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第6話

増改築を繰り返す家と、

お城の家。

どっちが良いのか今の私には解らなかった。

何せ広い。

広がったスペースが自分の為に用意された領主一家の、

プライベート空間と公務を行う空間を隔てる部分が、

解らな過ぎて…

今歩いている所は「私」なのか「公」なのか…初めての私には解らなかった。

それでも歩いていればその境目にたどり着く。

私室を含むエリアの前にはちゃんと扉があり、


「ではお嬢様。

私がお荷物を運べるのはここ迄です」

「そう、ありがと」

それでは失礼しますと彼女は去って行った。

そうすれば別のハウスメイド…

私の傍付きメイドだった彼女がリリー・ゼフィラが

扉を開けて迎え入れてくれる。

「おかえりなさいませお嬢様。

入口までお迎えに上がれず…

申し訳ありません」

仕方がないわ。

広がりすぎだもの」

「はい…」


私室のあるエリアは機密性が高い物も置いてある。

だから簡単に人を増やす訳ににはいかないから、

こういった形で人を区切っているらしい。


「皆様お揃いです」

「お兄様とお義姉様も?」

「はい。学園の様子が聞きたいとの事です」


現在ファルスティンの行政の大半を仕切っているのが、

お兄様とお義姉さまのお二人だ。

日々迫りくる書類と格闘なさっておられる逞しい方々だ。

ライセラス兄さまとターシャ義姉さまの夫婦は仲睦まじく、

ほのぼのとした家庭を築いているとおっしゃられていた。

ターシャお義姉さまからも近況の手紙を受け取っていて、

それなりに私の事も気に掛けて下さっている。

そして今回の婚約破棄で一番喜んでいるのは、

きっとターシャお姉さまではないかと周りに思われているそうだ。

まあお姉さまの書類仕事の肩代わりは私が一番効率よく出来るからね。

とはいえ普通にうまくお二人は領内を運営している。

そうでなければお父様のは王都にいられないしね。

そして私より5歳年上のお兄様夫婦には既に子供もおり、

将来は安泰だ。

何も憂いはない。


これも原作とは違って原作なら婚約破棄されて、

支援が打ち切られたファルスティン領は、

その断罪に相応しい結末が用意されていた。


ボルフォードの支援が無くなり生きられる糧を失ったファルステインの領民。

それはもう、悲惨の一言だ。

生き延びるため。

厳しい冬を乗り切るために御兄さまの手によって…

領民は選別された。

そして間引きを行ってそれでもだめで。

お兄様は妻とお父様とお母さまも失う事になった。

悪の一家に相応しいの結末って奴だ。

そして断罪された一家に相応しい最低限の人間しか残らない。

お兄様の手にはファルスティン家を存続される兄様の息子だけが、

ギリギリ厳しい冬を乗り切り生き残るという悪役令嬢の家族に相応しい、

因果応報の展開が用意されていた。

このひどい鬱展開が制作会社の開発スタッフブログにて公開されたのだ。

ゲーム内では補足されない事だったけれど、

妙に人気が出たこの乙女ゲームの製作会社は更なる利益を求める為に、

蛇足と言う名の「拡張パック」「DLコンテンツ」を大量に出したのだ。


愛らしい主人公押しで、主人公であるメインヒロインの為に、

多種多様の、よいしょ型コンテンツも用意される様なゲームだ。

開発プロデューサーの力強い後押しによって販売が決定され、

販売促進の生放送では、


「私が考えたヒロインはみんなに愛されるのが当然で、

素敵な女性だから、周りが「ざまぁ」されて、不幸になるのは、

まあ仕方ないんじゃないかな」


なんて話をしていたのだ。

だからメインヒロインを「よいしょ」する為に、

シナリオの路線も変更される。

ヒロインをより輝かせるために。

周りを貶める話も組み込まれたのだ。

製作している当人達であるプロデューサーからすれば、

「よいしょ」ではなく「当然」なのかもしれなかったけれど、

周りからすればそれは「やりすぎ」だった。

だからエルゼリアはきつい性格で嫌な奴に制作途中から変更されて。

メインヒロイン素敵!素晴らしい!作品へ仕上げられていく。

けれどこの乙女ゲーは売れた。

売れてしまったのだ。

だから、エルゼリアなDLコンテンツでは更に嫌な奴に仕立て上げられ、

本篇もより厳しい性格に改変させられていく。

もうやりすぎなレベルで。

そのためにエルゼリアの話には所々無理があるのだ。

その歪みを解消するためにプロデューサーが選んだのが、

ファルスティン一家ほぼ壊滅というオチだからたまらない。

不正を働き貴族の誇りを汚したファルスティン家に鉄槌を!

という流れとなりそれだけの事の鉄槌を下される事をする、

立派な悪役にエルゼリアは乙女ゲームの中で「悪役令嬢」に、

ならなければいけなくなる。そうしなければプレイヤーは納得できないから。

歪みを最小限に抑えるためにエルゼリアが豹変する。

いや、しなくちゃいけない。

シナリオ担当者が考え辻褄を合わせる理由も与えられたのだが、

それがまたひどい。

エルゼリアが在学中にカーディルとの関係が関係がまずくなった時点で、

支援金の額が目減を知らされる。

「しっかりとカーディルを教育しろ。でないと支援を打ち切るぞ」と、

ボルフォード家におどされるのだ。

追い詰められて手法を選べれなくなったエルゼリアが、

ボルフォードを諫める邪魔をするヒロインに手を出し始めると言う形で、

シナリオは修正されたのだった。

まったくもって酷い話だ。

ヒロインを輝かせるために周りがアホになるのはちょっとね。



けれど今私の目の前には幸せそうな兄夫婦の家庭があるから。

乙女ゲームの設定は気にしなくて良いのだ。

そう考えると本当にゼファード叔父様には感謝しかない。


その大変で幸せそうな御兄さまが、

私の話を聞きたいと言うのなら話さなければいけないわ。

そして盛大にずっこけて戴くとしよう。

アホで頭の足りないカーディル様とそれを増長するヒロインの学園生活に。


そう考えるとヒロイン補正ってすごいんだなぁ。

なんて他人事みたいに私は考えていた。

大人しくなって優秀なカーディル様とそのヒロインが、

発案した計画の実行のために外部頭脳をやって、

現実と妄想を擦り合わせ続けた私はエライ。

と自分で自分をほめてやりたくなる。


そんな訳でリリーに荷物を預けて私は一路家族が待つ、

ダイニングへと案内されるのだった。



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