「ほほう、それは面白い。最近の若い子達は考えることが一味違うんだね」
「後で見返すための記録としても役立ったりするんですよ」
「なるほどなるほど」
目的地である第階層に辿り着いた俺と
当たり前の話だけど、【
だから、娯楽としての文化を知らなくても当然だ。
「いつでも始められるって話なら、これからやっちゃう? 私は全然大丈夫だよ。あんまりよくわかってないし」
「いやいやいや、それはマズいですよ」
「そうなの?」
「それはそうですよ。なんでそんな純粋な表情して疑問が浮かんでこないんですか」
「配信って、あんまりわかってないけどテレビとかと大体は一緒なんでしょ? だったら、別に困るようなことはないんじゃないかな? 別に、私は極秘で活動しているような人間じゃないんだし」
「俺はてっきり、情報漏洩を防ぐために配信活動をしていなかったり、動画ですらも情報として公開していないとばかり思っていたんですけど」
「ないないない。まあでも、今
「で、ですよねー」
機密情報というわけではないと思うけど、最前線ともなれば妬み嫉みの対象になる可能性がある。
それがただ抱いている感情で留まればいいものの、攻撃を仕掛けようとする人間がもしかしたら居るかもしれない。
みんなの憧れであるからこそ、ためになる情報発信をしてほしいところだけど、きっとそうも言っていられないんだろうな。
「というわけで、後からリーダーに怒られるのは嫌だからごめんね」
「いえいえ大丈夫です。一緒にパーティを組んで活動してもらっているだけで、まさに天からの贈り物って感じで超喜んでますから」
「そう言ってもらえると助かるぅ~。あっ、標的発見!」
「わかりました」
ふわふわと浮いているように飛んでおり、地場を這うモンスターよりスピードがある。
しかし攻撃力はかなり低く、基本的な攻撃はタックルや頭突きなんだけど、軽くボールが体に当たった程度の衝撃しかない。
威力がないそんな攻撃をカバーするかのように、高音の鳴き声で仲間を呼び寄せてしまう時がある。
だから、まず発見してとる行動はモンスターから気づかれる前に攻撃を仕掛けること。
「――行きます」
俺は駆け出して一気に合間を詰める。
「――ふんっ」
タイミングもばっちりで、背後へ上段からの振り下ろしの1撃で討伐に成功した。
しかし喜んではいられない。
仲間を呼び寄せる習性があるけど、そもそも仲間との距離が近い場合がある……けど、周りを見渡しても問題はなさそうだ。
「まだ!」
「っ!? ――った」
背中への軽い衝撃に、不意に大袈裟なリアクションをとってしまった。
そんなことをしている場合じゃない!
「はぁっ!」
すぐに振り返って、剣を横一線で薙ぎ斬った。
「一心くん、戻って」
「わかりました!」
夏陽さんの元へ足早に戻ると、両腕を組んでいる。
「一心くん、おっしいねぇ。最初の掴みは良し、戦い方も注意力も良し。だけど、油断はしちゃったね」
「……はい。返す言葉はありません」
「わかっているなら良し。じゃあ、なんで不意の攻撃を食らってしまったかわかるかな?」
「言い切る事はできませんけど、一度見たから大丈夫だと思ったからでしょうか」
「素直に言ってくれるのも良ーし! そうだね。心境は一心くんにしかわからないから、素直に言ってくれると改善もしやすい。考察の通りで合っているよ。人は、一度確認したところは『探したから』って安心しちゃうんだよね。いや、決めつけちゃうんだよね。もしかしたらそこにあったり居たりするかもしれないのに。ましてや確認しているのが自分だから、なおさらね」
「勉強になります」
そうだよな。
俺は今、言い訳ができないほどに油断をしていた。
もしも何かあった時には、夏陽さんが俺を助けてくれると思い込んでいたんだ。
情けない。
これがもしも1人だったらどうなっていたんだ? あの蝙蝠より強いモンスターが相手だったらどんな未来が待ち受けていたんだ? そんなの簡単だ。
死ぬ、それだけ。
「まあでもそこまで気にする事でもないから。そもそもがパーティでの戦い方に順応している一心くんが、ソロの時に意識しなくちゃいけないことを伝えたところで、いつ実戦に活かせるかわからないからね」
「……ありがとうございます。でも、俺達はまだメンバーの数がそう多くありません。少ないメンバーだからこそ、1人1人がちゃんと周囲を警戒していないといずれ大惨事になるかもしれません」
「たしかにそれはそうだね。3人それぞれがちゃんと意識していくことは大切だと思う」
それに、俺はパーティのリーダーなんだ。
みんなが居なかったから、なんて言い訳をしていたら後々で絶対に大変なことになる。
俺が冷静さを欠いて間違った判断をしてしまえば、全員の命を危機に晒してしまうんだ。
「お、今度は最初から難易度が高そうな感じになってるけど。行っちゃう? それとも、連携を前提に私も加勢しよっか?」
「いいえ、大丈夫です。1人でなんとかしてみせます」
「おっけー、頑張ってね」
目線の先に居るのは、蝙蝠系のモンスター4体。
そこから周りを見渡して、他に居ないことを確認。
これなら、最初の4体以外に仲間を呼ばれることはなさそう……という油断はしちゃいけないんだ。
俺には、残念ながら一気にあの数を相手することはたぶんできない。
でもそれは
「
「ん? 大丈夫大丈夫気にしない気にしない。無理なく、集中力を高めながら、でも確実にモンスターを倒せば問題なしだよ」
「わかりました。許可をくれてありがとうございます」
じゃあ早速。
握っている剣を鞘へ納刀。
「なんだろなんだろ、一体全体、何が始まっちゃうんだろう」
「行きます――」
俺は素手の状態で駆け出す。
普通の人であれば、こんな自殺行為は絶対に止められる。
だけど、今の俺には
「
声を大にして、スキルを発動。
すぐに半円状の結界が出現。
「さあ来い!」
スキル展開時の声で気が付かれ、さらに挑発してモンスターを誘き寄せる。
まだ終わりじゃない。
「出てきてくれ」
結界内で、剣を想像する。
そして、空中から武器を取り出すイメージを沸かせた。
「よし」
光剣が右手に握られており――。
『キュッ』
『キッ』
『キュキュッ』
『キューッ』
突進系のモンスターであれば、このまま結界へぶつかって1体ぐらいは砕け散る結界と一緒に倒せたんだけど。
蝙蝠系ということから、超音波的なもので結界を察知したのだろうか、ぶつかる寸前で4体全員が空中制御でその場で止まった。
だけど、そんなの別に関係はない。
「はぁああああああああああっ!」
結界の中からの横一線を描き――光剣は砕け散り、モンスターは4体とも一瞬で灰になった。
さっきの反省を活かして、結界の中から周りを見渡し、2週目もする。
どこにもモンスターは居ない。
安全を確認できたということから、結界外へ跳び出して去り際に鞘でコツンッと叩いて砕いておく。
そのまま
「凄い! 凄いね! 今の! いやー、凄いよ。スキルガチャをそんな序盤から回しているのも驚きだけど、もう使いこなしているじゃんっ」
勢いそのままに抱き付いてきそうな雰囲気を感じつつも、経緯を説明をする。
「――ということがありまして」
「ほほ~、なるほどね。ねえ
「いいや違うんですよ。全てが偶然っていうか、流されるままにやるべきことをやっていただけで!」
「あっはは、わかってるわかってる。だいじょーぶ。ごめん、ちょっとだけからかってみたくなっただけだよ~」
「心臓に悪いですから、冗談はやめてくださいよ」
本気で怒らせたと思っちゃったじゃないですか。
勘弁してくださいよ、俺は【
「じゃあとりあえず、階段まで戻って休憩にしよー。【トガルガ】まで倒しちゃうんだったら、いろいろと話しておきたいこともできたし」
「そうなんですか?」
「だね~」
「わかりました。じゃあ戻りましょうか」
「れっつらごー!」