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第12話『圧倒的な力を目の当たりにする』

 とりあえず見ていてと言われたんだけど。


「よし、行くよー」


 目に焼き付けておけって話なんだけど、夏陽かやさんだったらここら辺のモンスターは素手で倒せるんじゃないんですか? としか、思えないんですけど。


 どうせ移動中の感じでモンスターを討伐していくんですよね、わかりますよそれぐらい。


「よっ、よっ、よっ」


 って、さすがに意味がわからないんですけど。


 夏陽さんは剣で斬って、剣を投げて、抜刀して斬って投げて――を繰り返すだけじゃなく、地面に突き刺さった剣の方向へ向かいながら、また斬って投げてをしている。

 もはや意味がわからない。

 あの戦い方を理解するのなんて、あまりにも無理すぎる。


 蝙蝠型のモンスターは瞬く間に1体、また1体と姿が視界に入ったと思ったらほぼ一瞬にして消えていく。


「よよよっと」


 夏陽さんの声以外に聴こえてくるのは、剣が風を切っている『スッ』と剣が地面に突き刺さる『スタッ』という音しかない。


 動きもわけがわからないし。

 ヒョイっと飛んで着地したと思えば、バク転をしたりバク中のタイミングで剣を投げたりしている。

 曲芸をしているとも言えるけど、初見でも動きに無駄がないことがわかってしまう。


「おーっし、これで一旦おしまいっと」

「お、お疲れ様です」


 剣を回収するのも一連の動きで行っていたようで、ただこっちに向かって歩いてきている。


「夏陽さん、さすがに意味不明です」

「そうだった? いい感じに体を動かせたなーって感じだよ?」

「確認なんですけど、スキルは使ってないんですか?」

「使ってないよ~」


 薄々は勘づいていたけど、やっぱりそういうことですよね。


 そして思う。

 こういう理解不可能な人達が、まだまだ【暁天ぎょうてんの導き】には沢山所属しているってことだよね。


 俺、絶対に目標設定を間違えてるよな……ははっ……。


「ここら辺のモンスターにスキルを使ってもあんまり意味がないんだけど、せっかくだしお披露目しようか?」

「え。いやいや、スキルはできるだけ他の人に見られない方がいいって言っていましたよね」

「それはそうなんだけど。でもさ、私は成り行きだったとしても一方的にシンくんのスキルを見ちゃったわけでしょ? そして、交友関係を築きたいんだったら、こっちもスキルを見せるのが筋を通すってことじゃないかな」

「そう言われたら断ることができないですけど……たぶん夏陽かやさんのスキルを見たら、俺、絶対に肩を落しますよ」

「いや~、そんなことはないって。大丈夫大丈夫」

「落ち込む準備だけしておきますね」


 だってさ、夏陽さんの一説によるとスキルは心を現す的な話だった気がする。

 その仮説は、なんとかく納得できるものだった。

 なんせ俺のスキルは、みんなでいろいろと考察した感じだと鍛冶師としての素質的なものが反映されているからだ。


 だとしたら。

 夏陽さんと少しだけしか話をしていないから、それだけで判断するのであれば気さくで明るいお姉さん。

 そんな人のスキルは……全く予想ができないけど、絶対にそこじゃない。

 夏陽さんは自分で言っていた。

 自分は義道ぎどうさんと出会うまで、周りから天才とチヤホヤされていたと。


 考えるだけ無駄なのかもしれない、な。


「おー、話をしている間にちょうどいい感じにモンスターが沸いてるよ」

「うげっ、あっち側に20体ぐらい集まっているじゃないですか」

「だね~」


 さっき夏陽さんが戦いに行ってない、向かって左側の奥に蝙蝠が沢山集まっている。

 俺があそこに行くとすれば、途轍もないほど頭を回転させて全力で行かないといけないだろう。

 だけど、夏陽さんだったらひょいひょいっと討伐できそうだけど……スキルを披露してくれるんだから、ありがたく見させてもらうしかない。


「じゃあ行ってきまーす」


 夏陽さんは、陽気に駆け出す。


「――はい?」


 意味がわからない。

 夏陽さんがモンスター群に辿り着いたと思ったら、納刀していたはずの剣が一気に抜刀され、まるで県が意志を持っているかのようにモンスターを次々に斬り裂いていった。


 その間10秒未満。

 たったそれだけの時間しか過ぎていないというのに、夏陽さんは元の位置へ戻ってきてしまった。


「どうだったかな?」

「全然、全く、1ミリも、これっぽっちも理解できませんでした」

「ありゃ? じゃあもう一回だけ見る?」

「いいえ、たぶん理解ができないので大丈夫です」

「むむむ~。じゃあちょっとだけネタばらしをしてあげましょう」

「サービス精神旺盛なのは嬉しいんですけど、さっきから話が二転三転しすぎじゃないですか?」

「いいのいいの。どうせここには2人しかいないんだし」

「わかりました。誰にも言いません」

「まあまあ、そこまで硬く考えなくたっていいから。――それでね~。離れたところからだと剣が自動攻撃しているように見えたと思うの」

「はい。その通りに見えていました」

「実はね、それが正解なの」

「え」


 全自動で攻撃って強すぎません?


「正しくは、私が敵と認識した相手に攻撃するスキルであり、私に敵意を向けてくる相手に攻撃するスキルでもあり、私に危害が被る可能性のある攻撃を防ぐまたは受け流してくれるの」

「はい?????? 全くもって意味がわからないんですけど。いや、説明してくれた内容は理解できるんですけど、なんというかその、強すぎません?」

「だよねー」

「他人事すぎですね」

「ち・な・み・に、『認識している必要がある』と思われがちだけど、スキルを発動している時は視界とか聴覚を遮断されていたとしてもやっちゃってくれるんだよ」

「そのスキル、ヤバすぎません? どう考えても、無敵ってわけじゃないですか」

「まあ~、これだけ聴くとそうかもね。一応は弱点みたいなのもあるよ。だけど、今回は教えてあげられないんだけど」

「いいですよ、この先もずっと教えてくれなくて。聴いちゃったら、命を狙われそうな感じがしてきているんで」

「あっはは、さすがにそんなことはないでしょーっ。たぶん」

「今、たぶんって言いました? 言いましたよね? もしかして、スキルの説明を聴いてしまったから、これから何かあったりしませんよね?」

「ないないない。それだけは絶対にないから大丈夫だよ」

「よ、よかった……」


 でも、機密情報として扱わなければならない。

 口が滑って情報を漏らしてしまったら、命を狙われるかも……。


「じゃあそろそろ戻る? まだ続ける?」

「気分的にはまだ戦いたいですけど、有言実行といいますか。宣言通りに俺の自信はズタボロになりました」

「そうなの?」

「はい」


 そりゃあそうですよ。

 圧倒的な実力差があることぐらい理解しています。

 ですけどね、その想定している実力差をさらに離される光景を見せられたら、誰だってこうなりますよ。


「ということで、俺は陽の光を浴びたいです」

「オッケーっ」


 はぁ……。

 だけど、これに慣れないとダメなんだよな。

 こんな機会はそう多くない。

 今よりもっと強くなるためには、この貴重な時間を有効活用しなければならないんだ。


 数日もあるんだ、頑張ろう!

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