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第34話『無茶苦茶でも確実に!』

「さて、じゃあここら辺でお披露目といこう」

「――わかりました」

「え?」

「何が?」

「2人は、ここいらで休憩ってことで。ちょっとだけシンくんの戦い方を観ていてよ」


 第7階層まで到達した俺たち。


 夏陽かやさんが、春菜はるな真紀まきの指導をしつつ進行していたから、俺がスキルを使用する場面は全くなかった。

 それはそれで残念だったけど、夏陽さんと修行した成果が出ているのか、疲弊しない体の使い方や戦闘中の立ち回り方が格段とよくなっている。


 しかし驚くのはそれだけではない。

 さったの数十分だけしか指導を受けていない春菜と真紀は、かなり呑み込みが早くて、俺なんかより格段と動きがよくなっている。

 俺は3日間やって、やっと少しだけよくなっただけだっていうのに……。


「でも大丈夫なんですか? 私たち、第7階層ではほとんど戦闘経験がないんですよ」

「あの……【トガルガ】との戦闘で、もはや記憶も曖昧だし」

「大丈夫大丈夫。ね、シンくん」

「そういえば、そろそろ視聴者? も集まってきた頃合いじゃない?」

「あ、そういえば確認してませんでした」


 配信を開始していたものの、3日間も空けているとコメントとかの存在をすっかり忘れてしまっていた。


[おいおい、それはないぜー]

[やっぱりコメントの存在を忘れてたんだな]

[寂しいぜ!]

[おーい、シンくん見ってる~?]


 おおっと。

 夏陽さんから教えてもらっていなかったら、このままずっと視聴者のコメントを無視し続けていたかもしれない。


「えーっと……ごめんなさい。配信が不慣れで、皆さんに不快な思いをさせていしました」


 ここは見栄を張る場面じゃない。

 素直に謝らないと。


[全然問題なし]

[戦いに集中してくれていた方が全然OK]

[動きがよくなってるからビックリしただよ!]

[そんなことより、綺麗なお姉さんが気になるンゴ]


 あー……完全に不注意だった。

 これは、どうやって説明したらいいんだ……?


「皆さんどうも~。私は、もうちょっとしたら居なくなっちゃうけど、シンくんのお師匠さんでーすっ」


 本当、夏陽さんってサラッといろいろと言っちゃうし、大胆っていうか、でもそうやってキッパリ伝えた方がたぶん正解だんだろうな。


[うっっっっわ、ずっっっっる]

[お姉さん! カメラ目線ください!]

[うっひょおおおおおおおおおお]

[好きです!]


 俺も、いまいち配信がどう映っているかわからないけど、夏陽さんはもっとわかっていない。

 だから、挨拶はしてくれているけどカメラ目線にはなっていない……と思う。


「ねえねえシンくん、どんなコメントが来てるの?」

「あーいや、まあ……やることをやりましょ」

「えー、配信とかよくわからないけど、ちょっと気になる~」

「いいんですってば!」


 だって……。


[お姉さんこっち観てー!]

[うほおおおおおおおおお]

[気になっちゃう? 気になっちゃいます?]

[みんな紳士だよ~真摯に対応するよ~]


 てな感じのコメントであふれ返ってるんだから。


「お、さっそくいい感じに来たよ」

「大丈夫そう?」

「――いけます」


 俺には、自身はないけど確かに感じるものがある。

 義道ぎどうさんから期待を寄せられ、夏陽かやさんから背中を押してもらった。


 それだけじゃない。

 俺を信用してくれて一緒に歩いてくれる、春菜と真紀のためにも確実な1歩を踏み出さなくちゃいけないんだ。


[本当に大丈夫なの?]

[動きがよくなっても、3体同時はきついんじゃ?]

[あいつらって、そう簡単に倒せるモンスターじゃないよね]

[手汗ヤバすぎ]


 こちらに少しずつ進んできているのは【ウォンフ】。

 正直、いい思いではないあいつらと戦うのは難関だと思う……が、それは数日前の俺だったらの話。


 今の俺なら――。


閃界せんかいのワークショップ」

「!!??」

「!?!?」


 ――いける。


[な、なんだそれ!?]

[えぇええええええええええ]

[なんだってええええええええええ]

[あおうぃだおいはおふぃは]


 精神面で良好。

 なら、もはや何も問題じゃない。


 左右に視線を動かすと、スキル発動を証明する“トランプのダイヤみたいな光の破片”が複数個、俺を中心に宙を浮いている。

 であれば、次に空中から両手で光の剣を2本取り出す。


「な、何それシンくん!?」

「シン、どういうこと」

「あはは~、少しだけ予想はしてたけどシンくんにとっては劇薬だったわけか」

「カヤさん、どういうことですか」

「さすがに説明してもらわないと納得できないです」

「それはそれでいいけど、後でかな。配信中ってのもあるし、それよりも観ていた方がわかると思うよ。大事なのは、シンくんの心を乱したり集中力を切らさないこと」


 俺なら大丈夫。

 俺ならできる。

 俺ならやれる。


『ガアァ!』

『ンガア!』

『ガァア!』


 問題ない。


「!?」

「え」

「この距離で観ていると、あれ凄いねぇ。私みたいだけど、私キラーみたい」


 大きさ的には【ウォンフ】よりギリギリ小さくても、綺麗に防御してくれている。

 勢いそのままの【ウォンフ】たちは、弾き返ったりそのまま地面に落ちていく。


 当然のように、自動で。


「もしかしたら、今だったら――はっ!」


 1体だけ起き上がれていなかったウォンフへ攻撃。

 すると。


「――なるほど」

「あっはは~、仮説通りってことかな。ヤバーい」


 夏陽かやさんが説明してくれていた精神面がスキルに影響を及ぼすという情報。

 そして、そこから立てた『精神が安定していたら武器は1撃では壊れない』という仮説。

 まだ確定するには早いけど、少しだけでも立証できた気がする。


 これなら、次は左で。


『ンガア!』

『グルッ!』

『――ッ』


 結界が防御する前に剣で突く――結果、討伐と同時に光剣は砕け散ってしまった。


「……まだわからないな。でも、使用者の実力不足からくるものだったら理解できる。ラスト1体」

『ガァア!』

「はぁあ!」

『ッ――』

「よしっ!」


 右の光剣も、討伐と同時に砕け散ってしまう。

 だけど、俺はこの戦いに勝利したんだ、間違いなく。


[うぉおおおおおおおおおお]

[おおおおおおおおおお!]

[ふぉおおおおおおおおおお]

[かっけええええええええええ]


 決して綺麗な戦い方ではなかったと思う。

 俺自身は冷静に戦えていたけど、誰かから見たら無茶苦茶な戦い方だったかもしれない。

 だけど、俺は俺にできる確実な戦い方をした。


「凄い、凄い!」

「本当に凄かった」

「すっごーいっ!」

「連携しないと倒せなかったのに、たった1人で倒しちゃうなんて」

「これもカヤさんが指導してくれたからだよ」

「まあ、それはそれであるかもだけど。ちょーっと効きすぎだよねぇ~」

「何がですか?」

「あー、気にしないで。こっちの話」


 俺は、探索者になって初めて自信が湧き上がってきている。

 なんだろう、この気持ち。

 今だったら、なんでもやれるような気がして仕方がない。


「試行錯誤しながらでも戦える余裕っぷり、観ていて気持ちがよかったよ」

「ありがとうございます。でも、カヤさんの仮説通りかもしれません」

「うん、そうかもね。そして今のシンくんだったら、もはや無敵状態かもね」

「いやいや、そこまでじゃないですよ」

「たぶん、間違いな――まあ、褒めすぎてもよくないか。じゃあ3人とも、ここからだよ」


 そうだ、ここ先が俺たちの冒険であり――未到達領域への挑戦。


「ハルナ、マキ。シンくんに置いて行かれないように、ちゃんと隣に立ってあげるんだよ」

「はい!」

「わかってます」

「それじゃあ、レッツらゴーっ!」


 心に余裕が出てきたからなのか、思うことがある。

 夏陽さんのその掛け声、よーく聞くとかなり緊張感がないですよね。

 というか、表情はニッコニコだから間違いなくこの状況を楽しんでますよね?


 でもありがとうございます。

 それのおかげで、逆に気合が入りました!

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