「どえーっ!」
前夜、俺俺は探索者組合で
その次の日、
美和と話をした通り、報酬の件と報告書に記入するために。
しかし事は起こった。
「こここここんなに貰って良いの!?」
「うん。これが正当な報酬ってことらしいよ」
俺がわけもわからない声で驚いているのは、報酬の件。
探索者組合に来たら、いつもはカウンターか施設内にある談話ができるスペースに座って話しをしていた。
だけど今回は関係者以外立ち入り禁止の場所へ案内されている。
美和からの説明は、今回の報酬がどうたらこうたらって話だったんだけど……ここにきて理解できた。
「1、10、100、1000――3000000円!? こ、これって本当に貰って大丈夫なやつなんだよね……?」
3人に手渡された書類に食らいつくようにして何度も数字を確認する。
視線を右に左に、何回確認しても数字の桁は同じ。
生まれてこの方、こんなお金の桁を見たのは初めてだ。
驚いているのは俺だけじゃない。
当然、両隣に座っている春菜と真紀も顎をアワアワとさせている。
「ええ、私も驚いているところ」
どうやら、いつも通りに平静を保っているように見えていた美和も同じらしい。
廊下で歩いている時に話を聴いたんだけど、美和は今回、先輩受付嬢の代役としてこの役割を任せられたようだ。
知り合いだから、ということで、経験を積ませてくれるという感じらしい。
「ま、まあ。【トガルガ】を討伐したらこれだけの報酬が支払われるってことね。しかも、2体も倒したってことはそういうことよ」
今思い返しても、あれらモンスターは本当に恐ろしかった。
外見だけじゃない圧が押し寄せ、手は震え、足も体重を支えているだけで精一杯だった。
あの時、俺1人だったら今頃は生きていなかっただろう、と簡単に想像できてしまう。
「でもたしかに、探索者の中には【トガルガ】を血眼になって追いかけてる人が居るって話は本当なんだろうな」
「理に適った話ではあるわね。討伐できれば、しっかりと報酬が支払われる。自分より弱いモンスターだったら、ラッキー。逆に勝てそうにもないモンスターだったら逃げればいいし」
「俺は絶対にやろうと思わないが」
「それが普通よ」
本当にその通りだよな。
俺は前回も今回も、どうやっても逃げられる状況ではなかったから戦った。
その結果、偶然にもスキルが大活躍してトガルガに勝利することができた。
今度、もしも遭遇したとしたら絶対に逃げよう。
「とりあえず、均等に1人当たり100万円ということで既に振り込んであるから。後は自由に使っていいんだって」
「な、なるほど」
こんな大金、あまりにも現実的じゃない。
いや、自分達の力で討伐したから正当な報酬なんだろうけど……もう既に自分のお金になっているんだけど、あぁー頭が混乱しそうだ。
「それと、トガルガを討伐した探索者はほぼ無条件で貢献リストに名前が載るから」
「え、マジ?」
美和は、ただ無言で頷いた。
貢献リストといえば、探索者であれば必ず目にするリストだ。
名前の通りで、『トガルガという危険な存在を討伐し、平和を守る貢献をした』という名目で存在している。
じゃあどこで見られるかというと、探索者連盟の入り口付近に掲示板があってそこで確認できる――だけじゃなく、探索者連盟のホームページからでもそのリストが確認できてしまう。
だから、簡単に言ってしまえば有名人の仲間入りということだ。
「しかも一番新しいから、かなり目につきやすいかもね」
「お、おぉ」
「まあでも良かったんじゃない? あの人と同じリストに載ることができて」
美和の言葉に、つい無意識に口角が上がってしまう。
「俄然やる気が出たって顔してる」
「そりゃあ、そうに決まってるだろ」
俺は、探索者になると決めたその日から目標が一度だって変わったことはない。
そして、【暁天の導き】みたいに活躍を轟かせてみたい。
ただ、それだけなんだから。
「正当な働きには、正当な報酬と正当な評価。ということね。3人とも、おめでとう」
「これ、本当に夢じゃないよな?」
「そうだよ」
久しぶりに、美和の優しい表情を見た。
言葉でも伝えてくれているけど、それは業務上のものではなく、いつかみた俺の嬉しいことを一緒に喜んでくれたあの時と同じ。
それも相まって、俺は今すぐにでもジャンプして喜びを露にしたい。
だけど、この落ち着いたオシャレな空間が、そんな子供みたいな行動を止めてくれた。
「――よしっ」
でも、小さな声で拳に力を込めるぐらいは許されるよな。
しかし喜んでいるのも束の間、美和は話題をガラッと変えてきた。
「じゃあ報酬とかの話はここまで。次は報告書だよ」
「それってどれぐらい時間がかかったりするの?」
「んー、30分ぐらい?」
「わかった」
てっきり、お偉いさんが同席して話を根掘り葉掘り聞かれるものだと思っていたから、緊張してただけ損した気分。
「まあ、時間通りに終わるかはやる人次第だけどね」
「え」
美和は、椅子の横に置いてあった薄い鞄から厚い書類の束を机の上にドカッと置いた。
完全に油断していた。
廊下では手に持っていた鞄から、たった3枚の報酬用の資料だけが入っているわけがない。
本命はここからで、この数十枚はある書類に目を通したり記入したりしなきゃいけないってことか。
「用事が終わったらご飯食べるって決めてたのに……」
「それは残念」
「これ、お昼までかかるんじゃない……?」
そう、俺達は午前中にここへ来る予定だったから、全員が朝食と摂っていない。
「じゃあ、早く終わるように頑張りましょうか」
「お、おう……」
「うわぁ~……」
「やるしかないってことね」