、

何故ここにこんな料理が出てくのか…

解らなかった。

だって領地は山の根本付近で開拓が進む山の向こうだって穀倉地帯のはずだ。

牛や羊の飼育は出来ても目の前に置かれた物。

魚が出てくるはずがないのだ…

しかも結構な大きさで領内に流れる川で取れるような、

川魚の大きさを凌駕している。


「これはまた…随分と変わりましたね。お母さま」

「魚が普通の食卓に並ぶようになったのは貴女が入学してからくらいかしらね?」

「鉄馬のレールを伸ばした先が良い漁場になってね。

そこでゼファード叔父様が漁業を本格的に始めてしまったんだよ。

町の計画もひと段落したから港や船関係の事にも力を入れるらしくてね。

叔父様の強すぎる押しに押されてね。

産業としても本格的に動き始めてしまったんだ。

もう…お膳立てが出来すぎていてやらざるを得なかったんだ」


お兄様のその言葉からどれだけゼファード叔父様が、

強引に計画を進めようとしたのか解ってしまう。

それは「食」に対して妥協できない転生者としても意地だと思う。

きっと忘れられないんだろう前世の記憶と食生活。

叔父様の「ちょっとだけ」は前世と同じ食生活を送れるようになるまで、

止まらない様な気がして来た。


話題が変わった事によって、

私はお兄様に領内の事を質問する事が出来た。

嬉しい悲鳴を上げ続けるお兄様はもう立派な領主様となっていた。

その隣でニコニコと笑うターシャ義姉様もまた幸せそうで。

お姉さまの出身地の男爵領もまたそんなに豊かな場所じゃなくて、

男爵家の長女だった義姉様は学園で出会ってお兄様と義姉様は恋に落ちた。

学園卒業後、嫁ぎ先の決まっていなかった義姉さまは、

実家に帰るかお兄様の下に嫁ぐかの2択だったのだ。

お兄様と義姉様が恋仲になるのに時間はかからなかったみたいで。

学生時代に色々と因縁があって何度か我が家にも遊びに来ていた義姉様は、

それなりに暮らして行けるようになっていたファルスティン家に、

普通に嫁いでくるのだけれど。

義姉様の家を送り出される時の家族の顔はそれはそれは複雑な状態だったらしい。

「学園」では二人とも色々あったみたいだからね。

詳しくは聞かないけれど現在の夫婦仲が仲睦まじくて良さそうで何よりだ。

けど、原作のお姉さまはどうしてファルスティンに来たのか?

もしかしたら公爵家から与えられた「支援」だったりしたのかも?

…そんな訳無いと言いたいけど。

そうとも言い切れないほど悲惨なのよね原作は…


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