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第5話


「おかえりなさいませお嬢様」


城へと入城した私を待っていたのは、

大人数に増えていたメイド達だった。

発展しているのは知っていた。

そして私が王都へ向かい、

更に領都の発展にブーストがかかった様な気がしていた。

上下水道完備で温かい水が出る水道が完備され、

場所によっては鉄馬での通勤という概念まで生まれ始めていたのだから。

町の構造も変わっていく。


町のシンボルとして聳え立ってしまった領主の館。

王都で生活している間に変わりすぎた形になった我が家を見て、

その発展の凄まじさえを痛感しなければいけなかった。

1人の天才?がいるだけ何処までも町は成長できるのね…

なんて感心していた私はその新しく雇われたメイドに聞いてみるのだ。


「町は随分と様変わりしたみたいだけれど、どんな雰囲気かしら?」

「はい!つい最近、新しい小物屋がオープンしてそこのアクセサリーが、

人気になっていますよ!

それに新しいお菓子屋さんも出来てみんな買いものを楽しんでいます!

それでですね…あとは…」


メイドの口からはそれはそれはたくさんの情報があふれ出て来ていた。

楽しそうに語ってくれたその情報はつまるところ生活必需品以外の、

お店が出来始めてそれが商いとして成り立ち始めているって事だった。

簡単にいれば少なくとも領都は豊かという証拠であって、

私はちょっとほっとしていた。

なんだかんだでエルゼリアとして生きてきて原作に巻き込まれたのだ。

その余波がこの領都にも襲寄せて来ていて、

とっても大変な事になるんじゃないかって密かに考えていたから、

少なくとも今はみな幸せそうみたいだから大丈夫かなのかな?


変な話ではあるけれど今は領内の好景気も手伝って、

犯罪とかも少ないのだ。

何せ働きたいと思えば、


「何時から来れる?」

「今から働いても良いよ」


レベルで人手が足りていない。

どこもかしこも人手が足りないのだ。

もう奴隷でもなんでも働いてくれればなんでもいいレベルで、

人も物も増え続けていた。

そんな勢いのある経済状態だって終わってしまうのかもしれないって…。


なんだかんだで王都から帰る馬車の中で、

婚約破棄された事で領都がめちゃくちゃになると、

歴史の修正力が働くんじゃないかって思って不安になっていた。

あれだけ大胆に婚約破棄されてその後はボルフォードにとって、

都合の良い噂がこれでもかって程流され続けたのだ。

大きな影響が出ていたっておかしくないなって思えて。

けれどそんな不安そうなそぶりを見せたギネヴィアは私を笑った。

何を不安に思っているのよ?

全然問題ないでしょうと。

私よりも頻繁に領地に戻っていてその実情を知っているギネヴィアは、

ニコニコ笑いながら話すのだ。


「王都がどう頑張っても直ちに政策を変えてファルスティンに追従しようと、

全力で取り組んでも私達には後20年は追いつけない。

簡単なお話よ。

人が用意できないのよ。

逆にファルスティンの人を良い金額で引き抜いたとしても、

意味はないの。

ファルスティン領内の道具がないとその効率的な仕事はこなせない。

だから人を引き抜くだけでは無意味。

ファルスティンの機械はファルスティンでしか作れない。

そして運び出せない。

機械も数年単位でファルスティンと同じ物は作れない。

コア技術はお父様の錬金でしか作れないの。

お父様抜きで自力で作るのなら恐らく30年コースね。

それからお父様が用意してきた事業がいま花開き始めたわ。

領内で私達同様に教育を受けた人達が働き始めたらどうなるかしらね?

ファルスティンに入り浸ったお父様の狂気の産物、

大量生産の価格破壊に王都の商人や貴族達は耐えられるのかしら?」


今はまだ序章に過ぎないとまだ始まってもいないのよ?

力強く説明するギネヴィアはまさしくゼファード叔父様の娘だった。


「だからね?エルゼリア。

私達は書類仕事をすれば良いのよ。

書類からは逃げられないのだから」

「そうね…書類は溜まると怖いものね…」


何故か私とギネヴィアは学生生活中に処理し続けた、

書類の数々を思い出す事になった。

そして領都に付いたらまた書類が待っているという事は、

考えなくても解ってしまうから…

涙が止まらない。


ゼファード叔父様は物を作り豊にして、

大量の書類仕事を丸投げするのだ。

ギネヴィアは溜まっている書類仕事を、

母親のアリア叔母様が深夜までかけて処理している姿を見ていた。

だからこれから自分が領地に帰ったらどうなるか理解も出来ていたのだ、

母アリアと共に書類仕事をこなす日々が待っているのだと…


「可笑しいわね。

悲しくないけれど涙が出てくるわ…」


ギネヴィアの将来に幸あれ。


「逃がさないわよエルゼリア。

結婚しなかったら私と一緒に地獄大量の書類仕事に付き合ってもらうわ」

「それは早い段階で新しい婚約者が欲しくなる言葉だわ…」


新たに爽快な気分を覚えながら馬車での岐路の旅は続いていた…

けれどギネヴィアはもちろん別の屋敷…?

ゼファード叔父様のお屋敷で…

馬車を先に降りる事になる。


バルダー家のエントランスで荷物を下ろしたら、

私も自分のお屋敷…と思っていた、

お城へ帰っていくのだった。

荷物を下ろしてお屋敷に戻る時にぼそっと、

呟いたギネヴィアの言葉が忘れられない。


「増築されているわ…

また、自分の部屋への道を探さなくてはいけないわね」


言うまでもなくやりすぎなバルダー家のお屋敷は、

半研究所の様な工場と一体化した訳の解らない建物になっている。

増築と取り壊しを続けるお屋敷?は迷宮の一歩手前だった。

それでもアリア叔母様とゼファード叔父様は気にせず暮らしている。

「帰る度帰る度、家の中の通路の繋がり方が変わっているから、

自分の部屋にたどり着けないのよね…」

本当に困った家ねと愚痴っていた。


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