目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第35話『無理難題でも大胆に!』

「やっ!」

「はっ!」

「お、おぉ――」


 本当に3日間のブランクがあるとは思えない動きと連携力を見せる、春菜はるな真紀まき


[おおおおおおおおお]

[わーお!]

[工エエェェ(´д`)ェェエエ工]

[ふぁっ!?]


 戦闘中だというのに、ついコメント欄を見てしまうぐらい驚愕している。

 いや、自分だけが『驚いているんじゃないか』と疑ってしまい、感情を共有してくれる人をつい探してしまったのかもしれない。


「次、右から来るよ」

「シンくん!」

「俺だって!」


 俺だってスキルだけじゃなく、ちゃんと成長しているところを見せるんだ。

 剣だけでも戦える!


「はぁっ!」


 もう俺は、数日前の俺じゃない。

 臆することなく前に出ることができるんだ!


「おーおーおー、いいねいいね~」


 付近のモンスターを一掃した俺たちを出迎えてくれるように、夏陽かやさんは盛大な拍手をしてくれている。


「ハルナちゃんとマキちゃん、凄い凄い。呑み込みが早いっていうか大胆っていうか――まあ、自分たちが一番わかってると思うけど」

「正直、教えてもらったこと全てをできてるとは思っていません。でも、いつまでもこのままじゃダメだって思ってるので」

「私もハルナと同じです。そして、シンくんとの差を感じて少し焦ってます」

「それぞれの事情があるんだろうけど、さ。シンくんに限っては、成長しているってのもあるけど……ちょーっとばかりバフが掛かっている状態でもあるからね」


 春菜はるな真紀まきは首を傾げているけど、夏陽かやさんが言っていることは自分がよくわかっている。


 もはや無限に湧き上がってくるやる気は、恐怖心こそ忘れることはないけど、根拠のない自信は『敗北』の2文字を頭の中から排除してくれていた。


「この感じだと、まあ普通にこの第7階層は敵なしって感じだね。しかーし」


 ベタ褒めの夏陽さんだったけど、急に腕を組みだした。


「立ち回りや身のこなしが上手になっても、気持ちが先行して力加減が疎かになってる。武器、見てみて」


 言われた通りに自分の武器へ視線を落とす。


「戦闘中に大きく悪影響を及ぼすというほどではないけど、これから階層ボスと戦闘するには懸念材料をなくすことが鉄則。本当だったらここで街に撤退して準備を整えるところだけど」


 夏陽さんは俺へ目線を向け、無言で語りかける――「シンくんの出番だ」と。


「完全に修復することは、たぶん材料や道具が足りないから無理だろう」

「でも、簡易的に研ぐことはできます」

「ふふん。うちにもね、頼りになる鍛冶師が居るからすっごく助かるんだよね」

「……俺はそこまでじゃないですけどね」


 若干、皮肉めいた返しになってしまったけど内心では嬉しすぎる。

 義道ぎどうさんのような、伝説の鍛冶師と紛いなりにも同じことができるという喜びは、本当に計り知れない。


「全部で3本。簡易的なんで、1本あたり……10分はください」

「案外早いんだね。まあ、そんなぐらいだった気がするけど」

「たぶん、その人とはいろいろと違いますよ。俺がこれからやろうとしているのは、便利グッズ的な砥石といしを使う感じなので」

「ほほう? でも、それを扱うには技術が必要ってことでしょ?」

「まあ、それはそうですね。この小槌こづちもちょっとした便利グッズで、頭の部分をクイッと回すと――こんな感じに釘が出てきて、地面に刺せるんです」

「ほえー!」

「そうすると、若干ではありますけど底面が土台になるんです。これだけではありますが、剣や刀だと研ぐことができます」


 文明の利器とは言い難いものではあるけど、でも俺たち鍛冶師にとっては伝家の宝刀とも言える存在だ。

 そして、この2つを発明してのは義道さん。

 憧れの人が創り出したものを持つ喜びとお守り的な意味合いがあるからこそ、肌身離さず携帯している。


「それでは、始めます――」


 簡易的なものだけど、生温い気持ちでやるわけじゃない。

 武器は、ダンジョンの中で自分自身を護る手段。


 使用者が安全に戦闘するために欠かせないものだけど、それ以前に生きて帰ってくるためには必需品なんだ。

 鍛冶師がここで手を抜いたら、命が途絶えてしまうと道理。


 集中しろ――集中しろ――。



 ――終わった。


「終わりました」

「お疲れ様~。モンスターの襲撃もなかったよー。それにしても、本当に鍛冶師って人たちの集中力って凄いよね。たぶん、私たちの話声とかって耳に届いてないでしょ?」

「何か話しているな、程度では聞こえていましたよ」

「まあでも、凄いのは変わりないね」

「シンくん、ありがとう」

「シン、ありがとう」

「気にしないで、これは俺の役割だから」

「私たち、あんまり激しい戦闘とかしてなかったから街の鍛冶師にお願いしてたけど、ダンジョン内で武器の手入れができるって本当に便利だね」

「本当にそう。ありがたい以外の言葉がみつからない」


 こんな素直に言葉を向けられたのは、いつぶりだろう。

 前のパーティのみんなも、最初は興味津々に観てくれていたり、感謝の言葉を貰ってたっけな。


「さあ、じゃあここからの予定を発表します。このまま勢いに任せて階層ボスがいるところまで走り抜けます。当然、先導は私がするね」

「なんだかどこかでやったような作戦で、驚かない自分が怖いです」

「あ、あはは……」

「私も同じ」

「そしたら、いよいよ本番」

「え、さすがに勢いそのままって無理難題すぎません?」

「まあー、こればかりは私のタイムリミット的な話になっちゃうから、そこだけは許してほしいな」

「あー……わかりました。やるしかないってことですね」

「急かすような真似をしちゃってごめんね」

「大丈夫です。悠長に心の準備をしている方が、時間の無駄って意味でもありますから」

「うひゃ~、シンくんが今一番勢いあるね」

「そんなことはないですよ」

「まあ、とりあえずそんな感じで。それじゃあレッツらゴー!」

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?