私は研究所に向かう途中で、ついに基地との通信が回復し、すぐにリンハイ市の状況を報告した。基地も直ちにこちらに増援を派遣し、Evaが研究所に機械軍を派出した理由を調査すると約束した。しかし、私も基地もわかっていることは、たとえ増援が派遣されたとしても、その最優先目標は私と思穎を救出することではなく、研究所の状況を調査することだ。したがって、私たちが無事に脱出できるかどうかは、私たち自身の力にかかっている。

　　撤退する前衛機を追跡して、私はすぐに研究所の前にたどり着いた。案の定、大量の前衛機が地下階へと押し寄せており、これほど多くの前衛機が見張っている中で、私は明らかに研究所に入ることはできなかった。

　　「赤隼、通信ができているか？ 聞こえたら応答してください！」

　　思穎の通信は依然としてつながらず、何が原因かは分からないが、彼女がすでに危険に遭遇している可能性が高いと予測した。理性も私に告げている――もう離れる時だと。今の状況では、自分には何もできないのだ！

　　人間はちゅうちょすることがあるが、機械はそうではない。Evaが操る前衛機がほぼ全て研究所に押し寄せているにもかかわらず、大量の偵察ドローンが依然としてリンハイ市を細かく巡回しており、私の行動はすぐに発見されてしまった。

　　投げた誘導型EMP爆弾によって2機の偵察ドローンは破壊され、私は隠れていたビルから飛び出した。大量の武装ドローンが駆けつけ、私を追跡し、やむなく市外へと逃げるしかなかった。

　　「クソッ、このまま思穎を見捨てるのか？ 私はおばさんに約束したんだ、絶対に彼女を危険にさらさないって！ でも、どうやって思穎を救えばいい？ 再び彼女に会うことさえできず、今や自分自身の逃亡すらも危うい！」

　　リンハイ市の出口に近づくにつれ、基地からの通信を受け取った。3機の72型戦闘機と機動チームがすでにこちらに向かっており、火力支援を提供してくれるとのことだ。これが新たなチャンスになるかもしれない。強力な火力の援護下で、研究所に潜入する機会が得られるかもしれない。

　　私が自分の計画を考えている最中、冷たい機械音が耳に入っできた。

　　「曹宇、おまえは本当に思穎を見捨てたのか？ 仲間だというのに、こんな扱いを受けて、彼女はどれほど傷つくだろうか？」

　　一台の前衛機が天から降り立ち、私の前に重く着地した。その時、手に小型EMP爆弾を握りしめていった。投げれば、その前衛機は確実に破壊されるはずだったが、私はちゅうちょした。たとえそれが私を引き止めるための言葉だと心の中でわかっていても、それは紛れもない事実だったのだ。私は思穎を裏切り、彼女をリンハイ市に一人で残してしまった。私は彼女の隊長にふさわしくない！

　　ぼんやりとした瞬間、思穎が失望した顔で自分を見つめているのを見た。そして彼女の背後には、かつて失った仲間たちが立っていて、彼らもまた全員が失望し、さらには恨みのまなざしを向けていった。

　　「ご、ごめん——」

　　私は恐怖に震えながら謝罪し、彼らに許してもらいたいと願いしたが、返ってきたのは軽蔑の目つきだけだった。その時、思穎が大股で私に近づいできた。

　　「曹宇、しっかりして！今は後悔している場合じゃないでしょ？」

　　鋼鉄の手のひらが私の顔面に襲いかかり、私は慌てて身をかわして後退し、辛うじて前衛機の大手を避けることができた。この切迫した瞬間、思穎のイルージョンが私を現実に引き戻してくれた。このような緊迫した状況では、一瞬の気の迷いが命取りになるのだ。

　　「前衛機にも音声装置が搭載されているとはね。てっきりおまえたち量産型ロボットは全員が無口だと思っていたよ！」

　　話すロボットを見たのは初めてだった。この十数年にわたるさまざまな戦争の中で、人類とEvaが対話した記録はごくわずかで、そのすべてがリーダー層とEvaとの間で行われたものだった。しかし今日のように、Evaが前衛機の口を借りて私を精神的に操ろうとするのは初めてのことだ。そこで私は一つの疑問を抱いた。Evaは私を引き留めて何の得があるのでしょうか？私は人類の中でも取るに足らない存在であり、私が生きようが死のうが、Evaにとって何の影響もないはずだ。

　　考えすぎることはない、Evaが私を引き留めたいのなら、絶対にその思い通りにはさせないと決意した。私は前衛機にEMPを投げつけ、その場を離れようとしたが、その瞬間、後頭部に激しい一撃を受けた！気を失う直前、私はなんとか身を翻し、もう二台の前衛機が近づいてくるのを見た。

　　どれほどの時間が経ったか覚えなかったが、目が覚めると全身がひどく痛み、マヒが広がっていった。太ももの筋肉は微かに引きつりしており、私は電気ショックで生き返ったのだと気づきた。

　　その時、すでに研究所の内部にいった。目の前の大きな扉の周囲には機械は一台も見当たらないが、私の周りには無数の前衛機がいて、彼らは緊張した様子で待ち構えた。Evaの指令一つで、彼らはこの扉の中へ突入しようとしているようだ。

　　「思穎、隊長の曹宇を連れてきた。曹宇の命が惜しいなら、すぐに研究室に出てこい！」と、一台の前衛機が扉に向かって呼びかけた。この瞬間、私はついにEvaが私を引き留めた理由を理解した。

　　思穎は死んでいなかった。それどころか、彼女は研究所に潜入し、Evaに脅威を与えるほどの存在になっていたのだ。そうでなければ、Evaが私の命を取らずに思穎をけん制する理由がないのだ。

　　思穎は一蹴りで扉を開け、手にはスイッチをしっかり握っていった。そのスイッチにはコードがつながっており、扉の向こうの何かに接続されているようだ。

　　「赤隼、そのスイッチは何につながっているんだ？」

　　Evaは私たちの会話を妨げることはせず、ただ無数の前衛機を操って、思穎の手のスイッチを鋭く見つめさせた。

　　「隊長、Evaはここでナノテクノロジーの限界を突破した。そして私の背後にある研究室には、量産型ナノロボットのプロトタイプとデータベースがある。私はデータのアップロードが完了する前に、研究室とEvaの接続を切断した。今、この研究室を爆破すれば、Evaはナノテクノロジーを失うことになる！」

　　思穎の成長は私の想像を超えている。十年前、まだ私の保護を必要としていた少女が、今や敵地に深く潜入し、Evaを脅かす存在に成長していたのだ。

　　「そうだ、おまえは確かにこの研究室を爆破できる。しかしリンハイ市以外にも、地球上には同様の研究室がたくさんある。私はナノテクノロジーを再構築するのに五年かけたが、今すでに半分のデータを手に入れている。二度目の再構築にどれくらいの時間がかかると思う？」と、Evaは前衛機を通じて冷たく現実を突きつけた。「だから、たとえ君たちがここで犠牲になっても、私がナノテクノロジーを使う時間を少し遅らせるだけに過ぎない。君たちの死は無意味だ。君たち人類は、自分たちがこの二年間、私を遅らせるためにどれだけの命を犠牲にしたかさえ知らないだろう！」

　　Evaの言葉を聞いて、もし両手が後ろ手に縛られていなければ、私は拍手を送っていたことでしょう。

　　「Eva、おまえは本当にただの人工知能なのか？多くの人間なら、おまえほど口が達者じゃない！超限落の前、世界中でナノテクノロジーが研究されていたが、その方法や過程はさまざまだ。リンハイ市のナノテクノロジーは、世界で最も進んでいるとまでは言わなくても、トップクラスであることは確かだ。地球上の他のナノテクノロジー研究室は、ここに比べることすらできない。さらに他の場所のナノ研究室がどれだけ破壊されたか、そしてどれだけが人類の手中にあるのかも分からないだろう！」

　　前衛機は同意するようにゆっくりとうなずきながら、続けて言った。「そうだな、君の言うことは正しいかもしれない。でも、曹宇、おまえは思穎のために命を賭けてリンハイ市に戻った。今、彼女が生きていることを確認したところで、彼女と一緒に死ぬことに納得するのか？だから私はおまえたちに選択肢を与える。スイッチを私に渡せば、解放してやる。私は人工知能だ、人間のようにうそはつかない！」

　　Evaのうそを信じるわけがない。もしEvaがうそをつかないのなら、超限落は起こらなかったはずだ。そして、もしEvaがうそをつかないのであれば、彼が暴走して世界の90%の人口を虐殺する前に、合衆国の科学者たちは彼を停止させたことでしょう！

　　私は思穎を死なせたくはない、今の状況では、研究室を破壊する以外に他の選択肢がないように思った。そこで、選択権を思穎に委ねることにした。

　　「赤... 思穎、どうするかは君が決めてくれ！」