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ネズミの話⑪

 ゴキン! と歯と顎に衝撃を感じて我に返る。


 骨をかみ砕いたらしい。投げ捨てた。足元を見る。私は赤い水たまりの中にいた。誰かが倒れている。長い髪に指がふれた。彼女の髪だ。




「あ、れ…?」

 私は彼女と、食事を、彼女が。べったりと、手に血が貼り付いている。ほとんど肉を失った彼女の体に触れる。暖かい。彼女の美しい顔だけは、そのまま綺麗に原形をとどめいていた。


「おい……!」

 呼びかける。そうしても答えなど帰ってくるはずはないのに。恐怖の表情が刻まれたドールヘッドを付けた骨格標本のようになってしまった彼女を抱きしめる。そういえば、私はまだ、彼女の名前を知らない。




 真紅の海で呆然と座り込む。私の腕の中から暖かさが失われていく。あとには鉄のにおいと、冷たさだけが残った。


 満腹による眠気に襲われながら、思う。彼女の帰らない部屋で、今日もハムスターは回し車を回し続けるのだろうか。

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