そう乙女ゲームとは前提条件からして違っていたのだ。
原因は何を隠そう親友のギネヴィア…
ではなくギネヴィアの父、
ゼファート・バルダー男爵という人の所為だった。
私のお父様アネス・ファルスティンの弟だった、
ゼファード叔父様はおじいさまから男爵位を譲り受けて、
領内にお屋敷を立てて独立?すると、
そのままファルスティン領内で色々な事を始めてしまったらしい。
どうやら叔父様は転生者みたいだった。
そしてその知識と魔法を使って辺境で産業革命を起こしてしまった。
いまや辺境は辺境なのだが…
蒸気文明の上位バージョン、スチームパンクな世界が、
お父様の領地には展開してしまっている。
その噂はここ王都にも届いてはいるのだけれど、
「魔法」を産業に取り入れたその考え方は貴族らしくないとかで、
「尊い高貴な存在が使う魔法をそんな事に使うとは、常識知らずの男だ」
なんて評価をゼファード叔父様は受けていた。
異質な貴族が領内にいる。
常識知らずの貴族に関わっては駄目だというレッテルで、
叔父様の存在は周りの領地からは一線を引かれた人になってしまった。
けれど叔父様はそんな事は気にしていなかった。
開拓を進め地質を変え技術を発展させファルスティンという土地を、
人の住める土地してしまった。
周囲の評価なんてどうでも良い。
関係ないとばかりに土地の開発を進めた結果、
ゼファード叔父様はアネスお父様を支えて、
王都にも引けを取らない発達を領地内に与え続けている。
そこには寒さと飢えに苦しみながら必死に生きる領地はないのだ。
…なので、私は別に婚約破棄されても困らないのだ。
そもそもほとんど「支援」は受けていないと言ってもいい。
私が本格的にカーディル・ボルフォートと向き合う事になって、
王都の学園に通う為に領都から出発する事になった時、
お父様は自分の考えを話してくれた。
そして、これから私がボルフォードとどう付き合っていくのかも。
「一応、中央とのつながりという意味で婚約破棄ぜずにいたが、
もう中央なしでもどうとでもなってしまうから。
何時、婚約破棄しても構わない。
…当人同士の合意があれば何時だって婚約破棄はできるからな。
合意出来れば何時だって動けるようにしておこう」
と、言われてしまう始末で。
全然嫁ぐことを期待されていなかったのだった。
貴族としての義務だからという事と公爵家の婚約者という事で、
私はギネヴィアとこの学園に通ったのだけれど、
領地の方が発展しているお陰で、
不便で仕方がない生活を送る羽目になっていた。
嫌々顔を合わせる事になったカーディル様との語らいも、
「フン。辺境の貧乏人が金ばかりせびりやがって」
お父様は何時金?をせびったのでしょうね?
「おい!婚約者だろう。俺の代わりに席を確保しておけ」
私は婚約者なだけで召使ではないのだけれどねー。
「教師から渡された課題だ。やっておけ」
この程度?のを課題を私にやらせるってどれだけ頭足りないの?
等々、言われたい放題だけれど一応?婚約者らしいし?
訂正するのもメンドクサイし、
ゲームのシナリオ通りに進んでるなーと思って、
どうせ婚約破棄されるだろうと思っていた私は、
その辺りを本当に適当に処理していた。
真面目にするのもアレで後で突っ込まれたら大変だし。
お陰で私の学園での評判はすこぶる悪い。
対してカーディル様は素晴らしい生徒という事になっていた。
まあ…
それてもう良いじゃない?
ただまぁ気づいてしまったのだ。
私がやらされていた事はヒロインのお願いをかなえる為の裏方だって。
何のことか解らないかもしれない。
けれど考えてみるとなかなか笑えることだった。
乙女ゲームでテンポよく現れる異常な場面。
けれどその場面て演出されなければ絶対に生まれないんだ。
例えば…
薔薇の花びらで埋め尽くされた中庭とか?
ヒロインが着るどう見ても特注のドレスとか?
そういった乙女ゲーの過剰な演出の根源が私のやらされている事だった。
生徒会で優秀なヒロインが出して下さる、
いい加減な計画書を実行可能な状態にするとか。
「音楽祭」「文化祭」「拳闘会」とかもう色々。
、
めちゃくちゃな思い付きと内容の催し物を開催するために、
私はギネヴィアと二人あっちこっち走りまわった。
長い年月がたった由緒ある学園で何故そのイベントが無かったのか。
町や他の国では開催されているのに、
何故「学園」では開催されていなかったのか。
その開催されていなかった理由も考えもせず簡単に提案をして来るのだ。
そのイベントは面白そうだと言いながら。
そして可愛いヒロインが充実した学園生活を送る裏で、
私はそのイベントを開催にこぎつける為に走り回りイベントを支え続けたのだ。
それも今日で終わり。
やっと学園という場所から解放されるとギネヴィアと喜んでいた所に、
婚約破棄である。
愛しき(笑え)カーディル様との思いでなんてありゃしない。
学園生活はギネヴィアと事務仕事の練習を、
ずっとして来たようなものだった。
「エルゼリア!貴様は俺に相応しくない」
「左様でございますか」
「だからこの時この瞬間を持って婚約を破棄する!」
「婚約破棄、賜りました」
宣言はパーティー会場へ響き渡る。
そして会場にはどよめきが起こるが…
別に私は気にしない。
「今更何言っているのよこの男」状態な私は淡々とカーディル様のお言葉に、
義務的に返答をしてあげるのだった。
まぁ。
破棄されたら領地へ戻って別の誰かと結婚するだけだし。
住み心地も王都より領地の方が数段上だ。
特に公爵領は酷かったし嫁かずに済むのだったらそれに越したことはない。
「悔しいだろう!俺の忠告を聞かなかったからだ。
それに比べて、ソフィアは天使だ!
お前とは違う!」
「では、天使のソフィア様とお幸せになって下さいませ」
「あははは!お前の様な冷酷な令嬢はこの場に相応しくない!
さっさと去るが良い!」
「はい。そうします」
こうして私はそのパーティーを後にした。
なんだか良く解らない学園生活を終えた私は、
正式に婚約破棄を受理して領地であるファルスティンへと、
正々堂々と帰る権利?を手に入れたのだった。
悪役令嬢として…
苦しむとか、
破滅の未来を回避するとかは、
全てギネヴィアのお父様がやってくれてしまったので、
結局、私がしたことは普通の学園生活の裏方作業を行い続けると言う、
じみぃーな事だけだった。