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第5話『偉業を成すという意味』

「はぁ……」


 ふと、部屋で独り思う。


 せっかくできた時間ではあるけど、今日だけはダンジョンに行くのをやめておこう。


 みんなと一緒に戦えるよう、1人でダンジョンに行ったり、体を鍛えたり、素振りをしたりしなきゃいけないっていうのはわかっている。

 だけど、それだけでもダメ……なような気がしてしまう。

 じゃあ何をするかって言うと、体を休め、日頃はダンジョンに行っているからできない情報収集をやってみようと思っている。


 午後3時。


「まずは、配信とか動画についてだよな」


 スマホを取り出し、ネットサーフィンを開始。


「他のダンジョン配信している人ってどんな感じなんだろ」


 我ながらに検索方法は下手くそだと思う。

 今だって【ダンジョン 配信】と検索しているんだから。


 だけどありがたい事に、こんな検索でも情報が出てきてくれるんだから助かる。


「えーっと……」


 現在、配信している人は10人程度。

 平日の昼間っていうのが悪いのか、かなり少ないように思う……といっても、そもそも視聴した事がないから普段はどれぐらいの人が配信しているのかわからないんだけど。


 そんな中から、とりあえず一番上のチャンネルをタップした。


『えぇ~。まだまだ採掘しなくちゃいけないみたいです』

「ほほぉ、この人はダンジョンで鉱石採掘とかを配信してるんだ」


 あ、チャンネル名に採掘配信って書いてあった。


『みんな~、私が危なくなったら絶対に教えてね。まあ、ちゃんと聞こえてはいるんだけどっ』

「へー! こうやってカメラワークを変える事もできるんだ」


 俺の中では『配信は自分が向いている側だけを映せる』だけ、だと思っていた。

 でも、このお姉さんは壁際にカメラ位置を設定して、採掘中の視界になる背中側を配信上で映している。


「音は聞こえているけど、コメントを観る事ができるからってわけか」


 新しい情報を仕入れることができてありがたいし、素直に納得してしまう。


「配信者はトークで視聴者と会話しながら、視聴者参加型の配信にしているってわけか。ははぁ~」


 しかし気が付けば、10分も配信を視聴していた。

 情報を勝手に貰っておきながらコメントを1つすらしないのは失礼とはわかっていても、新鮮な情報に飢えてしまい配信を閉じてしまう。


「ごめんなさい。ありがとうございました――次は……」


 このまま他の配信者のところへ行くのもあり。

 だけどふと、思った。


「せっかくこうやって時間があるんだったら、義道ぎどうさんの動画とかインタビューとかってあったりしないのかな。記事とかでもいいんだけど」


 こんなにすぐ情報を手に入れることができるのなら、有名人のものなら少しぐらいあっても不思議じゃない。


「くっ……自分の不慣れさが悔しい」


 尊敬し、目標にしている人物の事を詳しく検索したいというのに、今回も【暁天ぎょうてんの導き 義道ぎどう正成まさなり】としか検索をかけられない……。


「うお、ありがてぇ……」


 文明の利器に感謝。

 あっという間にいろいろな記事などが出てくる。

 だけど残念な事に、【暁天の導き】についての考察動画とかは出てくるけど、本人達っぽいものはたった1つたりとも出てこなかった。


「お」


 その中でも惹かれたのは、つい最近のインタビュー記事だった。

 美和みよりからの情報もあった手前、関心を抱くには1秒も必要がない。

 さっそく開いて記事に目を通す。


 一番最初には義道さんと記者が対面して座る写真が載っていた。


 文のまず初めに、『情報は整理している途中なので、詳しい内容は公表できない』という前置きがされている。


「写真まであるんだったら、動画とかにしてくれても良かったのになぁ」


 こんな愚痴を呟いても仕方がない事んだってぐらいわかっている。


 それに、義道さんの声を聴いた事があるし、顔や姿を観た事もあった。

 当然、ストーカーをしていたわけでも、追っかけをしていたわけでもない。

 鍛冶師の業界はそこまで広いわけではなく、少し無理があるかもしれないけど遠く離れた親戚みたいな距離感だったりする。

 直接会話をしたわけでも手紙を交換したわけでもないけど、師匠が義道さんの師匠と顔見知りだったようで、何回か工房などで見掛ける事があった。

 まあ、いつもいつまでも雲の上の存在って事には変わりがなかったわけなんだけど。


『大切なのは仲間を信じ、自分の力を把握して適切な場面とタイミングで使用する事』と、記事では語られている。


「やっぱりそうだよなぁ……誰もが当たり前だと思っている事を、それでも貫き通す信念。くぅ、かっこいい! かっこよすぎる!」


 つい最近、こんな俺にもその言葉が心に染みるほどの出来事があった。

 あの【トガルガ】との戦いは、間違いなく春菜はるな真紀まきが居てくれたおかげで勝てた。

 そして、2人を信じて託した結果とも言える。


 本当に、義道さんが言っている通りだ。


「どんな戦いだったかはわからないけど、確かにそうだよな。みんなスキルを持っているわけだし」


 スキルというのは、冗談抜きで強力なものが多々ある。

 いろんなスキルがあって、複数人も居るとなれば使い方も考えなくちゃダメだ。

 もしもスキルが暴発してしまえば、戦況が一気に悪くなってしまうかもしれない。


「全員が攻撃系のスキルだった場合、判断が難しくなってくるわけだよな」


 だからこそ思う。


「それをまとめ上げ、全員の指揮を一人で担っているってんだから、やっぱ凄すぎるよな」


 義道さんは、俺と同じパーティリーダー。

 それだけではなく、指揮官としての役割も果たしている。


「俺は2人に任せてしまったけど、義道さんだったらもっと上手に指示出しができてたんだろうな」


 歴戦の探索者と新米の探索者を比べてどうするんだ、というのは十分にわかっているけど、どうしても比べてしまう。

 義道さんを天才、という言葉で枠にはめたり、簡単に済ませる事はしない。

 だって、義道さんが努力している姿を鍛冶師という同じ目線で観ていた時があるから。

 努力の賜物っていうのはわかっているんだけど……まあ、年齢も違うんだし、そもそもが同じ土俵にすら上がれてないって事なんだけど。


「だけど、それが"偉業を成す"という意味なんだろうな」


 まだ見ぬ地で功績を上げ続ける事の偉大さを噛み締める。


「感心しているだけじゃダメなんだよな。戦略とか戦術とかも調べてみよ」


 記事はそこまで長くなく、すぐに読み終わることができた。


 なら、次にやるのは情報収集の続き。


「よし、やるぞ」

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