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第3話



しかし時代は変わる。

変わらざるを得ない。

そしてこれから貴族の意味と尊厳を掛けた戦いが幕を開けるのだ。



だって、ほとんどの貴族は気付いていないでしょうけれど、

この乙女ゲーの世界で産業革命が起きてしまった。

叔父様が作り上げた機器の数々はただの農民では扱えない。

きちんと教育を受けた物が扱う物だ。

そういった物が広がれば「物」の価値は著しく変わっていってしまう。

そして人の価値も。

のんきに田畑を耕している場合ではなくなるのだ。

急激な時代の変化が訪れる。

お父様の領地は世界の最先端を走り続けている。

その与える変化の速さに周囲の領地と貴族達はついて来れるのかな?

そしてプライドと魔法だけの貴族がいつまで貴族を名乗っていられるのか…

あの、ボルフォード家がいつまで公爵家でいられるのか…

私の興味はそこにしかなかった。


「ねぇギネヴィア?これから、王都はどうなるかしら?」

「さあ?少なくとも人口減少は始まるでしょうね。

富が形を変えて、別の所に行ってしまうから」


それはゼファード叔父様に、

教育されたギネヴィアらしい回答だった。


乙女ゲームの幸せなエンディング後の未来が…

崩れ去る瞬間が着々と近づいて来ていた。





私王都を少し離れる前の事。

学生の戯れ。

あの卒業パーティーでの婚約破棄事件は、

イベントの多かった私達の学園生活においても、

特別な日となった。



男爵令嬢であるソフィア・マリスを陰湿な虐めから救うため、

あの正義に燃えるカーディル・ボルフォード公爵令息が動いたのだ!

ソフィア・マリス男爵令嬢に嫌がらせをしていた黒幕は、

なんとカーディル・ボルフォード様の婚約者だったのだ!

婚約者であるエルゼリア・ファルスティン伯爵令嬢は、

学園を改革してより良い物としようとするカーディル様と、

良い提案をしてくれるソフィア様に嫉妬して、

3年間もの長い間、陰湿な嫌がらせをし続けていたことが判明した!

自らの立場が危うくなる事を恐れたエルゼリア様は、

あの手この手で人を動かしてソフィア様を虐めていたけれど、

遂に不正の証拠を掴んたカーディル様とソフィア様が、

愛の力で不正を暴いたのだ!

その素晴らしい功績と不正をするような人を、

婚約者いする訳にはいかないカーディル様は、

直ちにエルゼリア様との婚約を破棄!

真実を共に見つけた正義感溢れるソフィア様と婚約したのだ!

不正を許さない正義感の強いお二人が公爵家を引っ張って行けば、

公爵家は安泰だ!

素晴らしい革命が起きたのだ!


「貴族子息の小さな革命」


そんなタイトルで噂が学園中に広がったのだけれど…

調整と忖度が「不正」なら確かにやりたい放題私は「調整」したから、

間違ってはいないのでしょうねぇ。

その年の卒業式の私への断罪は大きなことになる事無く処理された。

そして私への断罪は素晴らしい事とされて不正をただした、

ボルフォード家のカーディル様は英雄として祭り上げられた。

「黒」が「白」になった訳だけれど、いいのかしらね?

「実力と正義」を正しく評価してしまったら、

この王国は立ち行かなくなるのだけれど、その辺りは理解しているの?


けど…


ー正義のボルフォードを守るためー


貴族社会の建前?の美しさを守るため。

貴族世界を綺麗にするためにボルフォード家が金をばらまきまくった。



それで学園時代の「美しい思い出」の出来上がりだ。



まぁボルフォード家としては真実の愛だろうが何だろうが、

唯一の跡取りがまともになってくれれば相手は誰でも良いのだ。

そしてお相手のソフィアさんはその狂気の息子を飼いならしてくれた訳で。

そうすれば私は自動的に用済み。

実家への支援金は婚約破棄の代価として支払われる事になる。

ともかくボルフォードの動きは早かった。

なんとしてでも「美しい思いで」にするために。

資金を湯水のごとく使って威厳を保ち公爵家に傷を残さない。

それだけを考えての行動だろうけれど、

驚くほど高額な賠償金を快くボルフォード家は積んでくれた。



私と言うよりも父様の方がさっさと後片付けをして縁を切りたかったのか、

私に非がない事を証明する証明書を即日発行させて、

あとは公爵家が支払えるギリギリ断らない賠償金を吹っかけたのだ。

交渉役として訪れた人も。


「結局は金ですか。やはり田舎者は…」


等と言っていたけれど予想通り金を支払って、

私達の婚約は「無かった事」とされた。


婚約破棄の責任はボルフォード家側だけにあり、

エルゼリア・ファルスティンに一切の非がない事を、

認めなければいけなかったボルフォード側としては、

発行する証明書の効果が少しでも軽くなる方法を提示してきたのだ。

それが「破棄」ではなくて「解消」という形。

始めから無かった事にすれば突然の婚約破棄の非を、

あの学園のパーティー会場でエルゼリアに恥をかかせた事を、

軽減できるから。


緻密な言葉の応酬で勝ち取ったと言えば誇らしいのかもしれないけれど、

特に婚約者がいなくなる事を嘆いている訳ではない私にとっては、

「破棄」でも「解消」でもどちらでも良かった。

この先、再度婚約する時に問題にならない様にと、

お父様も気を使って下さったみたいだし。


結婚とかはもうどうでも良いんだけどね。

未来はどうなるか解らないし。


十日前後かかったボルフォード家との婚約解消関係の雑事を見届けながら、

私は本格的に王都から離れる準備をして学生寮なとの整理をしつつ、

持ち運ぶ物、必要な物を選別して先に領都へ送り出したのだった。

私の私物で王都に残っているのは数着の着替え用のドレスだけ。

もう、二度と来ない王都になんら未練が生まれるかとも思ったけれど、

甘い思いでもなく苦い事務作業しかなかった事と、

煌びやかなイベントは完全に裏方のまとめ役だった私にとっては、

仕事をする場所が変わるだけ、

いわば「転勤」の様な気分かも知れなかった。

出立の時お父様に


「あとは任せなさい。

領都でゆっくりすると良い」


頭を撫でられながら労いの言葉をかけられたのも、

影響しているかもしれない。

お父様としても、もう王都にそんなに興味がないのかもしれない。

私がいなくなりギネヴィアも領都に帰ればもう血縁者は王都にいない。

気にして目を掛けなくちゃいけない人もいなくなるのだ。


それに引き換え領内では目まぐるしい変化がきっと訪れている。

ゼファード叔父様がいる限り領内の発展は終わらないのだ。

お父様は目まぐるしい勢いで成長していく領内を見るのがた楽しいのだろう。

一番ゼファード叔父様に魅入られているのはお父様。

けれど気持ちは分かってしまう。

叔父様は一日として同じ日がない。

今日はアレ、明日はソレといった具合で物凄い勢いで、

物事を変えてしまうから。

見ていて飽きないのだ。


お父様はきっと一線を越えてしまっている。


そう感じられた。

それが良い事なのか悪い事なのか私には解らなかったけれど、

それ以上の答えを聞きたいとも思わなかった。

だって聞かなくたって解ってしまうから。

発展の一番つらい初期段階をお父様と叔父様は共有している。

それを考えれば今の伸びしろが楽しくて仕方ないこと位解ってしまう。




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