圧倒的実力差を不意にみせられ、気分が沈む。
いや、違うか。
そんなの、最初から視界に入っていたじゃないか。
最初は嬉しかった、ただその一心で憧れの眼差しを向けていた。
一緒に行動しているのに、凄い人だからできて当たり前なんだって。
「じゃあ壁際で待っててね~。ちょっとだけ体を動かして来るから。ついでに小銭稼ぎってことで」
「わかりました」
「れっつらごー」
スキルを手に入れて、
だから、この感情をどこかに追いやって薄れていたんだ。
そもそもの話、俺はどうして今の状況になっているかを。
「……」
自分の力が不足しているから、みんなの役に立つことができなかったからパーティを追い出されたんだろ。
それが、ちょっと嬉しいことがあったから、できなかったことができるようになったからといって事実が消えるわけじゃない。
このまま勘違いが続いてしまっていたら、また同じことを繰り返してしまうんじゃないか、いや、間違いなく力に溺れて同じ末路を迎える。
もしかしたら、
だが、もしもそうじゃないかったら? もしも、見放されてしまったら? もしも、一緒に居てくれるせいで2人に迷惑をかけ続けてしまう事になるとしたら? もしも、俺に向けられたような眼差しを同じように誰かから向けられてしまったら?
どう考えたって、全てが俺のせいで、全て俺が足を引っ張っている。
「我ながらに、かなり卑屈なことを考えているよな」
俺がこんな気落ちしていても、
普段はもっと下層で戦闘をしているのだから、こんな雑魚モンスターを相手じゃ肩慣らし程度にもならないんだろう。
現に、こうして一緒に行動している最中、たったの1秒たりとも意気が上がっている姿を見ていない。
そう、常に余裕。
最初からそれらの事実に気が付いていながら、ずっと目を背けていただけだ。
「――ねえねえシンくーん」
「え、はい」
今さっきまでモンスターと対峙していたのに、ほんの少しだけ目線を外しただけなのに、夏陽さんがいつの間にか戻ってきていた。
「残り2個試す前に、ちょっと試してもらいたいものがあるんだけど」
「俺にできることならやってみます」
「違うの、シンくんのスキルで」
「え?」
「えっと、今さっきモンスターを横並びで一気に討伐したんだけど。さっきの光剣だと2体並んでたら……というより、2本ぐらいのものが並んでいたら1本だけしか壊せないのかなって」
「……なるほど?」
「普通の剣だったら、攻撃を防げるわけじゃない? でも、シンくんの光剣はいわば攻撃特化。結界がなくなっちゃうと攻撃を防ぐ手段が回避ぐらいになっちゃうでしょ?」
「たしかにそうですね」
言われてみたら、単純なことだけど意識をしたことがなかった。
今までモンスターが1撃で討伐できていたからよかったものの、複数体を相手したり、そもそも1撃で討伐できなかった場合を考慮していなかった……危機管理が甘いというか、詰めが甘いというか、自分の未熟さをつくづく実感させられる。
「そして、その逆もやってみたいんだよね」
「と言いますと?」
「光剣で攻撃を防いだことはある?」
「……まだですね」
「だとしたら、それも気にならない? 弾くのか、衝撃を分散させるのか、はたまた武器を破壊しちゃうのか」
「それだったら、一応試してみたことはあります。ダンジョンの壁にですけど」
「そうそう、そのときはどうなったの?」
「壁を傷つけることすらできずに粉々に砕け散りました」
「ほうほうほう。でもそれだと、自分から攻撃をしたって判定だと思うから、防ぐ方はやってないってことになるのかな」
「その話でいくと、まだになります」
「あ、あと――」
「どうかしましたか?」
「いやごめん、今のは忘れて。私が説明するより、もっとわかりやすいと思うから」
今の今まで前のめりに話に食らいついてきたり、話の主導権を握って楽しそうに話をしていたというのに、どうしたんだろう。
明らかに何かを発言しようとしていたはずなのに。
……でも、なんていうか落ち込んだ気分が徐々に晴れ始めているような感じがする。
俺のスキルについていろいろと試しているのに、俺より楽しそうにしている
都合のいい話だっていうのはわかっているけど、せっかくの機会をいただいているんだ、俺も前のめりでやっていかないと。
「
「結界はそのままにしておいて、剣をよろしくっ」
「はいっ」
俺は空中にできた光の空間から剣を2本取り出し、垂直に構える。
「試すのは2パターン、かな。今から私の剣で攻撃を仕掛けるのと、光剣を3本使って攻撃と防御の両方試してみよう」
「わかりました、よろしくお願いします!」
「それじゃあ、いっくよーっ」
うわ、またこれだ。
ビビらず、腰を引かず、剣をしっかりと垂直のまま構え――。
「――わお」
「ほほ~」
結果、左手の剣は砕け散っただけに終わった。
「これは、どういう結果になったんですかね」
「実は私、2本とも折る勢いで剣を振ったんだけど――完全に止まっちゃった。ここから動かせるけど、さっきは完全にこの位置で止まったね」
「弾かれもせず、威力がそのまま返ってきたというわけでもない、ということですか」
「うんうん。感覚的には受け止められた、というのが正しいかも」
「もしかしたら、結界の性質と同じなのかもしれません。衝撃を拡散や分散といった感じに」
「ほうほう。違和感があるとすれば、手首と腕が少しだけ痛いぐらいかな」
あれ、それってもしかしたら。
「もしかしたらなのですが、モンスターが結界に当たって勝手に消滅したのと関係があるのかもしれません」
「ふむふむ」
「攻撃の接点になる威力は完全に相殺するものの、そこまでの助走などは本体にダメージとして……跳ね返るって言うんですかね、反射? みたいな感じに……いや、どちらかというと慣性的なものが体に対してダメージになるみたいな」
「それ、言ってしまったら物理攻撃に対して特攻みたいな感じになっちゃうってこと?」
「どうなんでしょう、詳しくはまだ検証してみたいとなんとも言えませんけど」
「あまりにも興味深すぎる。ということは、光剣同士でぶつけ合ったとしても互いに砕けるだけってわけか」
「そうですね。こうして右の剣は残ったままということは、攻撃を2体同時に仕掛けたとしても片方しか討伐できない、といった感じでしょう」
「でも強化したら、また話は変わってくる的な?」
「要検証ですね」
こんな短時間で、あまりにも大きな成果を得られた。
間違いなく俺1人で検証をしていたら、この疑問に辿り着くまで時間がかかっていたに違いない。
――でも、それよりも、さっきまでの気持ちが嘘のように――楽しい。
「さすがに疑問点を全部検証するには時間が足りないね。まだ試したいことが残ってるんだし」
「あ、そういえばそうでしたね。午後には予定がるんでしたよね」
「うんうん。タイミングが悪かったかな~、ごめんね」
「いえいえ全然問題ないですよ。むしろ、夏陽さんと一緒に居られるってだけで俺にとっては宝物のような時間ですから」
「おぉ~、とっても嬉しいことを言ってくれるじゃないの。このこの~」
「ちょ、ちょっとやめてくださいよっ。いた、痛いですって。いや、冗談抜きで」
夏陽さんは俺の横へぴょんっと飛んできたと思ったら、肘で脇腹を小突き始めた。
こんな綺麗で憧れてしまったお姉さんが近くに来てくれたら嬉しいはずなのに、俺は真顔。
なんせ、この人は加減を知らないのかとツッコミを入れたくなるほどには小突きが痛すぎるからだ。
「よーし、残り時間も最大限に活かしていこーっ」
「お手柔らかにお願いします」