さてあの場の電撃的な婚約破棄の結果、自信を付けた貴族諸君は学園を巣立ち、
それぞれの立場に相応しい所に散って行った訳なのだか。
彼らがこれからこの国の中核を担うとなったら、
私のお兄さまとか辺境の苦しい生活を強いられた貴族たちは、
どうするんでしょうか。
とっても楽しみになります。
黒を白にするのには膨大なお金がかかる。
けれど辺境の苦しい人達を白にするのには、
どれだけの事をしなければいけないのか、
資金が無限に湧き出てくる泉でも国は持っているのか?
私には解らないけれどがどれだけの人が「調整」出来るのでしょうね?
あとはお父様と御兄さま達次第…
私にはもう関係のない所で色々な物が動き出してしまうのだろうね。
私は王都に住まう人々を哀れに思いながら王都を後にする事に。
ここ5年程度、王都では空前の好景気が続いていた。
原因は単純で穀物の値段が一気に落ちたから。
学園で提供される食事にもその価格低下の波は訪れていたみたいだった。
味の良い物が食卓に並び食事を残せる程度の量が提供されていたのだから。
その要因となっているのはお父様の領土ファルスティン。
山を背にしたあまり平地がない土地だったのだけれど、
ゼファード叔父様の農耕技術とそして絶え間ない冒険心の結果、
叔父様はその山脈の後ろ側に、
肥沃な大地が広がっている事を掴んでしまったのだ。
けれどその台地には長大な山脈を超える事をしなければならず、
たとえ開拓できたとしても物は運べない。
完全に移住するつもりで開拓するのであれば良かったのでしょう。
けれど土地を開拓するために人を送り込む事も躊躇われてしまう。
山越えはやはり厳しい。
それが全てだったのだ。
普通ならば諦めてしまう事なのだろうけれど。
しかし叔父様は諦めませんでした。
諦めないどころか移動手段として鉄馬と呼ばれる物を、
作り出してしまったのだ。
「鉄馬」それは言い換えれば蒸気機関車みたいなもので…。
世界観崩壊どころかブレイクスルーも良い所の、
乙女ゲーの世界ではオーバーテクノロジーなのだ。
けれどもうその頃には叔父様の破天荒ぶりは、
周りも知っていたおかげなのか…
その山を越える山岳鉄道を彼は作り出して、
普通なら何年もかかる鉄道敷設工事を、
魔法を使って作り上げてしまったのだ。
そうなれば肥沃な土地を手に入れたも同然。
叔父様とお父様は力を合わせて、その新しい土地を開拓してしまったのだ。
そして10年がたつ頃、特殊な農耕器具で広大な土地を耕して、
作物を大量に生産し始めてしまったのだ。
もちろん領内は爆発的に豊かになっていき…
人が集まれば物が集まり、
物があつまれば人が集まる好循環が生まれていたのだ。
年々産業は発達していき叔父様の錬金と発明はいまや領内には、
欠かせないものとして根付いてしまったのである。
目まぐるしく変わるファルスティン。
けれど、その変化を王都は絶対に信じない。
けれどその事を信じようと信じまいと、
ファルスティンには関係ない事なのだ。
大開拓の結果もたらされた豊かな穀物。
余剰生産分まで生産できるほどの力をつけたファルスティンは、
破棄する分を周囲の領地へ捨て値で売りつけ始めてしまったのだ。
領内で生産される余剰分も調整はされていたのだけれど…
豊作不作や不安定な分でやっぱり無駄な部分は出てきてしまう。
その余剰部分を定期的に領外に吐き出し始める事にしたみたいだった。
年々増え続けるファルスティンの生産する穀物。
もちろん、ファルスティンとしても品目を増やして、
衣類の原料となる綿の生産も始めているみたいなのだけれど、
それを上回る速度で開拓が進んだみたいだった。
余剰生産分の穀物は確かに増え続け、
それが定期的に吐き出す様になれば、
周囲の領内の生産物にも影響を与えはじめる事に。
その安い穀物を周囲の領地は買い込み、
より高く買ってくれる綿等を生産して王都へ販売する。
小さな変化でありますが何年もかけて生産物が変わっていけば、
その生産された物は大きな波となって王都へ影響を与え始めていたみたいで。
食料不安のなくなった周囲の領地は綿の生産を加速させ、
増えた「売れる物」は王都へと集められ続けたみたいだった。
国の中で産業の形は変わり爆発的に高付加価値の物を作り始め、
王都は高級品であふれる。
全体的に品薄だった所に、物が増えれば消費が加速して商人が儲かる。
それを元手に新しい商売が始まって。
王都では物が飛ぶように売れていくという好循環が起きてしまったのだ。
この国の経済を下支えしているのはファルスティンから吐き出される。
余剰生産品の捨て値で販売される大量の穀物となっていた事も知らずに。
タダ同然で売られる小麦。
それを購入した別の商人が別の領地にまた安く小麦を売る。
それがずっと連鎖的に続いていた。
物価が安くなったことに喜んだ王国もこの事態に何の対策もしない。
そして商人達もまた仕入れ値の高騰を嫌いライバルが増えるのを恐れて、
安く仕入れられる仕入れ元を話す事はないのだ。
そして時は流れ…
安い小麦の出所を調べられる事もなく王国の経済は回り続けていた。
王都の景気は絶好調。
「なんの問題もないね」
「王様の政策がうまくいっているんだ」
「不満?ある訳がないじゃないか」
豊かな生活を満喫している王都の住人には、
景気が良い事だけが友情で他の事はどうでも良いのだ。
王都は動かない。気づこうともしない。
もしも気づいているのであれば私の扱いは、
もっと良いものとなっていたはずだものね。
その事をどうこう言うつもりももうないしね。
ともかくゆっくりと、けれど着実にファルスティンの中では、
機械産業という新しい産業が根付き経済を回し始めているのだ。
大量に穀物を生産できる場所。
そして、衣類の原料となる綿の大量生産も始まるのでしょうね。
それが出来るのはこの世界の置ける技術の最先端が揃う場所。
ファルスティン領なのだから。
王都の人は絶対に認めないだろうし。
いや、信じられないと言った方が正しいのかもしれない。
だってファルスティンは永久凍土の様な、
人が住める場所ではないとされているのだから。
そこが技術と穀物の生産を一手に担った場所とは思えない。
それが王都の貴族の常識とされている。
お父様にとっては余計な事を言われない都合の良い常識で、
喜ばしい事なのかもしれないけどね。
王都から馬車に乗り続け何日もかけて休みなく移動時続けたその先に、
故郷であるファルスティン領へと到着した。
ファルスティン領が作られた理由は簡単。
かつて凶悪なモンスターが蔓延っていた森から王国を守る為、
命がけで川沿いに城壁を作り上げたのが始まりなのだ。
周囲の領主達はその城壁を守らせるために、
障壁を管理する別の領主を必要としたのだ。
別名責任転嫁なのかもしれないけれど。
その貧乏くじを引かされたのが、
初代ファルスティン家の人間だったのだ。
王都にいた侯爵家の次男が伯爵の地位を譲り受け、
統治を開始したのが始まりだと「公式記録」には記されている。
森からモンスターと呼ばれる化け物の侵入を防ぐため、
ファルスティン領との境には大きくて頑丈な砦が聳え立っている。
けれど叔父様とお父様の魔法によって一帯のモンスターの駆除が済んだ後は、
役に立たなくなった周囲の領地の砦は利用価値を失い、
放棄寸前にまで荒れ果てていた。
そして維持管理を嫌った隣接する領主は、
維持するという事を放棄しその管理をファスルテインに押し付けた。
「役に立たない砦と周囲の土地を少しだけをやるから管理しろ」
ファルステインが舐められている証拠でもあったのだけれど…
守りの要となる砦を手放してくれるのなら、
ゼファード叔父様としては嬉しい限り。
そうなればもうこっちの物であり…
叔父様がこの砦を強化して外敵の侵入と技術の漏洩を食い止める、
砦と変化させてしまっていた。
そうしてぬくぬくと領内を発展させ今に至ることになる。
そんな強固な砦を抜けて私は領都へと帰りついたのだった。
離れていた時間は短いけれどまた街並みが変わっていた。
今までは3階建てが一番高い建物だったのが、
今では5階まで成長しているみたいで。
そして私が暮らしていた領主の家も…
また変わっていた。
そう私が王都に出かけた時にはまだ立っていなかった新しいお屋敷が…
いやそこにあったのは、
お屋敷ではなくて、
城でした…
領の行政を司る場所なのだから。
大きくなるのはなんとなく解っていましたが、
まさが城がたつとは思わなかったわ…
正面入り口には当然の様に兵士がたって見張りをしています。
そんな中、私は入城することに。
自分の家が帰ったら城になるなんて…