目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
悪役令嬢は何もしない。けれど叔父様は世界を変えてしまいました。
VLS
異世界ファンタジー内政・領地経営
2024年08月10日
公開日
29,319文字
連載中
これは悪役令嬢に転生してしまった主人公が絶望の未来に抗う物語…ではなく。
悪役令嬢の叔父に転生していた人物が魔法と錬金が仕える事を良い事に産業革命を起こしてしまった。
世界観が大きく変わりゲームの前提条件が大きく変わってしまった世界で絶望も破滅もない未来が用意された代わりに、
ただ書類仕事を続けることになりそうな悪役令嬢の物語である。
彼女の未来はいかに?

第1話

「エルゼリア!貴様との婚約を破棄する!」


それは突然に言われた事だった。

学園の卒業パーティーで突然の宣言。

もちろん周りは混乱していた。

そもそも私の目の前で私の名前を叫んだこの男。

公爵家の長男で偉い人の御子息だ。

名前は…


「カーディル・ボルフォード様?

婚約破棄で御座いますか…

それは大変な事ですね。」


婚約破棄?

という事が私には解らなかった。

だって私は婚約なんてしていない。


…はずだ。

一種混乱状態で。

そしてこのカーディル様の隣には、

可愛らしいお嬢様がいらっしゃる。

男爵令嬢で素晴らしく愛らしい。

男を虜にして垂らし込む事に関しては、

素晴らしい才能をお持ちの令嬢だった。

まぁ素敵。

どんな才能だって無いよりあった方が良い。



「ねぇギネヴィア?私婚約していたの?」

「…一応ね。していたわ。」

「そうなの?」

「そうなのよ…」

「へぇ。すごいわね」

「エルゼリア…」


こと、取り巻き兼親友のギネヴィア・バルダーに私は尋ねた。

ギネヴィアはため息交じりで答えてくれる。

けれどギネヴィアは気づいている。

私がとぼけている事も、

そして婚約破棄なんてどうでも良いって思っている事も。




さて、ここでひとつ私が落ち着いている理由を話そうか。

私はこのシーンを知っているのだ。

ここでヒロインが登場して

私ことエルゼリア・ファルスティンに婚約破棄を告げる事を。

だから私は慌てない。

あぁ、やっぱりするんだなって思っていた。

まあそれだけが理由ではないのだけれど。

ゲームの中では…



私の家ファルスティンは伯爵家。

けれど家は、借金がかさんで火の車で大変な事になっている、

辺境の1領主の娘という事になっていた。

辺境の暮らしは貧しくてその辺境を取りまとめるファルスティン家は、

色々と苦労していた。

けれど支援してもらえる貴族同士の繋がりはなかった。

そんな中、エルゼリアが生まれて彼女は同年代と比べて優秀だった。

貴族として立派な淑女に育っていた。

そんな時にそんな時にこの国の公爵家の息子であるボルフォード家の長男が…

一人息子の為、甘やかされて育ったカーディルが色々問題を起こすようになる。

簡単に言ってしまえば教育に失敗しましたって言ってしまっても良いと思う。


んでその果てに魔法を使って傷害事件等を起こしてしまったのだ。


「力の使い方を誤って行使してしまった。

恥ずべき行いをしてしまったのだ」


なんてカッコよくオブラートに包んで、いい訳をしていたのだけれど、

相手方に一生の傷を負わせてしまったらしい。

幸いなことに?傷を負ったのが平民だったから、

公爵家の力でその事をもみ消して何もなかったことにしてしまった。

けれど、そのせいで同格の娘を持つ貴族は、

カーディルとの婚約を渋る様になってしまった。

何をされるのか解らないからね。

同格の家なら、もちろんそんな危険な子の婚約者にして万が一なんて考えたらね。

大切な娘を嫁がせるなんて判断は、まともな両親だったら出来ない。

そう判断される程度にはカーディルの評判は悪くなってしまっていた。

けれど公爵家としても一人息子のカーディルに婚約者がいないのは、

家の格としても長男と言う立場としても問題があるとされてしまう。

年齢が上がって婚約者の一人もいないのは、

不味いという事になって何とか婚約者を探した。

公爵家と家が釣り合う事が優先される事だけれど、

それ以上に教育の失敗したカーディルのフォローが出来る令嬢が必要だったんだ。

でなければ公爵家の顔に泥を塗る事になるのだから。


そして見つけ選ばれたのが私エルゼリアが見つけられたと言う訳だ。


公爵家の威厳を守るために、

カーディルの代わりに泥をかぶり汚れ役を強いたとしても、

権力でもみ消せて、どうとでも辻褄を合わせる事が出来る都合の良い格下の令嬢。

ボルフォードにとって都合の良い令嬢。

もしも失敗したとしても多額の資金を援助する事さえ約束すれば、

いくらでも不都合が書き消せる正に大人にとっても都合の良い丁度良い子。

それがエルゼリアだった。


苦しい実家を支援する代わりにカーディルという狂人の生贄として、

婚約者に祭り上げられ泥をかぶる役を了承させられた訳だ。


最大限の支援をして貰う為にボルフォードからの無茶な要望に応えて、

少しでも多く実家に物資を貰う為に生贄として捧げられるエルゼリア。

公爵家に嫁いでそこで何とかカーディルの子供を産み、

公爵家を次世代に繋げると言う大役を押し付けられる。



何も考えないバカな、カーディルに代わって全ての不都合を解消するように、

全ての責任をエルゼリアに押し付けたのだ。



カーディル・ボルフォードはその時点で、

どうしようもなく「屑」と表現していいほど荒れていた。

好きに生きていた。

自分を国王と勘違いしたかのような言動に、

人の話を一切聞かない我儘な性格。

それは簡単に言えば俺様カッコイイ俺のやる事は正義。

他者がやる事は全て間違い俺様はエライのだ!みたいな感じで。

完全に、善悪の基準が狂った「可笑しな正義」を、

公爵子息の権力を振りかざして暴れ回る状態だったのだ。


いくらエルゼリアが優秀だったとしても、

矯正なんて同い年の少女が出来るはずもない。

肥大化した自尊心を満足させるために、

カーディルは暴走し続ける。

エルゼリアは必死にカーディルを止め、

周りの人達へフォローをし続けるのだった。



婚約破棄される訳にはいかない。

故郷の皆を路頭に迷わせるわけにはいかない。

彼女はそう思い自分を殺してカーディルに尽くす。

文字通り命がけで。

学園に通うようになるとカーディルは一人の女の子に心を引かれていく。

それは男爵家の娘として引き取られたヒロインだ。

ソフィア・マリスが登場し天真爛漫な姿を彼に見せる。

口うるさく貴族の義務を語るエルゼリアにカーディルは、

嫌悪感を抱くようになる。

けれどエルゼリアは諦めない。

諦められない。

婚約破棄されたら実家が困ってしまう。

援助を得られなければ家族は領地の人間は路頭に迷って…

みんな大変な事になる。

だから我慢して、我慢して、付き従うエルゼリア。

何とか彼を良い方に導くために必死に説得するエルゼリア。

けれどその口うるささと貴族としての立ち振る舞いを、

強制しようとするエルゼリアに最後はカーディルが切れてしまった。

そして当てつけの様に恋していたソフィアと結ばれるために、

卒業式のパーティで大衆の面前で…

エルゼリアとの婚約を破棄してしまうのだ!

灰色に近い違法ギリギリの事にまで手を出して、

何とかカーディルの心を自身に向けようと頑張るエルゼリアは、

乙女ゲームの中ではしっかりと悪役として描かれ、

素晴らしいヒロインとヒーローの敵役を演じ切る事になる。



で、


乙女ゲーではそのあとヒロインであるソフィアとカーディルは結ばれて、

幸せに暮らしましたとさ。

なのだ。

後日談では公爵家で着飾ったソフィアとカーディル様が、

幸せなお茶会をしているシーンで終わりなのである。

それは素敵な乙女ゲームの結末としては問題のない物なのだ。

しかしそれを許せるのはヒロイン達だけでもある。


エルゼリアからすれば、


え?これで終わりなの?


である。


貴族の義務とかは全て置き去りにして、

それだけ見せつけられて終わりだ。

まぁ、ゲームならそれで良いのだろうけれど…

ヒロイン達は幸せに暮らしましただから何も問題ないのだけれども。

現実は美しいスチル一枚見るだけでは終わらない。

終ってくれない。



パーティ会場で大声で宣言されたその言葉から始まる、

断罪は後に引けない無かった事に出来ない茶番が始まる宣言であり、

ゲームでは語られない色々な所で生まれた歪がその一言で限界点を迎え、

その余波は色々な所に波及する合図ともなるのだ。


さて、ゲーム云々はともかく私のいる場所と立ち位置は

乙女ゲームと同じ場所での断罪であり、

私は幸せ主人公ではなくて婚約破棄されるエルゼリアな訳で…


けれどオロオロと震え困惑してカーディルに縋りつき、

理由を教えてと言いながら慈悲を請わなければいけない哀れなエルゼリア…

ではなく。


どうにかして公爵家に嫁いで実家の支援を確約しなければいけない、

追い詰められみっともなくあがき続けなければいけない、哀れ伯爵令嬢…

でもなかったりする。




べっつに?私は焦っていないのだ。

だって焦る必要がない。

私は公爵家に金で買われた婚約者という事になっている。

一応はね。


しかし実際実家のファルスティンは金銭的に困っていないのだ…

婚約破棄されても構わない。

どうにでもなーれって奴だ。




ーだって私の故郷は別に支援をして貰わなければならない様な状態ではないから―


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?