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第14話『しかし頭と心のどこかに残るもの』

 前向きに考えていこう、なんて決意しておきながら――どうしても、頭と心に残ってしまうものはある。


「んー……」


 夜は考え事をしない方がいいって、いつからか言われているけど本当にその通りなのかもしれない。


 俺は部屋で独り、床に寝転がりながら携帯端末で検索をしてしまっている。

 そう、義道ぎどう正成まさなりさんについて。


『未到達階域を――』、『圧倒的なカリスマ性によって、天才たちをまとめ上げるリーダー――』、『探索者ランキング1位のモテ男――』などのありふれた記事が次々に出てくる。


「まあでも、こういったことぐらいしか記事として出せないんだろうから、記者の人たちの方がかわいそうなのかもしれないけど」


 当然のことだけど、義道ぎどうさんはモデルでもアイドルでもなく探索者だ。


 普段はダンジョンの中に居るわけだし、地上に戻ってきたとしても豪遊しているわけでもない……はず。

 俺だって義道さんのことを詳しく知っているわけじゃないから断言はできない。

 だけど、あの若さにしてこれほどまでに偉業を成し遂げ続けられる人間が、目的なく遊び回っているはずがない。


「目的や目標かぁー」


 幸運かつ偶然にも夏陽かやさんと出会い、同行させてもらっているけど――こんなの、もう一生分の運を使い果たしたと言っても過言じゃない。

 戦闘に集中して学ばないといけないってのはわかっているけど……正直、テンションは上がりっぱなしだし、身のこなしや戦い方に見惚れてしまっていた。


 もっと上を目指して義道さんの背中を追い続けるのなら、もっと貪欲にいかなくちゃいけないとはわかっている。

 わかってはいるんだけど……。


「義道さんたちのようなパーティを目指す、なんてあまりにも遠すぎて、もはや絶望的だよな」


 春奈はるな真紀まきも巻き込んで立てたパーティの目標。

 決意表明をして心機一転、目標実現に向けてひた走ろうと思っていたのに……1人になって、夏陽かやさんと出会って、目標がさらに遠退いてしまった気がする。


 わかってる、ただ自分の実力不足だってことぐらい。


「そうだよな。こんな時間を過ごしている暇があったら、もっとやるべきことがあるよな」


 夏陽さんの背中を思い出し、体を起き上がらせる。


「今は、自分にできることを模索していかないとね」


 時刻は20時30分。

 まだまだ時間はある。


 明日も夏陽さんと行動するんだ、今日の自分がどうだったか、明日の自分はどうするべきか、今だから試せることをやっていかないと。

 俺は1人じゃない。

 リーダーとしての役割も全うしなくちゃいけないんだ。


「よし、じゃあまずは――やっぱりスキルだよな」


 稀有なスキルというのは自分でもわかっていた……はずではあったけど、夏陽さんのスキルを使用した戦い方を見て世界が変わった。

 他人のスキルを始めて目の当たりにしたからかもしれないけど、武器の使い方や立ち回り方であそこまで柔軟に戦えるものなんだな。


 日々の鍛錬や実戦経験の賜物ということを理解しているからこそ、あれをそのまま真似することは現状では不可能。

 なら、スキルや武器をもっと有効活用した戦い方を考案した方がいいはずだ。


「1撃なら攻撃を防ぐことができる結界を張る。1撃だけ強力な攻撃をすることができる武器を取り出す」


 結界に関しては発動しながら移動はできない。

 これを有効活用するなら……いや、考えられるのは絶好のタイミングを見計らって結界を展開するぐらいだな。


 じゃあ武器の方はというと、少しだけ融通が利く。

 振り回す程度じゃ壊れないし、付け焼刃だったけど威力を強化することができる。

 どちらにしても、1撃で壊れてしまうからタイミングを見計らうしかないんだけど。


「いや待てよ、それだけじゃないな」


 確定しているわけじゃないけど、武器を取り出しているというのなら、謎の空間を武器庫と捉えることができる。

 なら、手にすることができる武器の形状を変えることができたりするんじゃないか?

 例えば、槍だったり斧だったり。

 だとすれば近接戦闘がまだ不慣れのうちなら、隙を突きやすい武器形状にできたら戦い方の幅が広がるじゃないか。


「後は、連続で取り出すことができるのか、武器の形状によって重量や威力が異なるのか、そもそも剣で精一杯なのにそれら武器を取り扱うことができるのか――って感じかな」


 ……。


「便利で有効な手段を思い付いたように思えたけど、普通に考えたら自分で自分の首を絞めるだけじゃないのか……? スキルの反動があるかもしれない、というのも考慮しなくちゃだし」


 難しい、あまりにも難しすぎる。


 というかそもそもの話、1撃でモンスターを討伐できるぐらいの威力があるのに強化ができるってどういう仕組みになっているんだ?

 スキルは所有者の得意分野を反映される、という話があるから格好だけでもよく映すためだけ――という可能性だってまだ残っている。


「……武器の威力は変わらないのに、あの場面で武器強化っぽいことだけをして春奈はるな真紀まきに無茶な時間稼ぎをさせたってこと……? それ、普通にヤバすぎるでしょ。もしもそれが本当だったら、リーダー失格どころか人間として終わってるじゃん」


 もしもそれが事実だとしたら、即刻パーティを解散した方がいい。

 そんな人間が誰かの命を預けられる立場にあってはならないだろ……。


 そうでないことを祈ろう。

 もしかしたら、現状では1撃で討伐できていただけでこれからはそうじゃなく、取り出した武器を強化しなければならないかもしれない。

 スキルは使用者の熟練度によって、そのありようが変わってくるという話だからな。


「だとしたら、あれか? 通常時は通常モンスター用で、強化時はボスとか強力なモンスター用っていう考えもできる」


 そうだ、そうじゃないか。

 浮かれているわけじゃないけど、足を、思考を止めている時間はないじゃないか。

 憧れに追いつくのは簡単なことじゃないけど、少なくとも眺めて焦がれているだけじゃ1歩たりとも近づけはしない。


 時刻21時00分。


「2時間ぐらいは余裕があるな。よし、まだまだ思考を巡らせ続けるぞ」

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