「それじゃあまずはちょっとした作戦会議といこうか」
「お願いします」
ダンジョンへ入場した俺と
「まずは武器だけで戦う。ここら辺のモンスターだったら、問題なく倒せる?」
「はい、問題ありません」
「よしじゃあ、あの【ラッター】達を倒そうか。私も邪魔をしないように体を動かしているから、気にせずやっちゃって」
「わかりました」
腰に携える剣を抜刀し、【ラッター】へ標的を定める。
いつも通り、ぴょんぴょんと跳ねながらちょこちょこっと動き回っているから、跳ねて着地をするタイミングを見計らって攻撃――。
「はっ!」
『キュッ』
一撃で討伐。
もっと強いモンスターと戦ってた経験が活きているのか、つい数日前まで心臓が高鳴っていたのが随分と懐かしく感じてしまう。
余韻に浸っている場合じゃない、次だ次。
視線を横へ動かすと、ラッターが2体。
「いける」
今の俺なら。
「ふんっ、はぁっ!」
上段からの一撃、そこからすくい上げるように二撃。
『キュゥ』
『キュッ』
いける!
「っと、そこまで」
「――は、はい」
「まあね、ラッター相手だったら余裕って事だね。じゃあ次は第3階層でやってみようっか。体力はまだまだ大丈夫そう?」
「はい、全然大丈夫です」
「じゃあこのまま駆け抜けていくけど、
「わかりました」
たぶん剣を持ったままじゃ、置いて行かれるかもしれないから剣を納刀する。
「よーし、行くよ」
「はい!」
合図の後、走り出す。
今更だけど、
あまり見たことがない武器だ。
俗にいうショートソードという部類に入る武器だけど、定義がややこしい。
短剣も言い方を変えたらショートソードって意味なんだけど、曖昧な長さで区切られている。
ダガーやナイフは30センチ程度で、短剣もまた同じ。
しかしショートソードは30センチから60センチぐらいの剣身を持っている剣になる。
それにしても、俄かには信じがたい光景が目の前で起き続けている。
「……」
俺はモンスターを討伐するのに、標的定め、そこへ駆けたり跳ねたりして接近している。
それは、攻撃する時の剣に重みを乗せることで単純な攻撃力を上げようとしているからだ。
しかし夏陽さんは、ただ走りながらモンスターを次々に討伐し続けている。
走りながら攻撃の時だけ腕を振っているわけではなく、剣をまるでバトンを扱っているかのように手首のひねりだけで。
正直、全く理解ができない。
意味不明すぎる。
「え、あの数はどうするんですか」
「気にしない気にしない、走ることに集中して」
「――はい」
言われた通りにする。
すると、また発見してしまう。
夏陽さんの体には数本の剣が携えてあった。
両脇に2本・両腰に2本・腰に2本・背中に×印に4本・両腕に盾みたいに2本。
それぞれにベルトやガントレットなどの小さい装備と一緒になっているんだけど、わけがわからない。
全部が同じ長さってわけじゃないけど、そのどれもが俺の使っている片手直剣より短い。
触ってみないとわからないけど、そのどれもが軽量化されているだけじゃなく、耐久性にも優れているだろうに……そこまでして武器を所持する理由が気になってしまう。
「そろそろ階段だよ」
「はいっ!」
本当にどうなっているんだよ。
これが、圧倒的な力の差ということか。
それもそうか。
あまりにも距離感が近いからつい忘れそうになってしまうけど、夏陽さんは【
未到達領域のボスを討伐するような人達が、こんな序層のモンスターに対して力む必要もないということなんだろう。
笑っちまうよな、これじゃあどっちが怪物かわからないっての。
「――階段ぐらいはゆっくりと行こうか」
夏陽さんは息が上がっていない。
対する俺は、ラッターとの戦闘で体力をほとんど消耗していなかったとはいえ、早いペースで走りながら戦う夏陽さんから離されないように走って息が上がっている。
「どうだった?」
「正直……いまいちわかりませんでした」
「なるほどー、それは残念」
「本当に理解できませんでした。少なくとも、今の俺では真似ができません」
「ふむふむ。やっぱりさ、一心くんは凄いよ。合格点だよ」
「え?」
俺は今、疲れすぎて幻聴が耳に届いてきたのか?
「試すような感じになっちゃってごめんね。でも、成長の第一過程っていうのは『まずは自分ができないと自認する事』なんだって」
「それだったら、人一倍得意かもしれません」
「悔しがったり恥ずかしがったりしないところがまた良い感じだね」
「なんていうか、鍛冶師にになるための修業をしている時に師匠からそこら辺の気持ちは粉々にされちゃいましたから」
「それは大変だったね。ちなみに、この言葉はリーダーのなんだよ」
「え、そうなんですか?」
「うんうん。最初に出会った時は超ビビったけどね。何を失敗しても言い訳をせず、すぐに反省点を挙げて次のことを考えてるの。全部自分が悪いって言っている割に、全然落ち込まないの」
「それが成長の秘訣ってことなんですね」
「考え方っていうのかな。私も完全にはわかってないけど、強靭な精神力って感じだと思うけど」
何事もくよくよしている俺とは真逆すぎる。
「一心くんも、参考にする程度でいいと思うよ。私もそうだし」
「ですね。今聞いた話だけでそう思いました」
「ということで、次からは一心くんが戦う番ね。とりあえず、戦ってみよう。危なそうだなって判断したら、私が絶対に助太刀するから」
「わかりました。よろしくお願いします」
話をしていると時間の流れが速い。
あっという間に階段を降りきってしまった。
「よし、頑張って」
「はい!」