朝。目が覚めてしばらく真っ白な部屋――小さな机がぽつんと置かれており、その上には花瓶に花が生けてある、を眺めているとコツコツと靴音が近づいて来る音がした。私は期待に胸を膨らませながら、靴の主の到着を待った。数十秒後、扉が開いた。
「おはよう、ツクモ」
ナース服を着た女性が静かな笑顔で微笑んだ。口をふさがれているため挨拶を返すことはできないが、私は精一杯の笑顔で答えた。
「最近はすっかり暖かくなってきて、もう春って感じね」
彼女は机の上にある花瓶から花を取り出すと、持参したごみ袋に捨てた。
「今日は私、少し早めに起きてしまったので、近所の公園を散歩したの。」
手慣れて手つきで花瓶の水を替えた。
「朝の公園って、初めて行ったけどとても気持ちがいいのね。鳥たちが歌っているのを聞いたわ。あなたも一緒に行けたらいいのに」
そう言って少し目を伏せて、すぐに花瓶に新しい花を挿した。
そして、それが終わるとすぐに、私のほうへと歩いてきた。食事の時間だ。
彼女はチューブを取り出した。中には、赤いどろどろとした流動食のようなものが入っている。それを見えないが、おそらく私の腹に接続した。
やがて空腹感がだんだんとなくなって、満たされていく。
彼女のほうに目をやると、平らな板に何かを書き込んでいた。しばらくすると彼女は
「また明日」
と微笑んで、出て行った。ああ、また明日。
その日、私は彼女と一緒に公園に行く妄想をした。朝の日差しを浴びて、私と彼女は手をつなぎ踊った。鳥たちがさえずり、あたり一面には花が咲いていた。