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第13話『見失うことのない高い目標』

「じゃあ、休憩ということで」


 ダンジョンから出た俺達は、お腹が減っているわけではないが休憩するためにカフェへ立ち寄っている。


 落ち着いた店内で……と考えたけど、今はどうしてか陽の光を浴びたくなってしまいテラス席を選んだ。


「人通りがなく、陽の光はバッチリと浴びられて、心地良いそよ風がふわ~っと」

「状況説明ありがとうございます。なんだか、ほんの少しだけ気力が回復したような気がします」

「ここのストロベリーフラペチーノ美味しいねぇ~。そしてこの苺が乗っているショートケーキも!」

「開放感があるからって、声が大きいですよ」

「でもでも~、こんな美味しいものを前にシンくんみたいな暗い表情はもったいないと思うんだよね~」


 今の俺は、夏陽かやさんからはそういった感じに映っているらしい。

 自分でも気分が落ち込んでいるのは理解している。


「そんなに、差を感じたの?」

「ええ、そりゃあもう。皆さんを軽視していたわけじゃないんです。だけど、見た事のない実力を想像して、どやっても埋まることのない実力差を目の当たりにしてしまっては……」

「パーセント的に言ったら、どれぐらい落ち込んでいるの?」

「90パーセントぐらいですかね」

「あっちゃ~」


 夏陽さんが言っている通り、注文して目の前に並んでいるドリンクとケーキは美味しそうだ。

 だけど、フォークを握る気力が湧いてこない。


「皆さんから比べればほんの些細なことですけど、俺達も困難を乗り越えたりしました。でも、それすらもちっぽけすぎて自信にすら繋がらないなって」

「ん~。まあたしかに、私達が成し遂げていることっていうのは誇張抜きで偉業なんだと思う。だけどさ、リーダーも言ってるんだけど『成そうとして成すのではない。皆、目の前のことにただ夢中になっているだけ』なんだよね」

「……なんだか、羨ましいです」

「そうかな? シンくん達だって、自分達で【トガルガ】を倒そうと思ってダンジョンで狩りをしていたわけじゃないんでしょ?」

「それはそうですけど」

「たぶん、私達もそんな感じのことが何回もあったんだよね。先に進めば進むほど、未知との遭遇になってくるでしょ? 撤退をしたり、そのまま戦ったり。はたまた【トガルガ】と遭遇戦になったり、ボス戦に挑んだりして沢山の経験を積んでいったんだよ」


 やっぱりそうだよな。

 そもそも、探索者としての歴が違うんだから経験の差があって当たり前だ。

 だけどそうじゃない。

 上手く言葉にできないんだけど、もはやそれ以前の……スタート地点からの全てが違っている。


「夏陽さん、言いたいことはわかるんですけど。でも、なんか、なんというか心がポッキリと折れちゃいましたよ」

「まあ~こればっかりは仕方がないよ。私だって、力の差を見せつけるためだけで一緒に居るわけじゃないんだよ? こうして会えたのも何かの縁ってことで、強くなってもらおうと思ってるんだから」

「それもありがたいことですし、こんな機会はもう二度と巡ってこないとわかっているんですけどね。なんかこう、目標を諦めるつもりはないんですけど、あまりにも差がありすぎて」


 毎日のように、夢は、目標はって言い続けていた。

 だけど、こうして圧倒的な実力差が明確になってしまうと……目指していると言葉にすることしたいが烏滸おこがましいようにしか感じなくなってしまう。


 食欲旺盛な夏陽さんと、食欲不振な俺という構図が全てを物語っている。


「その気持ち、私にもわかるよ」

「え?」

「ダンジョンでも話をしたけど、リーダーとの出会いがまさにそんな感じだったの。天才だってチヤホヤされていた私の心は、たぶん今のシンくんよりズタボロにされたよ」

「そんなことが……」

「うんうん。しかもね、他のメンバーも全然理解できなかった。シンくんは私を評価してくれているけど、当時の私はパーティの中で一番足を引っ張ってた自信があるね」


 夏陽さんは、きっと俺を励まそうとして話をしてくれているだけなんだって思っていた。

 だけど、明るい表情から笑顔が消えている。

 断言はできないけど、たぶん本当の話なんだと思う。


「その時は、本当の本当に気落ちしちゃってね。誰よりも目立って輝いていた自分が消えちゃった感じがして、さらに足を引っ張っちゃって。やるせない気持ちを吐き出せる場所も仲間も友達も居なくて、あーあって感じだったの」

「……」

「いろいろと気が付いたんだよね。今まで自分がどれだけ独り善がりだったかってことを。誰にも話せないんじゃなくて、話せる相手がそもそも居なかったんだって。――情けないよね。自分は凄い人間なんだって自意識過剰になっていたせいで、大切な仲間とか仲のいい友達がだーれも居なかったんだ」


 俺は少なくとも、夏陽かやさんみたいな天才ではない。


 だけど、その気持ちは理解できてしまう。

 努力してなかったわけじゃない。

 仲間を大切にしていなかったわけでもない。

 だけど、パーティを追放されて気づいた。


 孤独の辛さに気が付いてしまったんだ。


「でもさ、私の心をギッタンギッタンにしてきた張本人であるリーダーは、こんな私でも全てを受け入れてくれて、大切な仲間だって言ってくれたの。いろいろと複雑な気持ちではあったけどね。でも、少しずつみんなを仲間だって思い始めたらね、気づいたの。みんなはもっと前から私を仲間だって認めてくれてたんだって」

「いい人達なんですね」

「で、シンくんといろいろと話をしている内にリーダーと姿が重なるなーって思って。なんかいい感じに言葉に表せられないんだけど、たぶんリーダーみたいになれるよ」

「そんな、俺なんかが――」

「って思うじゃん? さっき、自分でも言ってたでしょ。『目標を諦めるつもりはない』って。普通がわからないけど、たぶん普通の人だったら目標を変えちゃうと思うよ」

「そう……ですかね」

「たぶんねっ」


 真面目な話をしている最中なのに、急に投げやりになるのやめてもらっていいですか。

 落ち込んで口角を上げることができなかったっていうのに、クスッと笑っちゃったじゃないですか。


「おっ、笑ったねぇ~」

「夏陽さんが急におかしなことを言い出すからですよ」

「でもさ、あの背中って追いかけがいがあるよね。私も、ずーっと追いかけてる」

「ですね。目標があまりにも高すぎて、見失わずに済みます」

「お~、その表現いいねいいねっ。せっかくだし、ここ数日の出来事はリーダーに報告しておくよ」

「え、いやいやいや! やめてくださいよ恥ずかしいですって」

「いいじゃんいいじゃん」

「ダメですって!」


 気が付けば、落ち込んでいた気分も持ち直していた。


 見失わずに済む目標――か。

 たしかに、上を向けばすぐに見つけられるんだから、今は下じゃなくて前だけを向いていこう!

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