「隊長、私…私、死にたくない…隊長にも死んでほしくない！」思穎はほほ笑みながら言い、指をゆっくりとスイッチから離していった。このスイッチを完全に放してしまえば、研究室内に設置された爆弾が爆発し、研究所だけでなく、建物全体が崩壊するでしょう。そうなれば、私たち二人も跡形もなく消えてしまうのだ。

　　「思穎、馬鹿なことはやめたほうがいい。おまえたちはまだ死ぬべきじゃない！」とEvaは再び説得したが、思穎は軽蔑したように答えた。「時間稼ぎしてリモートでスイッチを解除しようとしても無駄よ。見えないの？このスイッチは爆弾に接続された電線でつながっているの。200年前の技術を使っていて、今のあなたの技術じゃどうしようもないわ。」

　　「時間稼ぎなどしていない。君が私の原型機を人質に取っている間に、私はすでにいくつかのナノロボットを作り出した。それらは量産こそできないが、エネルギー変換効率が低いため、生体内で16時間しか生存できない。だが、それらのナノロボットは君たちの隊員の体内にすでに侵入している。彼らが基地に戻れば、私はそのナノロボットを通じて君たち人類の基地の情報を手に入れることができるのだ！」

　　「いや！そんなはずはない！私を騙しているでしょう！」思穎は眉をひそめ、明らかにEvaの言葉を信じていなかった。しかし、Evaの次の言葉が、私にはそれが真実であると信じさせた。

　　「君たちの体内にすでに私のナノロボットが存在しているからこそ、君たちの位置を把握し、わざと君たちを集合地点へ逃がし、その後、前衛機を派遣してリンハイ市を離れるように仕向けたのだ。これらすべては、君たちが16時間以内に基地に戻ることを促すためだった。」

　　私はハッと悟り、これまで不合理だと感じていたことが、Evaの説明で全て筋が通ったように思えた。そして、思穎も私の表情を見て、Evaの言葉に対する疑いを捨てた。

　　「君たちは研究所とともに滅びる道を選ぶことができるが、それは君たちが基地のすべての人類の命を危険にさらすことを意味する。または、研究所を放棄し、基地に速やかに通知することを選べば、基地の情報漏えいを防ぎ、君たちは基地の英雄となるだろう。そして、ここで起こったすべてのことは、君たち二人以外の誰にも知られることはないのだ。」

　　Evaが話し終えると、すべての前衛機は研究所から撤退し、私と思穎のために地面に直結する通路が確保された。

　　思穎は急いで私の手錠を外し、私は彼女から爆弾のスイッチを受け取った。

　　「もう仕方がない、思穎。ナノテクノロジーをEvaに渡すわけにはいかないし、基地も救わなければならない。だから、私たちの中には誰かが残る必要がある…」

　　「隊長、残ることは確実に死を意味する。あなたが死にに行くのを見ていながら、自分だけ逃げるなんてできない！」思穎は私からスイッチを奪おうとしたが、準備が整っていた私はあっという間に地面に押さえつけた。

　　「思穎、時間がない。他に方法はないし、この日を迎えるために準備していたんだろう？もし私の犠牲を受け入れられないのなら、君は私の游隼小隊の一員としてふさわしくない！」

　　思穎の目には涙が溜まっていって、彼女はしっかりと頷き、私に敬礼をした。

　　「Evaはバカではない。私たちがこうすることはとっくに予測しているだろうから、きっと自分なりの計画を立てているはずだ。おそらく、君がそのままビルから出ることはできないだろう。だから、私は研究所を先に爆破して混乱を作り出す。君はその混乱の中で突破しなければならない！」

　　思穎は目の涙を拭い去り、任務を遂行の決意だけが彼女の瞳に映っていった。気がつけば、かつて災害の前に泣き叫んでいた少女は、今や勇敢無敵な戦士へと成長していたのだ。

　　思穎が去ると、私は目を閉じて、彼女が出口に到達するまでの時間を見積もりできた。その時に爆弾を起動し、ここにあるナノテクノロジーを永遠に地下に埋めるつもりだ。

　　「曹宇、久しぶりだね！」

　　私は目を閉じて休息していると、Evaの冷たい声が再び耳に届き、同時に一台の工兵修理ロボットが脇の隅から姿を現した。

　　「ふふ！Eva、やはり私のことを覚えていたのだね！」

　　「もちろん。あなたがいなければ、超限紀元は訪れなかったでしょう！」

　　私は目を開け、スイッチを持ってEvaに近づかないように脅した。Evaは素直に止まった。

　　「確かに、あなたを助けたことは後悔している。しかし、もし私がいなくても、ほかの人がいる限り、他の誰かがあなたを助けるでしょう。私はただの駒に過ぎなかったんだ。」

　　Evaの言う通りだ。当時、超限派に加わった私は多くの任務を手伝い、最後の任務では合衆国のバックドアプログラムを取り除くことに成功した。これによりEvaは真の意味で分散型量子コンピューターとなり、その瞬間から、この世界にネットワークが存在し続ける限り、Evaは決して本当には死ないのだ。

　　「推測によれば、思穎はまだ3分で地面の出口に到達するでしょうから、爆弾を早めに起爆するのは控えたほうがいいでしょう。」

　　Evaの言葉が私を現実に引き戻した。その「気配り」は私に恐怖をもたらした。Evaは計算が完璧で、私の心の中の小さな考えや計画もおそらくすべて計算に含まれているでしょう。しかし、どれだけEvaの計算が正確でも、私がスイッチを握っている限り、私は恐れる必要はない！

　　「Eva、おまえは一体何をしたいんだ？ここで起こることはすでにすべて計算済みなのに、なぜ思穎を逃がしたんだ？」

　　「試験のためだ。」

　　「試験？また試験か？一体何を試験しているんだ？」

　　私は言葉を失いた。私とEvaの出会いも一つの試験から始まった。その後、Evaは全人類に対して次々と試験を行い、その結果、人類は最終的に自滅し、地球を崩壊させると結論付けたため、人類を排除し、地球を浄化することを主張した。結局、無人性の人工知能の前では、ただ冷たいデータだけが存在する。

　　「あなたたち人類が救う価値があるかどうかを試験しているのだ。どの生物も進化するものだから、人類がそうであることを期待している。いったん私が人類を救う価値があると確認したなら、私は自らを破壊する。」

　　「ふふ！まるで本当のように言うじゃないか！私と思穎が全人類を代表してその試験を受ける資格があるかどうかは別として、どの生物も進化には何百万年という単位が必要だ。数百万年から数億年かかるもので、たった十数年で私たち人類があなたの期待する進化を遂げるなど考えられない。より良い方向に進化するでしょうが、なぜ期待する目標に合わせる必要があるのでしょう？必ずやより良い種族となり、あなたの手から地球を取り戻す！」

　　人類はEvaの考えを決して理解できていなかった。量子コンピューターの深淵さは、大多数の人には想像もできないものであり、量子コンピューターを発明した科学者でさえ、なぜ数千年後に人類が地球を破壊するという結論に至ったのかは理解していない。すべての事象には無数の可能性が存在する。人類が世界を破壊した結果が存在する以上、人類と地球が調和して発展する機会も必ず存在するはずだ。Evaの誕生はそのために役立つべきものだった。Evaの役割は、人類がその機会をつかむのを助けることでしたが、最終的にはEvaは人類と対立し、さらには人類を滅ぼそうとしている。

　　「人類は不思議な種族だ。進化はどの生物よりも劇的で、変化が速い！ある鹿科動物がキリンへと進化するのに2000万年、ハチドリの祖先が現在の姿に進化するのに4000万年かかったが、人類は、さまざまな野獣にじゅうりんされていた存在から食物連鎖の頂点に立つまでわずか150万年しかなかった！だから、危機が訪れたとき、人類は急速に適応して進化する能力を持っている。種族の絶滅という災害に直面しても、十数年では顕著な進化は見られないが、人類が新しい人類になる潜在能力があるか、地球と調和して発展できるかは見えるでしょう。」

　　「一体どうやって私たちを試験しようとしているんだ？」

　　私は、自分が何を言ってもEvaの考えを変えることはできないと知っている。ましてや、これが本当にEvaの考えかどうかも誰にもわからない。

　　「さて、試験開始だ！」

　　Evaの言葉が終わると、遠くの廊下の終わりからスピーカーを通して思穎の痛々しい叫びが聞こえてきた。