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ネズミの話③

 コツコツと靴音が近づいて来る音で起きた。十数秒ほどたつと扉が開いた。


「おはよう、ツクモ」

 ナース服を着た女性が、今日も静かな笑顔で微笑んだ。


「今日のお花はガーベラよ」

 私の目の前に、色とりどりの綺麗な花の塊が差し出される。うん。綺麗だね、と心の中で答えた。


 彼女は私の目を見て微笑むと、花を花瓶に差し替えた。

「ガーベラの花言葉は、希望、前進だそうですよ」

 チューブを取り出しながらそう言った。


「あなたの病気が、早く良くなって退院できますように」

 チューブの中身――赤いどろどろとした流動食のようなものが、部屋の照明に照らされて白く光った。


 彼女は、私は、病気なのだという。私には記憶がなかった。知っていることと言えば、名前はツクモ(彼女曰く)、全身を拘束され、腹から赤い流動食のようなものを流し込まれている、ということだけだ。


 早く病気が治って、彼女と会話がしてみたい。

「明日もまた来ますね。また明日」


 彼女は微笑むと、部屋から出て行った。



 ゆっくりと、空腹感が、満たされていく。



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