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第34話『体を動かした後でも食べすぎですよ?』

「さてさて、何を食べようかなっ」


 目標討伐数を達成した俺達は、予定通りに休憩している。

 しているわけだけど……。


「確かに休憩って予定ではあったけど、出発前にデザートを食べていたよね?」


 と、休憩という名の名目で入店したファミレスの店内で思う。


「でも、さすがにこの時間でご飯を食べないともったいないよ」

「まあそれもそっか」


 時刻は11時半。

 朝食は宿で摂ったし、さっき食べたのはスイーツだったしな。


 店内には俺達以外にもチラホラと座っている。

 俺達みたいに武器を携えている人も居れば、私服のみで休暇を楽しんでいるような人も居た。

 しかし驚いたのは、子供にしか見えない存在が居ること。

 察するに、住居らしき場所も高台から見えていたから、ここを生活拠点にしている人達もいるのだろう。


 ずっと地上で生活していた身からすると、一度たりとも想像したことがなかったことで、どこか新鮮だ。


「ダンジョン内生活っていうのも、そこまで悪くない感じはするな」

「わかる。私も、もっとお金を稼げるようになったらダンジョン内で2つ目の生活拠点を契約しようって考えてる」

「とかマキは言ってるけど、私には無理だなぁ」

「その気になれば春菜だってできるでしょ」

「そりゃあ、真紀みたいに節約とかができれば、でしょ。私には無理無理」


 そう言う流れになるなら、俺だったら確実に無理だって話だな。


「ちなみに一心くんの前では出してないけど、真紀って超が付くほどの節約家なんだよ」

「そうなの?」

「別にケチケチしてるわけじゃないわ。自炊したり、お金の管理をしっかりしているだけ。逆に言うけど、春菜がお金を使いすぎなだけ」

「え~、そんなことはないよ」

「一心はもう察してると思うけど、春菜は気分が赴くままに食べるのよ」

「あー、なるほど」


 ですよねー。


「え、え、え! 一心くんにそう思われちゃうぐらい、私って食べちゃってるの!?」

「いや逆に、晩食とか朝食で私と一心がご飯のおかわりをしていなかった中、春菜だけは2回はしてたでしょ。それを観た後、今日の食事頻度で察するでしょ」

「え! これって食べ過ぎなの!?」

「1日に3食とか2食とかが世間一般的だとは思うけどね。ね?」


 と、真紀は俺に目線を向ける。


「そうだな」


 と、俺は即答。


「1日って5食じゃないの!?」

「そう言う食生活の人も居るとは思うけど、春菜の場合は食べすぎなのよ。てか、よくそれだけ食べて太らないわよね」

「なんだかいろいろとわかってきた気がする」

「でしょ」


 普段はお気楽というか、破天荒というか、天真爛漫っていうか。

 とにかく明るく前向きな性格ってイメージだったけど、そこに天然っていう属性が付与されているんだな。


 しかしそこまでくると、もはや無敵のポジティブ人間ってこと? 強すぎ。


「それより早く注文しよーっ!」


 ふむ。

 今のやり取りをした後だというのに、こんな調子なのだから、そういうことなんだろう。




 ……。


 数分後、注文している時から察していたが……。


「一心くん、その目はなんですか?」

「いいえ、なにもありません」


 お金を全部出してもらっている身だからこそ、何も反論できない。

 し、しかし。

 テーブルの上にほとんど空きがないほどの料理が運ばれてきて、両手を上げて喜べるはずもない。

 体を動かして空腹時だとしても、さすがに疑いの眼差しを向けずにはいられないでしょうが。


 俺は真紀に目線を送れば、目で「ほら、言ったでしょ」と若干のため息を鼻から抜けさせて肩を落とした。


「それじゃあ、いただきまーすっ」


 春菜は幸せそうな表情を浮かべながら、スプーンでオムライスを頬張り始めた。


 それじゃあ、と俺と真紀も「いただきます」と声に出して食べ物を口に運ぶ。


「でも正直なところ、一心のスキルには驚いたよね」

「俺もそう思う。あんな使い方ができたことに驚くと同時に、春菜が考察した通りになるなんてな」

「私もビックリだったよー」


 スキルで出現させた武器を強化することができる。

 普通に考えたら、どうやったってありえない話だ。

 だけど、まさかのまさか。

 本当にできてしまった。


 じゃあもしかしたら結界の方も強化できるのか、という疑問も浮かび上がってくるが、そっちの方を強化したところで1撃で壊れるのなら意味がない。

 いや、もしかしたら2撃とか防げるようになったりするのか……?


「でもさ、今のところはどのモンスターも1撃で討伐できているから、強化されているような実感はわかないよな」

「ダンジョンが序層っていうのもあると思うよ。モンスターの強さもそこまでってわけじゃないし」

「それもそうだな」

「だからこれから行く第7階層とか、深くなっていくと実感が沸くのかも」

「なるほど」


 本当にそうなるとしたら、それ以外のことも意識しなければならない。

 今までのモンスターは、文字通り強くはなかった。

 だからこそ攻撃も容易にできたし、攻撃を簡単に防ぐことができたんだ。


 じゃあもし階層が変わったら、モンスターが強くなったとしたら。


 今まで通りに走って攻撃をする、だけの行程だけじゃ怪我をする。

 いや、もしかしたら致命傷を負ってしまう可能性だってあるということだ。


「くっそーっ! ったく、ふざけやってよ!」


 そんな、怒りの感情が込められている声が耳に入る。


 何事か、と咄嗟に振り返りそうになったが――少なくとも俺達に向けられたものでないことがわかる距離感だったため、やめておいた。


「あんまり穏やかじゃないわね」

「ダンジョンで上手くいかなかったんじゃないー?」

「ナンパを失敗した、とかね」


 春菜と真紀も気に掛けているようだけど……メンタルが強すぎる。

 俺は何かのトラブルに巻き込まれたくないから、と話題すらだろうとしていないのに、普通の声量で茶化し始めた。


「まあまあ、俺達も気を付けないとね」

「それはそう、だよね。私達も調子に乗っちゃった結果、あんな危険な目に遭っちゃったんだから」

「そうね。他人のことより自分達のことを気にしないとね」

「あ。いや、俺はそこまでは――」

「気にしないで一心くん。自分でもわかってるから。私は調子に乗っちゃう時もあるから、自己暗示っていうか、そういうのが必要なんだよ」

「私も、いつだって冷静な判断ができている。と、勝手に自負している節があるから、自分に言い聞かせるのは必要なんだよ」


 春菜と真紀が言っていることは正しいのだろう。

 だけど、こんな、反省させるような言い回しをしてしまったことは反省しないとダメだ。


「【トガルガ】がよぉ」


 仲間になだめられた男性は、落ち着いたことで男性従業員に席へ誘導されている。

 その歩いている最中に、気になる単語が耳に入った。


「……あんまり聞きたくない名前ね」


 真紀の呟きに、俺は聞き間違いでなかったと確信する。


「【トガルガ】が居るっていう情報を聴けたのは大きいけど」


 話に出ている【トガルガ】とは、簡単に言ってしまえば中ボスモンスター。

 でもいろいろ複雑で、何かの種の中ボスモンスターであるが、逸脱した存在になる。

 なぜかというと、通常の中ボスモンスターは下位モンスターを辺りに従えていて、基本的には場所を移動しない。

 当然、階層も。


 しかし【トガルガ】と総称されるモンスターは、行ってしまえば自由に動き回っている。

 ダンジョン内で常に注意しておかなければならないモンスターであるが、そういう存在がこれから先の階層には居るらしい。


「私達もまだ出会ったわけじゃないから、どんな存在なんだろうね」

「強さは他の中ボスぐらいって話だから、油断せずに戦えれば倒せないこともないんじゃないかな」

「いやいや、俺達がもしも出会ったら逃げる以外の選択肢はないでしょ」

「まあ、それが妥当な選択だと思う」

「だよねー」


 基本的に【トガルガ】は探索者協会では討伐対象として指定されている。

 討伐することによって特別報酬もあり、中級探索者はそれだけを求めている人もいるらしい。


 そして、初心者探索者は遭遇してしまった場合、逃げることを推奨されている。


「タイミング悪いなぁって思うけど、あの人達がどこの階層で遭遇したかによるよね」

「たしかにそれは気になるけど、あの感じは話したくない」

「真紀の意見に賛成」

「俺も同じく」

「それに遭遇報告をしているだろうから、すぐに討伐されるよ」


 しかしパッと視界に入った感じ、あの人達は俺達よりも戦闘経験がありそうな気配はしたけど、実際はわからない。

 一見しただけじゃわからないし、俺達同様に初心者かもだしな。

 中級探索者でも、初見とかだったら戦闘を避けるだろうし。


 俺達が遭遇したら、一目散に逃走するだけだ。

 それぐらいなら俺にだってすぐ判断できる。


「一応、確認するんだけど春菜」

「ん?」


 リスみたいに両頬を膨らませている春菜。


「この後って――」

「それは当然、食後の休憩としてデザートを食べに行くよ?」

「え」

「やっぱり」


 俺は思わず心の声が漏れたけど、それとなく予想はしていた。


「だって、こんなに食べた後だとすぐに動けないじゃん!」

「それを注文した本人が言ってるのはおかしいと思うけどね」

「だっておいしそうだったんだもん!」

「春菜、本当にそれでいいの?」

「え? なにが?」

「今、完全に大食いキャラになってるわよ。ね? 一心」


 真紀は俺に視線を送ってきた。

 女子に対して、ここは首を横に振るべきなのだろうが……。


「うん」


 と、首を縦に振った。


「えーっ!」


 いやいやいや、それはそうでしょ。

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