「こんなときに、鍛冶師の知識が活かせるとは思ってもみませんでした」
「私が想像するに、斧とか槍ぐらいしか出てこないなぁ~」
「じゃあまずはそれから」
光る空間から、斧を想像しながら武器を取り出してみる。
「おぉ~、本当にそうなっちゃうんだ。すご」
「重さを感じないっていうのは変わらないみたいです」
「なかなか無茶するね~」
「まあ、検証ですから」
俺が想像したのは、両手で持つほどの大斧。
普通の武器として持つのであれば、間違いなく筋力が足りないけど――この、光武器なら軽く片手で持てるようだ。
でも、しっかりと掴んでいる感覚があるのだから不思議でしかない。
「今回は試せそうにないだけど、次は何本まで武器を出せるか確かめてみたいよね。出し過ぎたら疲れちゃうとか、短剣とかだったら何本も出せた……り」
「ん? どうかしましたか?」
「武器って、どうやって形状変化させたの?」
「頭の中で、こういう感じって想像してみました」
「だとすれば、想像できるなら別の武器も取り出せるってことだよね?」
「ええ、そういうことになりますね」
「じゃあさ、弓って取り出せたりする? 斧、私が持っておくから」
「ほほ~、譲渡しても重量とか関係ないんだね」
「みたいですね」
興味津々に眺めたりブンブン振り回している夏陽さんから少しだけ離れる。
「……これでどうでしょう」
「わーお。じゃあ矢は? 引くだけで出るのかな? それとも、1本1本取り出すのかな?」
「あー――引くだけだとダメみたいです」
「ほうほう、というか弦となる場所が伸縮する様に動くのも新しい発見だね」
「たしかに本当ですね。じゃあ矢を――」
「え、え。もしかしてのもしかして?」
「こんな感じで――っと」
「わー! もはやなんでもありじゃん」
夏陽さんと同じく、俺も驚いている。
飛び道具を取り出せたというのもあるけど、光矢が輝きを放ったまま真っ直ぐ飛んで行き、壁にぶつかってパラパラと粉々になった。
「……うっそ」
「え?」
「いやいや、手よ手。見てみて、手」
何を言われているのかわからないまま、言われるがままに下ろしている両手へ視線を移す。
と。
「わーお」
「そのセリフは私のものだけど……なにそれ」
まさかのまさか。
今の今まで、光の空間から取り出した武器はたった1撃で儚くも粉々に砕け散ってしまっていた。
だというのに、今――俺の左手には光弓が消滅することなく握られている。
「こりゃあ私こそ、とんでもなく貴重な時間を過ごせているのかもしれないね」
「……」
「というか、とんでもない逸材を見つけちゃった……かな」
「凄いです、凄いですよ! 夏陽さん!」
「うんうん。そのスキル、1撃でモンスターを討伐できるっていう話だからね。遠距離で攻撃を仕掛けられるんだったら、それはもうとんでもない話だよ」
「これで……これで、俺はちゃんと役に立てるんです!」
「ドードードー、落ち着いて~」
夏陽さん、ごめんなさい。
こんな嬉しいことがあって、喜びを落ち着かせることなんてできません、できませんよ!
「やった! やった!」
「私、とんでもないことをしちゃったのかも」
「夏陽さん! 本当にありがとうございます!」
「お~お~お~。まあ、嬉しいよね」
「はい! 嬉しいです!」
光弓を投げ捨て、光斧も殴って壊し、夏陽さんの両手を握って上下にブンブンと大袈裟に動かす。
こんなにしても、まだまだ喜びを表し切れていない。
あまりにも子供すぎる、と誰に言われようとも関係ないんだ。
今この瞬間、初めて自分の存在価値を自分で認められたんだから。
「――そろそろ落ち着いたかな」
「その節はご迷惑をおかけいたしました」
「つい数分前の話だけどね」
どれぐらいの時間を喜びを表現するために使ったのかわからない。
だけど、
そう、だから俺は今、とてつもなく体に熱を帯び、首から上全てを真っ赤に染めている。
「それにしても、そのスキルってあまりにも汎用性が高いね。威力が不明確っていうのと、反動とかデメリットについてはまだまだ検証とかが必要だろうけど」
「そうですね。無尽蔵に使えるものかわかりませんし、乱用はできるだけ避けようとは思います」
「まあでも、ガンガン使って自分の限界を知っておくってのはいいことだから、いつかは絶対やっておいた方がいいよ。もしものときにガス欠みたいになったら、それこそ死んじゃうかもしれないんだから」
「肝に銘じておきます」
「素直でよろしいっ」
でもそうだ、スキルが有能だからといって使いすぎるのはよくない。
そもそもの戦闘力は低いわけだし、そこが変わらなかったらスキルを有効活用はしきることはできないだろう。
せっかく役に立てるスキルを持っていたところで、足を引っ張る要因になってしまうかもだからね。
「ここからはこの剣だけで戦ってみます」
「いいね。うんうん、そうだね。スキルばかりに頼らず戦えたら、消耗を抑えることに繋がるかもだからね」
「ご指導よろしくお願いします」
「よし、行こう! ……と、言いたいところなんだけど」
「どうかしましたか?」
「そろそろ終了のお時間、かな」
「え」
時刻11時40分。
「あ……ごめんなさい。自分でお願いしておきながら、時間配分が下手くそすぎました」
「いいのいいの。まだ明日もあるわけだし」
「それで、お聞きしてよければこれからの予定を窺ってもよろしいでしょうか?」
「えーっとね、リーダーを別の場所に呼んでおいたの」
「おぉ~。でしたら、これからそちらに夏陽さんが赴くための買い物をするということですか?」
「いやいや、何を言ってるの? 最初に伝えたでしょ、一緒に来てほしいって」
「ええ、問題ないですよ。でもごめんなさい、俺って誰かにプレゼントをしたことがあまりなくて自信はないです」
「シンくんって鈍感頭?」
「え? まあ、胸を張って柔軟とは言えませんが」
「違う違う。私と、シンくん。2人で、リーダーが待っている場所に行くって、こと」
「――……へ?」
「逆に、え?」
どういうこと?
「だ・か・ら。シンくんは、今からリーダーと顔を合わせて話をするってこと。わかった? それとも、今まで記憶が飛んじゃった?」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。そんなことってあるんですか?」
「普通にあるでしょ。ありえるでしょ。だって私、【
「い、いえ。全然」
「だよね。じゃあ理解した?」
「……わ、わかりました」
い、今から、憧れでもあり目標でもある
こ、これ……夢じゃないですよね……?