ダンジョン・ミロス、始まりの階。
異能がない一般人にもオープンしている低級ダンジョン。
南涼太は隅で息を潜めている。
ここは最低級のモンスターーーースライムが生息する階。
始まりの階でしか生きられないスライムは一般の人でも倒せる最適な練習相手。
緑色でトロトロで、気持ち悪くするがなんか可愛いスライムが群がっている。
脅威性には全く見当たらないのだが、南は動かない。
いや、動いていたが惨敗した。
南はあらゆるゲームを制す神ゲーマーであり、頭脳と技術は間違いないく最上級。
ゲームに飽き飽きした南は最近一般人向けのダンジョンに興味抱きはじめた。
ダンジョンの中では異能さえ手に入るとのことで、最近はブームになっている。
が、リアルにある最弱のモンスターに手こずっている。
それは、南はどうしようもない運動音痴で、長年のオタク生活で体力もない。いわゆるもやしだからだ。
二時間前に来た南はスライムの運動パターンを分析し、弱点も完璧に見抜いた。
動き出すその瞬間、南は何もないとろこに足が詰まれ、派手に転んだ。
中立モンスターであるスライムは自ら人を襲い掛からないため、何とか無事だったが、顔から膝までの擦り傷が避けられなかった。
痛いが神ゲーマーとして、ここまで来て何もしないまま帰るにはいかない。
“クッソーこんなにちょろいモンスターにひきずってたまるか”と悔しがる南。
神ゲーマーとして、南は涼という名前でバーチャル配信もやっている。
「どうした涼、らしくないな」
「wwwボコられた」
「家に帰れよ」
「おとなしくゲームやってろ」
神ゲーマーのダンジョン初デビューを視聴している人も少ならず、生意気な南が悔しがる姿があまりにも珍しいので、弾幕の勢いが凄まじい。
「うるさいなお前ら」と強がる南「スライムなか眼中にないよ」
さて、転ばない限りスライムを倒すのが可能だ。
スライムの弱点はそのど真ん中、そこに刺せば一撃で倒せるはず。
そうと決まれば
南は手持ちのナイフを握りしめ、ダッシュでスライムに向かった
「よし、今度は転んでない」と安心した南の動きに伴い
プチとナイフがスライムに刺す音が響いた。
「スライムなんかちょろいってああああああああああああああ」
とぶっとばされた南。
ナイフがスライムの中心までに届いてないらしく、スライムの特有の柔らかさからの反動力及びスライム自身の怒りで、南は高く飛んだ。
そして落ちる。スライム群れの真上から。
「まじかよーーーーー」
南はぷとスライムの防御壁にただき、内部まで突っ込んだ。
衝撃されたその一匹のスライムが震え、粘液を大量に噴出した。
すると、周りに徘徊するスライムたちが一気に寄せ、融合を始めた。
「ぐぐ…ぐぐぐ、息が…」
スライム群れがどんどん融合をし、一般人では恐怖を感じる大きさになってしまった。
スライムはゼリーのような構造で、その粘液で獲物を狩り、消化するが、普段は中立なモンスターとして植物、菌類や虫などを食物として摂取している。
中立のモンスターだが、極希少なスライムが強烈なパニックに陥ると仲間を呼びかけ、融合をし、敵を内部にて消化する習性がある。
前回のスライム融合はすでに五年前の話。
南は成人男性ではあるが、体重は軽く、かつ落ちた瞬間から衝撃に対応する体勢をとったが、スライムはど真ん中がぶち壊され生きられるタフなモンスターでははず。
それでも、真っ先に衝撃を受けたスライムを瞬殺することは出来ず、希少な融合現象が発生した。
南は事前にスライムについて調査したが、こんなにも珍しい現象を気にしていなかった。
スライムに完全に飲み込まれた南は息苦しさと対抗しながら、じっと対策を考えている。
息が苦しくなるが、スライムの内部でも隙を作れば、希薄な酸素がある。
南はバーチャルリューク空間から飲み干したボトルを取り出し、スライムの粘液がボトルにはいれないように、手で防ぎ、そのわずかの空気を吸う。
スライムの内部にむやみに足掻くのは体力の無駄、完全な攻略法をみつけだして行動する。
「おい、なんだこれ」
「大丈夫かよ」
「だれか涼ちゃんを助けてやって!!」
「救助隊に連絡した!!!」
「大丈夫かよ、大ピンチじゃん」
と弾幕も騒いている。
どうする。
強引に切り裂くのは明らかにできない、自分のパワーをよく知っている。
モンスターには必ず弱点があるはず、その弱点を見つければ一撃で倒せるはず…
幸いに手持ちのナイフは落ちてない。
一般のスライムの弱点はど真ん中にある透明が核、その核を打ち砕けば倒せるが、
この複数のスライムの融合体の核はどのにある、そもそもあるのか。
と必死に考える南。
「おい、なんで動かないだよ、もう気絶したのか」
「死なないで!!!」
「噓だろう、あの涼が…」
「救助隊はまだか」
「なんかもう消化始まってないか?…ヤバい」
そう、消化。
じりじりの感触が南の意識を引き戻した。
スライムの消化機能が作動し始めた。
真っ先に溶け始めたのは南が500円で買い取ったTシャツであった。
「は???ふざけんな!」と心の中で叫ぶ、さすがに南も冷静さを失い、息を漏らした。
長年のゲーマー生涯で、あまり外に出ず、肌がまっしろ。
運動しないが、痩せてるが意外と繊細で綺麗な身体。
「あ、生きている」
「そんな場合ではないが、涼ちゃんの胸見えてきた…」
「良かった!!救助隊はもうすぐだ!!頑張れ!!」
救助隊は高レベルの攻略者が集う組織で、低レベルの攻略者を守るために、毎日交代制で巡回している。
視聴者のおかげで、救助隊がすぐに南の位置をとらえ、支援を派遣した。
そこで、全身真っ黒の戦闘服に纏、ニーハイブーツで、ある覆面の男が無様な南の前に現れた。