目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
桜と肉⑥

――ぼとり。


 肉塊が目の前に落ちてきた。Aさんは悲鳴を上げた。その肉塊には、目玉がついていたから。ガラス玉のようにうつろな黒い目と、目が合った。


 Aさんは叫びながら全速力で走った。コースを無視して、バトンを持った生徒が驚いて声を上げても、先生が戻りなさいと怒鳴ってもお構いなしに、肉塊から逃げるように走った。走った。走って、いつの間にか、中庭にある桜の木の下まで来ていた。


 Aさんは何度も何度も、桜の木に頭をぶつけて血まみれだったんだって。

救急車が呼ばれて、Aさんは病院に運ばれていった。結局、中三の夏休みくらいまで、Aさんは精神病院で過ごすことになったんだって。


 でさ、桜の木なんだけどまだその中学にあるらしいよ。今はもう、「中庭にある桜の木に近づいてはいけない」なんていう言い伝えは廃れちゃったから、今日も誰かが肉塊を見ているかもしれないよね。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?