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第五十話 ぬくもりの裏側

 ククリが自分の家に帰ってくると、サラ婆が夕食を作って待ってくれていた。自然と頬が緩む。彼女の作る料理は味付けが半島風のもので味は独特だが、今ではすっかりククリは虜になっている。

 奥には木の玩具で遊ぶハヤヒがおり、母の姿を見ると顔を輝かせてかけてきた。まだその足取りは頼りないが、転んだところは見たことが無い。

 ククリは足に絡んできたハヤヒの頭を撫でる。


「ただいま」


「全く。お前と入れ違いに帰ってきたものだからね。母はどこへ行ったのだと、ずいぶんごねたんだよ」


 サラ婆がやれやれと、左肩を自分で叩きながら言った。


「ハヤヒ、お爺様のところに行っていたのだ。あまりサラ婆を困らせてはいけないよ」


 ハヤヒは、はあいと足に頬を擦り付けながら言ったが、どれほど分かったのか、今度は今にも眠りそうなほどにうとうととし始めた。

 ククリは我が子を抱き上げると、そのまま寝床に移らせた。灯りを一つ消して、そっと布をかければ、ハヤヒはすぐに寝息を立て始めた。後から入ってきたハヤトが、すぐ横で丸くなる。


「母親が帰ってきて、安心したんだろうよ」


 猪汁を入れた木の椀を手渡しながら、サラ婆はククリに耳元でささやいた。


「それで、イサオはどうだった?」


 ククリは確認するように、サラ婆の手を握りしめる。


「大丈夫じゃ。今この家の回りには誰もおらんのは確かめておる」


 この言葉でようやく、ククリは体中に入れていた力を抜く。


「やはり父上は、どうしても私を熊襲の領内から出すことを許してはくれなかった」


「では」


「ああ、隠しているつもりでも、相変わらず私には恐ろしいほどはっきりと感じたよ。父上の、私に対する激しい殺意を」


 それは凍えそうなほど冷酷で、煮えたぎるほど熱い感情だった。


「早く、一刻も早くハヤヒを連れてこの地を出なければならない」


「すると予定通りじゃな」


「うん、帥大と接触する。倭国王子帥大の血を引くハヤヒの存在を知らせ、アワギハラの正当な主とするために」


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