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第39話『討伐報告と祝福とお別れと』

「――えぇ!?」


 階層ボスを討伐後、まずはやらなかればならないことをするために探索者組合へ報告のために訪れている。

 そこまではなんの変哲もない話なんだが、受付嬢が急に声を大きくするものだから周囲の目線を集めてしまった。


「まだ初心者なのに、階層ボスを討伐しちゃったんですか!?」


 普通、この流れだったら「あ、すみません。声が大きくなってしまいました」とかそういう感じになると思うんですけど……どうして、拡声器を使用しているぐらい声が大きいままなんですか?

 当然、そんなことになれば辺りから注がれる視線の数は増え、ざわつき始める。


「ちょ、ちょーっとだけ声量を抑えることはできないですか?」

「で、でも! これは凄いことなんですよ!?」


 右に左に体をねじって辺りを見渡してみると、取り囲むように人だかりができてしまっていた。

 穴があったら入りたい気分だけど、背中に刺さり続ける視線を感じながら話を続けるしかない。


「あの、それで報告の後は何をしたらいいのでしょうか」

「これ以上は特にありませんが、張り紙を作らせてください!」

「それって拒否権とかってありますか」

「ありますけど、ないです! だって、歴史的にみても希少なことなんですよ!」

「わかりました、わかりましたから! 少し深呼吸して声の音量を抑えてもらえませんか」

「わかりました。あれ? そういえば、そちらの方はどこかで見たことがあ――」

「あ! わかりました! ぜひとも、そのポスター作成に協力させてください」

「え、いいんですか! ありがとうございます!」


 この受付嬢と場の雰囲気に押し流されていて忘れていたけど、夏陽かやさんの存在を広めてしまってはいけない気がする。

 いやでも、夏陽さんは普通に堂々としているから取り越し苦労だったのか……?


 配信を視聴している人たちは、明らかな反応を示していなかったから心配していなかったけど、探索者相手では違うよね。

 違う……よね?


「あ、そうでしたね。えーっと、討伐情報の参照は終わりましたし、ボス討伐の特別報酬も振り込ませていただきました。ポスター作成の協力許可もいただきましたので、以上になります」

「わかりました。それでは失礼します」


 俺たちは一礼し、振り返る。

 しかし、先ほど見たその光景は圧力が凄く、こんな大勢の人に注目されることなんて初めてだ。

 でも、いち早くこの状況から抜け出したい。


 チラッと3人を見ると、そこまで気にしてない素振りで歩き出している。

 まさか、状況を理解していないわけでもないだろうし……いや、この場で慣れていないのが俺だけなんだ。

 ならその影に隠れさせてもらえるチャンスを活かすため、できるだけ頭を下げた状態でピッタリと後を追うことにした。


「――いや~、シンくんもこれで有名人の仲間入りってわけだ」

「や、やめてくださいよ。ポスターの件、本当は断りたかったんです」

「でも、私を気遣って許可してしまった」

「それを堂々と言うということは――」

「うん。私は別に気にしてないよ~」

「くーっ」


 この込み上げてくる悔しさを今すぐに発散したい。


「じゃあ、まあとりあえず私はここまでかな」

「もう行っちゃうんですね」

「まあね~。そろそろ時間だし、遅刻するとみんなから怒られちゃうから」

「……夏陽かやさん、短い期間でしたけどいろいろとありがとうございました。俺、成長を実感することができています」

「そうだね。私から観ても、ハルナとマキから観ても、誰から観てもそう映ってるよ」

「本当にありがとうございました」

「うんうん。これからも、私の1番弟子として精進しためよ~」

「え」

「何を不思議そうな顔をしているの。月日の長さが師弟関係に必要なものじゃないでしょ? それに、スキルのヒントもリーダーや私から得てたでしょ」

「……やっぱり、バレちゃいましたか」

「そりゃあね」


 自分の結界を活かし、義道ぎどうさんのスキルを観て身にまとうイメージを貰い、夏陽かやさんからは自動で動く感じをイメージを貰っていた。

 どれをとってもまだまだ俺の実力不足は否めないけど、これからちゃんと使いこなしてみせる。


 そして何より、尊敬している人に認められたのが素直に嬉しい。


「夏陽さん、私たちにも指導していただきありがとうございました!」

「本当にありがとうございました。そして、最初は疑ったり反抗的なことを言ってすみませんでした」

「いいのいいの。普通、『仲間を犠牲に情報を得ろ』なんて言われたら怒って当たり前だし、2人はよく呑み込んで耐えてくれたと思うよ」

「正直ああいうのは、2度とやりたくないですね」

「私、あんなに歯を食いしばったのは人生で初めてだった」

「うんうん、それが正常だよ」

「でも、シンくんの隣に立てるヒントをいただけて本当に助かりました」

「これで、やっと背中を観ているだけじゃなくなります」


 ここで俺は、素直に感謝の言葉を伝えたらいいんだろうけど。

 でも、そこまで考えてくれていることに感謝の言葉より気持ちが大きくなってしまい、涙が溢れそうになるのを止めるため必死になっている。


 間違いなく、今何かを喋ったら声が震えて情けない感じになってしまう。


 そして夏陽さん、俺をチラッと見て「よかったね」って目で訴えるのやめてくださいよ。

 もうこっちはいろいろと限界に近いんですから。


「探索者ライフはまだまだこれからだし、私たちに追いつくって言うんだったらもっと険しい道を通ってくることになる。絶対に、生きてまた会おうね」

「はいっ!」

「はいっ」

「はい!」

「そっれじゃあ~、バイバーイ」


 その、いつも何かの節目に気が抜ける感じになるの、なんなんですか。

 おかげ様で、クスッと笑って涙が引っ込んじゃいましたよ。


「私たちも、祝勝会に向かおっか」

「今回はどこにする?」

「ん~、わからないから歩きながらでも考えよー!」

「たまには予定なしに歩き出すのもいいかもね」

「うんうんっ」

「俺からの注文があるとすれば、できるだけ大食いをしないってので」

「え? せっかくのお祝いなのにそれはなしー」

「まあ、俺が食べなかったらいいだけか」


 ん、これってもしかしてフラグってやつ? まさかな。


「それじゃあ行きましょー」

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