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第15話『待ち合わせ、打ち合わせ』

「本日もよろしくお願いします」

「はいはーい、こちらこそよろしくお願いしま~す」

「それで……ここで、何を?」

「あー。ほらやっぱりさ、戦闘技術を向上させるのも大事だけど、メンバーとコミュニケーションをとったり、作戦会議をしたり予定を立てるのって大事だと思うのよね」

「は、はぁ」


 俺がなんとも言えない表情で夏陽かやさんの話を聴いているのは、しっかりとした理由がある。


 時刻9時00分。


 午前中ではあるが、早い人達は既にダンジョンへと向かう姿が大ガラス窓越しに見えている。

 その人たちは、夏陽かやさんの言う通りに本日の予定を話し合ったり、軽い準備運動をしていたり。

 でもそのほとんどの人たちは、俺たちみたいにラーメン屋さんでくつろいではいない。


「夏陽さんの言いたいことは理解できるんですけど、その……それはどういう?」

「まあまあ、細かいことは気にしないの。そんなんだと女の子にモテないぞ~?」

「細かいことに関しては申し訳ないですけど、別に俺はモテるために探索者をやっているわけではないので問題ないです」

「そうなの? もったいないなあー。学生時代、バレンタインデーでチョコを貰ったりしたんじゃない?」

「それはまあ、ありますけど――って、そんなこと関係ないじゃないですか。というか、俺がさっきから気になっているんは、休憩しているわけでもラーメン屋さんにいることでもないんですよ」


 俺は、テーブルの上に並べられているラーメンとチャーハン、そんでもって6個の餃子とデザートの杏仁豆腐へあからさまに目線を落とし、そのまま夏陽さんの目を見る。


「お腹が減っては戦はできぬ、ということわざがあるでしょ? それだよ、そ・れ」

「一理ありますけども」

「細かいことは気にせず、ほらほらちゃっちゃと食べちゃおう」


 俺は朝ご飯を済ませてきているから、注文したのは半チャーハンのみ。

 注文するときに「育ち盛りなんだから、もっと注文しなさい」なんて言われたけど、これからダンジョンへ向かうんだからいろいろと無理がある。


 夏陽かやさんが「はふはふ」と言いながら食べ始めたのに合わせているけど、アサリ塩ラーメンとキムチチャーハンの匂いが波のように鼻へ押し寄せてくる。


「ほうほう――この時間帯はお店が空いていてね。ちょこっとお話をするぐらいにはちょうどいいんだよ」

「なるほど?」

「それでね、今日の予定をちょこっと打ち合わせしておこう」

「ぜひお手柔らかにお願いします」

「ほれでなんらけど……午前中からお昼ぐらいまではダンジョンで訓練したりするんだけど、午後はちょこっとだけ地上をお散歩しない?」

「俺は予定がないので、それで大丈夫ですよ」

「よーし、オッケー。そ・れ・で、シンくんからも何かありそうな感じがプンプン漂ってきているんだけど」

「え」


 俺、そんなにワクワクしているのがだだ洩れだった?

 寝るまでの時間、やりたいことリストや脳内シミュレーションをしまくっていたのがバレちゃったということ?


「そこまで驚かなくてもいいんじゃない? だって、逆に言うけどシンくんはこの貴重な機会を逃すほどお馬鹿さんじゃないでしょ?」

「……そうですね。ちなみに、ここで『何も考えていませんでした』と答えていたらどうなっていましたか?」

「うーん、それだったら午後の用事はキャンセルになってたぐらいかな。いわゆる、不合格ってやつだね」

「なるほど、それは手厳しい――いえ、当たり前ですね」

「ということで、ダンジョンで何を試してみたい? 私がやった方がいいことってある?」

「といっても、今回は試行錯誤といいますか実験的なことをやってみたいと思っていまして」

「ほうほう」

「剣での戦い方を教わりたい、というのはそのままに。スキルで使用することができる武器についてです。種類、持続性、威力、強化などです」

「ほほう、すっごく面白そうなことを考えてるんだね。結界の方は試さないの?」

「やってはみたいですけど、一気にやったら武器の方が試せなくなってしまいますし、1回の攻撃で壊れてしまうのは変わりなさそうなので」

「なるほどなるほど」


 とかなんとか、説明をしているんだけど――。


「それにしても、食べるのが速いですね」

「ごちそうさまでしたっ」

「シンくんもササッと食べちゃって。会計は私が済ませておくから、食べ終わったらそのままお店の外に出ちゃってて~」

「え、でも自分の分ぐらいは――」

「いいのいいの、ここは奢らせてほしいの。っていうか、半チャーハン250円なんだから全然気にしないで」

「……わかりました、ありがとうございます」




「ねえねえ、気になったんだけどさ。スキルで使用できる武器を強化できるって、本当なの?」


 お店からダンジョンに向かう通路を歩きながら、夏陽さんは輝かせている目を俺へ向けている。


「正確にはわかっていませんけど、できているような感じはします」

「それで【トガルガ】を討伐したってわけなんだろうけど、どれぐらいの威力なの?」

「どうなんでしょう。あのときは1撃で討伐することができました」

「わーお。じゃあじゃあ、どういう風に強化するの?」

「やり方としては、小槌で叩いて――なんと言いますか、鍛冶師が鉱石などで武器を鍛えるイメージなんですけど」

「うん、わかんない!」

「ですよねー」

「でもこれから見られるんだから、そこでわかればいいもんね」


 スキルの使用方法は自分で開拓していくしかない。

 初めてスキルを使用したや【トガルガ】との戦闘時は、恥ずかしいぐらいに無我夢中だった。

 武器を強化する、というのもパッと出たアイデアからやってみたことだし、それで本当に威力が上がっているかも検証できていない。

 もしも仮説が正しかったら、階層ボスぐらいの強敵と戦闘しないと正確なことは判明しない可能性だってある。


 ……いや、それだけは考えたくないな。

 というか、単純に怖い。


「それさ、もしもよかったらなんだけど私に攻撃をぶつける……とかっていうのはできないかな?」

「いやいや、そんなの無理ですって。絶対に危ないですよ」

「うーん、そうかなー」

「そうですって! というか、忘れているわけじゃないですよね。俺は、まだまだ初心者の領域から片足も出ていない底辺探索者なんですよ。そんな人間が扱うスキルなんて、危ない以外の認識がないと思うんですけど」

「まあ、じゃあ今回はお預けってことかな」

「今回も次回もないですって」

「でもそれって裏を返せば、防御系のスキルを持っている人かつ熟練者が相手だったら問題ないってことだよね?」

「……少なくとも、夏陽かやさんのような攻撃系のスキルを使用する人よりは」

「ふむふむ、じゃあ考えておいてね~」

「いや、何をですか」


 そう言い終えるなり、夏陽さんは内ポケットから端末を取り出して操作し始めた。


「これでよしっ、と。じゃあ、訓練のお時間です、頑張っていこーっ」

「あいたっ! ほ、本日もよろしくお願いします」


 夏陽さんは緊張感の欠片もなく、ニカッと笑い、俺の背中をバシッと叩いた。

 単純に痛いです、いえ、痛すぎますって。

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