おなかが空いて目が覚めた。今は何時だろうか。この部屋に時計も窓もないので時刻は分からない。
腹を空かせながら、自分につながったチューブを眺める。中身はカラッポだ。透明なチューブに赤い色が染みついている。もし、私の体が自由なら中を引き裂いてぺろぺろと舐めたかった。
いや、ちがう。病室の外に出る。それでコンビニにでも行ってお弁当を買って食べよう。ダメだ。お金を持っていない。厨房に行って、病院食のつまみ食いでもしようか。そうだ、医者に病院食を出してもらえるように頼もう。
それにしても、おなかが空いたなぁ。ああ、おなかが空いた。彼女はまだ来ない。
彼女のハムスターのことを考える。回し車をくるくると回して、それを笑顔で彼女は眺める。しばらくすると、彼女は檻の戸を開け、部屋を好きなようにとことこ歩いてクッションなどを齧ったりする。彼女の手のひらに乗っかって、両手でヒマワリの種を食べる。彼女に、頭を撫でられる。
いいなぁ。いいなぁ。いや、だめだ。人間がペットを羨ましがっては。私はここから出るんだ、病気を治して。おなかが空いた。彼女はまだかな。
コツコツ。来た。彼女の靴音だ。こちらへと近づいて来る。音が少しづつ大きくなる。ニ分ほど待っただろうか。
「おはよう、ツクモ」
彼女が来た。おはよう、おはよう。待ってたよ。
いつものように花瓶の花を捨てる。そういえば、彼女は毎日花を新しくするが、そこまでする必要はあるのだろうか。とふと思った。まぁいい。花は食えないのだからあまり興味はない。新しい花が、花瓶に生けられた。
「今日の花は、ツバキよ」
鮮やかな赤い花が生けられた。綺麗だ、結構好きかもしれない。
彼女はこちらを振り返ると、笑みを浮かべて
「おめでとう。明日退院できることに決まったわ」
ああ! 歓喜で涙が出た。長かった。ようやく拘束生活とおさらばだ。
彼女はチューブを取り出すと、私の腹に接続した。
やがて空腹感がだんだんとなくなって、満たされていく。
「また明日」
彼女が病室を出て行った。ああ、また明日。明日、明日、拘束が解かれたら、彼女と話がしたい。ずっと、ずっと、話がしたかった。